第157話
セイレム市は共和国最大級の町であり、冒険者ギルドセイレム支部は共和国の総本部としての役割も有している。
規模が大きくなれば、出入りする人々が多いことは道理。そして、人々の出入りが多くなれば、その建物も自然と大きくなる。
「でかぁ……」
感嘆の声を上げるクロの隣で、ルシアも「ほへー」と間の抜けた声を漏らしている。
「まあ、初見だとそういう反応になるか。僕も最初はそうだったね」
腕を組み、うんうん頷いているアルト。
「秋雨さんはあまり驚いてないみたいですね?」
秋雨があまり驚いていない様子が気になったのか——ルシアが不思議そうに言う。
ゾティークにおいて、目の前のセイレム支部は確かに巨大建造物と言っても過言ではないだろう。
しかし、それはあくまでもゾティーク基準での話。
東京都庁や高層タワーマンションなどの建築物を見慣れている秋雨にとっては、感嘆するほど驚くものでもない。
「あー、俺の世界だとこれより大きい建物は当たり前にあるんだよ。この規模だと……地元の市役所くらいか?」
そんな言葉に三人は首を傾げつつ、少なくとも秋雨の世界では珍しいものではないことだけは理解できた。そうなると、どんな世界なのかが気になるのは仕方ないだろう。
「お兄さん! これより大きい建物って、どんなものがあるんだ?」
「どんなものって言われると説明に困るな。高さがこれの倍以上の建物があるな」
恐らく目の前のセイレム支部は地上八階建て程度の約30メートル。高層タワーマンション規模だと60メートル以上がザラだ。なお、東京タワーは333メートルだ。
きっと東京の街並みを見た時、卒倒するんだろうな——と秋雨は言葉にしないが、内心で思う。
「うっそだぁ」
なお、クロはどうやら信じていないらしかった。
その気持ちは理解できなくもないので、秋雨は特に何かを言うつもりもない。
「立ち話もなんだし、ルビスさんと面会しようか」
アルトはそう言って、ギルドの入口へと向かって歩き始める。
秋雨たちもその後を追う。
扉を開け、ギルドへと足を踏み入れた途端——その場にいた人々の視線が一気にアルトへと向いた。
(なるほど、剣帝の名は伊達じゃないってことだな)
そう思いつつも、その視線が自信の方へ向いていないことに、秋雨は内心ホッとする。
アルトはそんな視線に気後れすることもなく、受付へと真っ直ぐ向かう。
「すまない。ギルドマスターのルビスさんとの面会は可能かな?」
受付の女性へアルトは問う。
同時に横から秋雨が紹介状を差し出しながら口を開く。
「スローファル支部の支部長バスクさんからの紹介状です。お手数ですが、お繋ぎできますか?」
女性はそれを受け取ると「少々お待ちください」と慌てた様子で奥へと引っ込んでいく。
「さて、僕の知名度と紹介状があれば、そう時間は掛からないだろうね」
「そうじゃないと困るんだけどな」
周囲からの好奇の視線に晒されること数分——奥から女性が戻ってくる。
「お待たせしました。応接室でマスターがお待ちです」
「よし、じゃあ行こうか?」
アルトは応接室の場所をしっているのだろう。そそくさと足を動かし始める。
秋雨たちはその後を追って、歩き始めた。




