第154話
周囲が沸く中、何処からともなくフラっとアンネリーゼが姿を現す。その表情は心底愉快そうにニヤニヤしている。どうやら遠目で秋雨とアルトの戦いを眺めていた様子だった。
「やっほー、秋雨君。中々、興味深い戦いだったんじゃないのぉ?」
「……面倒なだけだよ」
「ふーん? ま、この程度に負けてもらうと私が困っちゃうけどねぇ?」
「この程度の奴にぶった切られたって話してなかったか?」
呆れ気味に秋雨が反撃紛いに問うと、アンネリーゼがニヤッと笑みを浮かべる。
「そうだねぇ。まぁ、魔剣の能力を測れなかったこと、手を抜いていたことが原因だねぇ。ほら、『千匹の仔を孕みし森の黒山羊』は使わなかったしねぇ」
それは手を抜いてるな——と秋雨は真顔になった。何よりも手負いで逃げ切ったあたり、アンネリーゼもそれなりに余裕はあったのだろう。まあ、そもそもアンネリーゼの種族自体の特性もあるのだから、斬られた傷も大した意味は成していなかったのだろうが……。
「それにしても六花絢爛だっけ? この術を使う必要ってあったのかなぁ?」
「……何が言いたい?」
「別にぃ? 秋雨君なら一瞬で片付けることできたんじゃないのかなぁって思っただけだねぇ。だって、この剣帝君の実力って正体面だった時の勇者君程度でしょ?」
「さあ、どうだろうな」
秋雨の澄まし顔にアンネリーゼは「へぇ?」とニヤニヤしている。
そんな最中、戦いを見守っていたクロとルシアが秋雨の元へとやって来た。
「流石っス、お兄さん! それよりも剣帝を凍らせた術ってなんなんだ?」
「クロ、秋雨さんに迷惑だから詰め寄らない」
秋雨へと詰め寄ろうとするクロの襟を掴み、制止しようとするルシア。相変わらずの姉弟仲だ。
「氷之業ってヤツだ。一応は水之業から派生したもので、俺が生み出したのか?」
「そうだねぇ。ちなみに記念すべき一発目は私が受けたんだよぉ?」
相も変わらずサラッと周囲にとっては衝撃なことを発現するアンネリーゼ。
秋雨とアンネリーゼの間柄を多少なりとも聞き及んでいるクロとルシアも、それには目を白黒させる。
「……なんでアンネリーゼはお兄さんと行動しているのか不思議なんだけど?」
クロの疑問は御尤もである。
「どうしてだろうねぇ? まあ、いろいろと事情があるだけだねぇ」
「どんな事情なんですか?」
「俺の師匠の鶴の一声ってヤツだよ、ルシア」
秋雨はゲンナリしながら言う。
——と、倒れていたアルトが周囲の人々によって担架で何処かへ運ばれていく。
「あの感じだと今晩は目覚めないかもねぇ?」
「まあ、そうなるように打ち込んだから、起きられても困る」
「でも、目覚めてからが鬱陶しいかもよぉ?」
アンネリーゼは「やだねぇ」と言いながら、手をヒラヒラと振る。
「そうなった時は適当にあしらうよ」
「そっかぁ、ま、頑張ってねぇ?」
あくまで他人事のようにアンネリーゼは秋雨にエールを送った。




