第152話
仕切り直しとなって最初に動いたのはアルトだ。
地を蹴り、秋雨へ向かって一気に突っ込んで来る。そして、下段からその手の魔剣を秋雨へと向かって斬り上げる。
秋雨は即座に反応し、氷刃刀で完全に受け切って見せた。
ガリガリという氷の削れる音が鳴る。
「どうやら君は僕が思っていたよりも強いみたいだ」
「そいつはどうも!」
押し合いへし合いしていた状況を、秋雨は力づくに押し込み、アルトを突き飛ばす。
態勢を崩したアルトだが、その口が何かを唱えている。
瞬間、何処からか複数の刃のついた円盤が回りながら秋雨へと向かって飛ぶ。
「……面倒な」
後方へ飛び退き、迫る円盤を秋雨は氷刃刀で弾き飛ばし、術を行使する。
水之業・陽型——水天球、変形・水串。
秋雨の頭上に直径二メートル程度の水の球体が顕現し、そこから数多の水の槍が鞭のようにしなりながら、飛んでくる円盤を全て弾き飛ばす。
水串は自動照準。円盤は皆串にすべて任せ、秋雨はアルトへと視線を向ける。
手を前に翳し、更に術を行使する。
水之業・陽型――水轟砲。
圧縮された水の砲撃がアルトへ向かって飛ぶ。
「っ——同時にふたつの魔法を発動だって⁉」
「魔法じゃねぇよ! 勝手にアンタの常識に括るんじゃない」
しかし、アルトは迫る水轟砲を回避するのではなく、魔剣の剣身に力を込め、正面から裁断してみせた。
どうやら一定水準以上の強者であることは確かのようだ。
「君はあの勇者よりも強いみたいだ」
「…………勇者といつ戦ったかは知らないが、今のアイツならアンタ程度難なく倒せると思うけどな?」
「————なんだって?」
秋雨の言葉に、アルトの蟀谷がピクリと動く。
どうやらアルトは勇者に勝利したことを絶対の誇りとしているらしい。確かにゾティークにおいて勇者である奏多は最強の一角。そんな存在を倒した事実だけでも、この世界では拍が突くのだろう。
しかし、それは東京会談を越える前の奏多の話。
あの戦いを越え、何よりも頂点捕食者との戦いを経験した奏多は、ゾティークで魔王を討った時よりも強くなっていることは間違いない。
少なくとも秋雨はそう確信している。
「僕が勇者よりも弱いと?」
「さあ? だが、アイツは成長しているはずだ。アンタみたいに過去の栄光に縋ってはいないだろうな」
秋雨がそう断言する。
すると、アルトの顔がみるみる赤く染まっていく。それは怒りからの紅潮だった。
「……舐めるなよ! 僕は勇者よりも強い!」
アルトが怒鳴る。
「僕はこの世界で最強の存在なんだ! あんなポッと出の奴とは違う! 僕は魔剣を有する剣帝。君や勇者とは格が違うんだよ!」
突然エキサイトしだしたアルトに、秋雨は呆気に取られた。
しかし、アルトが勇者に——いや、異世界転移組になんらかのコンプレックスを抱いていそうだ。
「アイツらさえいなければ、僕が……魔王を討伐していたはずだ」
「……は、はあ?」
「アイツさえいなければ、僕が英雄だった。なのに僕に負けたアイツが英雄だって? 冗談じゃない!」
アルトの叫びに、周囲は——特に酒場にいた者たちは「また始まった」と言わんばかりの顔をしている。
「良いだろう。君は僕の手で討たせてもらう。この魔剣シャープネスの力で!」
途端にアルトの手にある魔剣へ魔力が収束していく。
秋雨は冷静にその様子を観察する。
「それが斬れば斬るほど斬れ味が増す魔剣の力か?」
「ああ! さあ、足掻いてみせると良い!」
「…………面倒臭いなコイツ」
熱くなっているアルトを前に、秋雨は唯々気怠そうに氷刃刀を構えた。




