第151話
酒場を出て直ぐにはお誂え向きの広場。
秋雨とアルトは向き合うように広場の中心に立った。
周囲には酒場にいた人々は勿論、騒ぎを聞きつけた人々によって、あっと言う間に人集りとなる。
——と、そんな騒ぎを聞きつけたクロとルシアが秋雨の元へと走ってやって来た。
「お兄さん、何の騒ぎなんだ⁉」
「そうですよ、秋雨さん! 何があったんですか⁉」
やんやんと捲くし立てて来るふたりに困り顔を浮かべつつ、秋雨は目をアルトへと配らせる。
「面倒なことに、アイツが絡んできたんだよ」
心底ゲンナリとした様子で言う秋雨。
ふたりはニコニコしながら立つアルトへと顔を向ける。
「へえ? 君が彼の仲間かな? うーん、彼ほど楽しめそうにはないけど……彼が戦わないのなら、君たちで遊ぶのもやぶさかじゃないね」
「……黙ってろ、戦闘狂め。クロ、ルシアは下がってろ」
秋雨の言葉に頷いて、ふたりは野次馬の集まる方へと退避する。
そんな秋雨の様子にアルトが満足そうに口を開く。
「やる気になったかい?」
「なるワケないだろ。アンタみたいな戦闘狂は唯々嫌いだよ」
「はっはは。まあ、君の好き嫌いはどうだって良い。ただ、僕は君と戦えれば良い」
アルトは片手で剣を握り、自然体で立つ。
秋雨は怪訝な表情を浮かべる。
「さあ、来ると良い」
自身の強さに絶対の自信があるのか、アルトは秋雨に先手を譲ってきた。
魔剣を手にしている故の自身なのか、それとも勇者である奏多に勝利して増長しているのか——アルトの表情には余裕があった。
(完全に舐められてるな……)
秋雨は冷静にアルトを観察しながら、そう睨んだ。
この世界において、秋雨には奏多のような勇者という肩書はない。また、他の異世界組のように活躍した実績がないこともあり、秋雨は無名の存在だ。
そうなれば剣帝という異名を持つアルトからすれば、秋雨もそこら辺の有象無象でしかないのだろう。
「……はぁ、まったく面倒極まりないな」
溜息交じりに秋雨は呟いた後、タンと地を蹴った。
同時に水の弾ける音が響く。
水之業・陰型――水鏡渡り。
秋雨の姿は一瞬にして、アルトの背後に移動していた。
更に秋雨の手には氷の刀が握られている。
氷之業・陽型――氷刃刀。
氷の刃がアルトの首筋へと奔るが、寸前でアルトは前へと飛び退き、転がるように距離を取った。
「っ——随分といきなりじゃないか?」
表情を取り繕いながら、アルトは言う。
しかし、そんな彼の背筋には冷たい汗が伝っていた。
「ちっ! 勘が良いな」
秋雨は舌打ちしながら毒吐く。
当然、殺す気はない。ただ、首の薄皮一枚斬ってやろうと思っていただけ。
秋雨の動きを見ていたクロとルシアは表情を明るくしていた。特にクロは興奮を隠せないでいた。
「流石だぜ、お兄さん! って言うか、あの瞬間移動はなんなんだ⁉」
今回がふたりに対しての水鏡渡り初披露となった。
先ほどまでの余裕は何処へやら、アルトは硬い表情を浮かべながら剣を構える。
「今のは魔法じゃないね?」
「さあ? それを素直に答える義理があるとでも?」
アルトの問いに秋雨はバッサリと斬り捨てる。
そして——、
「剣帝だか何だか知らないが、喧嘩を売ったのはアンタだ。高くつくぞ」




