第150話
アンネリーゼが蜥蜴人間の亡骸を量産した場所から目的の中継地点の町までは、ちょっとした魔物の襲撃があった程度で特に大きな問題は起こらなかった。
町に到着した時間はちょうど夕暮れ時、チオビタがよく利用しているという宿で部屋を取り、今はそれぞれ自由に時間を過ごしていた。
クロとルシアは夜の町へ散策。今のふたりの実力なら町にいるゴロツキ程度は難なく対処できるだろう。
アンネリーゼは何処でなにをしているのか——秋雨も聞いていないため不明だ。まあ、今の彼女なら大それた事はしないだろうと思う。
さて、そんな秋雨は情報収集も兼ねて酒場へ足を運んでいたのだが、そこでひとりの青年に目を付けられていた。
「君からは勇者カナタと同じ匂いを感じるね」
銀髪、翠眼が特徴的な青年だ。しかし、その佇まいから唯者ではないことだけは明らかだった。
秋雨は青年の腰に差さっている剣に視線を向ける。間違いなく唯の剣ではない。鞘に収まている故に気配は微弱だが、それは間違いなく魔を宿した剣だろう。
剣に向けられた視線に気づいたのか、青年は興味深そうな様子で口を開く。
「へぇ、わかるのかい?」
「わかるもなにも……」
「勇者カナタと同郷の者と見た。ならば、君の実力も相当なものだろうと見るが——いかがかな?」
青年は挑発的な声音で問う。
嫌な予感がする——秋雨は直感的にそう感じた。
「……アンタ、かの有名な剣帝だな? 確か勇者カナタに勝利を収めたっていう……」
「ああ、そうさ。僕がアルト・ハウゼン。剣帝と呼ばれている者さ」
剣帝アルト・ハウゼン。敵を斬れば斬るほど斬れ味が増す魔剣を持つ者。そして、アンネリーゼにもそれなりの一撃を与えたことのある強者。
「さて、僕の質問に答えてくれないかい? 君はどの程度の実力を有している? 勇者カナタよりも強いのかな?」
「さあ? 何を基準に強さを測るのかによるんじゃないか?」
「ふむ……なるほど。君はそういう感じなのか……」
その時だ。
秋雨の首筋へ向かって黒い一閃が奔る。
咄嗟に後方へ跳び、その一閃を秋雨は回避する。
突然の抜剣に酒場にいた者たちの視線が集中する。が、その大半が「またやってるよ」くらいの生暖かい視線だった。
「っ——アンタ、何しやがる⁉」
「へぇ? 動体視力は充分みたいだ。どうやら僕の観察眼は外れていなかったようだ」
手に持つ黒い剣の切っ先を秋雨に向けながら、アルトは外へ出るように視線を動かす。
「……ふざけんな!」
「ふざけてなんていないさ。ただ、僕は強者と戦いたいのさ」
「それがふざけてるって言うんだ。突然、剣を抜いたかと思えば、外にだろだって? 誰が従うと?」
「いいや、君は従わざるを得ない。もし、僕に逆らうのなら——町を散策しているふたりで試しても良いけど?」
瞬間、秋雨は目を細める。
それを見たアルトは心底楽しそうな表情を浮かべる。
「どうだい? 少しはやる気になったかな?」
「ふざけたことを抜かすな。アンタ、何が目的だ?」
「行ったはずさ。僕は強者と戦いたい。君は間違いなく、僕がいつか戦った少女と同格くらいの強者だ」
いつか戦った少女——秋雨は内心で舌打ちをする。
「さあ、表に出よう。君の実力を見せてくれ」




