第147話
村を出発してから二日目のお昼頃。
アンネリーゼが眉間に皺を寄せて、何やら神妙な表情を浮かべていた。
「何か難しそうな表情をしていますね?」
「そうだねぇ、ルシアちゃん。ちょ~っと、嫌な気配に私たちが近づいて行ってるんだよねぇ」
アンネリーゼの言葉に、秋雨が眉を顰める。
「嫌な気配? 収獲者か?」
「違うねぇ。この感じはたぶん蜥蜴人間だねぇ」
蜥蜴人間。それはルクシャ・ハーナの眷属だ。
今、秋雨が進んでいる道は共和国内であり、少なくとも帝国ではない。
しかし、帝国に手を貸しているルクシャ・ハーナの眷属がいるとはどういうことなのか?
「何処から湧いて来たんだろうねぇ? まぁ、相手は頂点捕食者の眷属だから、移動方法くらいは何かしらあるものかなぁ」
「……回避した方が良いか?」
「どうだろうねぇ。所詮は眷属だから、正面から叩き潰しちゃうのもアリだねぇ」
「ルクシャ・ハーナに知られるんじゃないのか?」
秋雨の懸念に、アンネリーゼは呆れた様子で首を横に振る。
「もう気付かれているから気にするだけ無駄だねぇ」
「……マジかよ」
「まあ、どうするかは秋雨君に任せるよぉ」
あくまでも選択は秋雨に委ねるあたり、アンネリーゼは本当にどちらでも良いのだろう。
秋雨は地図を広げる。
「今は大体このあたりか? このまま進んむと接敵はいつぐらいになりそうだ?」
「うーん……夕暮れ時くらいかなぁ?」
その言葉に秋雨は天を仰ぐ。
夕暮れ時の接敵。状況によっては戦闘中に夜となる可能性もある。そうなると面倒なことこの上ない。
チオビタを含め、荷車を守ることも考えると正面からの接敵は明らかに悪手だ。
「経路の変更はできるか?」
「どうだろうねぇ。もしかすると向こうには気付かれている可能性もありそうだねぇ」
アンネリーゼが向こうを感知しているのであれば、眷属とは言え向こうも此方を感知している可能性は大いにあり得る。
そうなってしまえば経路を変更したところで意味を成さないかもしれない。
しかし、感知しているからと言って、秋雨たちを襲って来るとは限らない。
或いは——、
「これ以上進まずに、このあたりで野営して様子を見るか?」
秋雨の言葉に、アンネリーゼが右手の人差し指を立て「ちっち」と指を振る。
「そんな面倒臭いことはしなくて良いんじゃないかなぁ?」
そう言ったアンネリーゼが立ち上がる。
「……アンネリーゼ?」
「ちょっと頂点捕食者としての格の違いを見せつけて来るよぉ」
「————は? いや、ちょっと待て⁉」
「じゃ、行って来るねぇ」
アンネリーゼはそう言い残すと、動いている荷車から飛び出すと、黒い雲に乗って飛び去って行く。
そんな彼女を見送ることになってしまった秋雨は溜息を吐きながら、蟀谷を摘まむ。
「勝手なことをするんじゃない」
その呟きにルシアが苦笑を浮かべる。
「ま、まあ、アンネリーゼさんにも考えがあるのでしょうし……」
「いや、アレは何も考えてないぞ。単純に暇だから良い遊び相手を見つけたくらいにしか考えていないはずだ」
あんまりな良いようにルシアは苦笑を浮かべるが、それを否定できる根拠もない。それどころか一理あると思えるだけ、ルシアは困ってしまう。
「大丈夫でしょうか?」
「心配するだけ意味ないぞ。基本的にアイツを倒せるのは同等のヤツだけだからな」




