第146話
情報収集に一日を費やした翌日の朝。
村の子どもたちに見送られながら、秋雨たちは村を出発した。
アンネリーゼを引き留める子どもたちが多かったが、当の彼女は「できないねぇ」とヌルっと無慈悲に言い放ち、余韻も糞もなかった。
女子よりも男子の表情が悲しみに溢れていたような気がするが、秋雨は見なかったことにした。きっとあの男子共はいろんな意味で将来苦労するだろう。
村から次の目的地である町までは三日ほどの道のり。何事もなければ良いのだが……。
「アンネリーゼさん、随分と子どもたちに気に入られていましたね」
ルシアがにこやかなに言うが、秋雨は神妙な表情を浮かべて口を開く。
「そのせいでいろいろと心配だけどな」
「どういうことですか?」
「…………まあ、魔性ってことだよ」
当のアンネリーゼは荷車の固い床の上で眠りこけている。
睡眠が不要と言っていた割にはよく寝る女である。
「次の町まで三日なんだろ? 退屈だなぁ」
クロは「うへー」と退屈そうな顔で言う。
「魔物の襲撃がない間は術の出力を上げる修行だな」
「あー、アレ疲れるんだよなぁ」
「反復修行で術の威力も上がるんだ。疲れるのはわかるが、場所を取らずに鍛えられるんだから良いだろう」
秋雨はそう言うとクロは「そうだけどさぁ……」と言いながら、出力を上げる修行を始める。
それは内にある力の奔流を意識しながら、ひたすら瞑想を続けるもの。
両目を閉じ、クロは口を固くを結び、座禅を組んだ。
何だかんだと愚直に向き合うところはクロの良いところだろう。
「ルシアは良いのか?」
「わたしは寝る前に行いますので、大丈夫です。ところでアルズベリィへの経路はどうするのですか?」
その問いに秋雨は難しい表情を浮かべる。
「安全性を考えるのなら帝国を突っ切る方なんだが……」
「今の時勢で帝国からアルズベリィへの入国は難しいでしょうね」
「ああ、海路は帝国の睨みが厳しいらしい。と、なれば狂気山脈になるんだが、村長が『まだ海路の方がマシ』って言ってたんだよなぁ」
あの村長だが、村人たちの話を聞く限り、若い頃は指折りの冒険者だったらしい。それこそ、数多くの難題クエストを達成してきた猛者であり、歴史にも名を残せるほどの英傑とのこと。
確かにあの話しぶりだと狂気山脈に足を踏み入れたことがあるのだろう。そして、そんな場所を生きて潜り抜けたのかも知れない。
「海路は逃げ道がなくなりますので、あまり良い選択肢とは思えませんね」
「まあ、それはそうだな。そうなるとなぁ……」
「結構な悩みどころですね」
「ああ。ま、そのあたりは考えておく。しかし、あまりにも長閑だな」
荷車から外の風景へ視線を向ける。
程よい陽射しと鳥の囀り。あとは地面を転がる車輪と荷車を引っ張る馬の足音が響いていた。
「平和な方が良いですよ」
「それはそうだ。ま、帝国の侵攻に、正体不明の魔物——この世界の平和も怪しい感じだな」
その言葉にルシアは頷いた。
「ま、何もない間はゆっくり過ごそう」




