第145話
昼食の後、秋雨はアンネリーゼと共に村を歩きながら聞き込みを行う。
そんな最中、外部からの客人が物珍しいこともあったのか、村の子どもたちに囲まれて遊びをせがまれたりした——主にアンネリーゼだが……。
この女はどうしてか男子女子問わずに人気がある。
女子に「お姫様みたい」と目をか輝かせ、一部の男子は残念なことに性癖が捻じれてしまったかもしれない。
子どもにはいろんな意味で刺激が強かったのだろう。
そんなアンネリーゼを呆れ半分、注意半分に、秋雨は側のあった木の根元に腰を下ろして眺めていた。
「ほっほほ、村の雰囲気はいかがかな?」
白い顎髭を蓄えた老人が秋雨の隣に腰を下ろしながら問い掛けてきた。
「村長さんでしたか。まあ、良い雰囲気ですね」
「永住はどうかの?」
「それは難しいですね」
秋雨は困り顔で答えると、村長は「ほっほほ」と笑う。
「冗談じゃよ。勇者様の知り合いとなれば、同郷なのじゃろう?」
「はい……って、そんな話しましたっけ?」
「チオビタ殿にお伺いしたんじゃよ」
なるほど——と、秋雨は頷く。
「アルズベリィを目指すのじゃろう? あまりにも危険な道のりになろうて」
「わかってます。ただ、そのために俺は此処に来たんで……」
「ほっほほ、勇ましい限りじゃ。知っているとは思うが、海路は帝国の支配下じゃ、逃げ道はない。そうなるとアルズベリィへの道は、帝国本土を突っ切るか、狂気山脈を越えるかじゃの」
「どちらがオススメですか?」
「どちらもオススメできんの。ただ、どちらかを選ぶのなら帝国を突っ切るべきじゃの。海路だと逃げ道はないと言ったが、狂気山脈は選択肢に入らんの。狂気山脈へ足を踏み入れるくらいなら、海路の方がまだ良いじゃろう」
時折話題に上がる狂気山脈。
誰もがその地を恐れ、敬遠していることは明らかだった。
アンネリーゼも狂気山脈に生息するオルドを警戒していたこともあり、それだけ危険な地であることは嫌でも理解できた。
「それだけ狂気山脈……オルドは危険ってことですか?」
「知っておったか」
「名前だけです」
「オルドを危険で済ますには言葉が足らぬ。アレは常識外の存在じゃ。遭遇しない方がよっぽど良い」
村長は遠くにいる誰かを見るような目をしながら言う。
「……オルドと遭遇したことがあるんですか?」
「ああ——アレは正真正銘の化物じゃよ。精神が壊れなかったことだけ奇跡みたいなものじゃ」
「……最悪、狂気山脈を越えることも選択肢には入っています」
「じゃろうな。海路の方がマシとは言え、船を進んで出す者はおらんじゃろうて。帝国を突っ切るにしても、噂のルクシャ・ハーナの威光がある以上は容易くはないじゃろう」
ルクシャ・ハーナの膝元を行くか、危険過ぎる狂気山脈を行くか————どちらにしても厄介でしかない。
「ま、お主もあの少女も、少なからず勇者様よりも実力が上であることはわかる」
子どもたちと戯れているアンネリーゼを眺めながら、確信しているような様子で村長は言う。
「特にあの少女はオルドと同系統の存在じゃろう。恐ろしい限りじゃ」
身震いしながら村長は冗談めかしに言った。
「まあ、アイツはヤバい奴ですよ」
「ほっほほ。お主も大概のようじゃがの」
村長はカラカラと笑いながら、秋雨の背中を叩いた。




