第142話
ベッドの寝心地は非常に良く、朝の目覚めは快調であった。
今日一日は村内での情報収集と補給——とは言え、大枠の情報はチオビタによる収集できているため、今日に関しては周囲の環境変化が主となる。補給については全てチオビタへ一任しているため、秋雨たちが動く必要はない。
宿の一階で営まれている酒場で秋雨たちは朝食を取っていた。なお、アンネリーゼの姿はない。
「アンネリーゼさんはどうされているのでしょうか?」
「あー、どうだろうな?」
ルシアの問いに、秋雨は微妙な表情を浮かべて言う。
先ほど起こしにアンネリーゼの部屋へ訪れたのだが、そこに彼女の姿は無かった。ベッドも使われた形跡がないため、恐らく深夜中に何処かへ出かけたのだろう。
頂点捕食者であるアンネリーゼに睡眠は必要ないとは知っているし、単独行動を行ったとしても問題はないだろう。
しかし、秋雨としては少なくとも一言告げてから行動してほしいところではある。
「ま、アイツはほったらかしても大丈夫だろうさ。元々、場の空気を読む気のない奴だからな」
「お兄さん、アンネリーゼお姉さんに対して辛辣っスね」
「まぁ……アイツとの間にはいろいろあるんだよ」
馬鹿正直に「両親を殺されました」と言うワケにもいかないので、秋雨はふわっとした言葉でお茶を濁す。
「今日は村内で自由行動だ。俺は適当に情報収集をするけど、二人は適当に過ごしてくれ」
秋雨の言葉にクロはパーッと表情を明るくする。
「やっしゃ、一日寝て過ごそ」
「クロ! だらけるのは許しません! 私たちも秋雨さんと同じように情報収集をしますよ!」
「なんでさ⁉」
顔を顰めているクロを、ルシアが叱るように言葉を畳みかけている。
そんな様子を眺めながら、秋雨は自身の目の前にある朝食を一気に片付ける。
そして、ふと呟いた。
「異世界だから食事の心配はあったけど、思ったより普通だったな」
地球では外国は勿論、日本国内ですら地域によって口に合う合わないがある。そんなことを考えると異世界の食事は不安だったのだが、秋雨としては口に合わないことはなかったので内心ホッとしていた。
そんな秋雨の呟きを聞いていたルシアが興味深そうに問う。
「そう言えば秋雨さんは勇者様と同じ世界の出身ってお話でしたよね? そのニホンってところはどんな場所なのですか?」
「あ、それは俺も聞きたいっス!」
「そうだな。まぁ、平和な国だよ。平和過ぎて心配になる程度にはさ」
平和とは言っても、ここ最近は様々な要因が重なり、そうとは言えなくなっている。
今の秋雨は知る由もないが、現在収獲者による襲撃が発生していることもあり、平和とは言えなくなっている状況だ。
「主食は米だから、それにあう料理が多いな。そういったものを和食っていうんだが……味噌や醬油って調味料を主に使った料理が多いな」
「ミソ? ショーユ? 聞いたことありませんね。塩とちょっとした香辛料が庶民に広がっている感じでしょうか? ただ、貴族に出されるような料理にはもっと多くの調味料が使われているかもしれません」
「もしかするとゾティークにしかない調味料もあるかもしれないな」
そうこう話している間に三人全員が朝食を食べ終える。
秋雨は立ち上がり、口を開く。
「よし。それじゃ、今日一日それぞれ頑張ろうか」




