第141話
茜が差し込む村の風景は、とにかくのどかであり、平和そのものであった。
とは言え、流通は滞っているらしく商人であるチオビタの来訪は非常に喜ばれた。
到着と同時にチオビタは村長宅へ商談に向い、秋雨たちは今夜の宿に足を踏み入れていた。
宿と言っても村長の好意で空き家を借りただけ。しかし、これまで硬い荷車で横になっていたこともあり、ベッドで眠ることができるだけでも十分である。
特にクロとルシアが大喜びしていた。
村の酒場で人々と友好を深めつつ、夕食を済ませ、疲れ切ったクロとルシアは早々に就寝。
一方リビングとなる部屋には秋雨とアンネリーゼ、チオビタの姿が在った。
「正体不明の魔物によって流通は安定していない様子だったよ。在庫の医薬品などの需要があって、私としてはそれなりに儲けさせてもらった」
ホクホク顔で言うチオビタ。
この辺りはやはり商人である。とても儲かったようで表情はニッコニコだ。
「で、村長とは商談以外にどんな話を?」
秋雨はチオビタに問う。
するとニッコニコだった表情が直ぐに真面目なものへと変わる。
「正体不明の魔物については直接この村を襲撃はされていないらしい。ただ、次の中継地である町は襲撃を定期的に受けているようだね」
「定期的に? 何度も襲撃を受けているってことは、退けているってことですか」
秋雨は目を丸くする。
正体不明の魔物——恐らく収獲者を相手にし、その比較と超越の理を攻略していることになる。
「どうやら勇者様と共に魔王討伐に手を貸した者が、その街に滞在しているようでね。名前を聞いて、驚いたよ」
その雰囲気からゾティークでは有名な人物であることを、秋雨は理解する。
「剣帝アルト・ハウゼン。あの勇者であるカナタ様を下したこともある方がいるんだとさ」
剣帝。
その名は決して軽くないだろう。
勇者である奏多を下したことがあるのなら、このゾティークでは五本の指に入るくらいの強者であることは容易に想像できる。
——と、アンネリーゼが「へぇ?」と声を溢す。
「アンネリーゼ?」
「いやあ、あの剣帝君がいるなら確かに収獲者の斥候くらいは対処できるだろうねぇ? 前に一度顔を合わせたことあるけど、彼の剣技が優れているのもそうだけど、手に持っている剣——魔剣が特徴的だねぇ」
「……魔剣?」
「確か斬れば斬るほど斬れ味が増す能力を有する魔剣だったはずだよぉ。お陰様で肩からバッサリ斬られたからねぇ」
ケラケラと笑いながら言うアンネリーゼ。
秋雨は眉間に皺を寄せ、チオビタは若干引いている。決して笑い話ではない。
「いろいろと思想が相容れなかっただけだから、斬られたことに関して何かを言うつもりもないねぇ。ま、そもそも斬られた程度じゃ、私は死なないしねぇ?」
その言葉を秋雨も否定する気はない。
ただ、何となくだが件の剣帝アルトとアンネリーゼは敵対したままなのでは——と秋雨は邪推する。
今から嫌な予感しかしない。
「あの後は適当に打ん殴って退散したから……恨まれてるかもねぇ?」
「…………おい」
「もしかしたら襲われるかもしれないねぇ?」
「…………俺は助けないからな」
「えぇ、私を守ってよねぇ?」
「嫌だね」と秋雨は何ひとつの迷いなく断言した。




