第140話
昨夜は特に大きな問題なんて起きることもなく、夜が明けた。
簡単な朝食を済ませた一行は、チオビタが手綱を握る荷車の中で緩やかな時間を過ごしていた。
「予定だと夕方くらいには村に到着するんですよね?」
「ようやくベッドの上で眠れるぜ。地べたじゃないにしても、荷車は硬くて身体が痛いのなんの」
ルシアの言葉を聞き、クロがバキバキと音を鳴らしつつ大きく背伸びをしながら言う。
野宿に慣れないと身体を痛めてしまうことはよくある。秋雨は何処でも問題なく寝てしまう体質故に特に気にもしてなかったが、ルシアとクロは結構大変だったようだ。アンネリーゼは自身の黒い雲の上で優雅に寝ていたため野宿だろうと関係ない。
「村に着いたら宿を取って一泊。翌朝は村の中で情報収集を行うのと、補給を済ませて更に一泊。明後日の朝に出発って予定だ」
今朝、秋雨とチオビタが話し合って決まった予定を全員に告げる。
「今後の流れについても話をしよう」
秋雨はそう言って揺れる荷車の中で、チオビタから貰った地図を広げる。
そして、指を差しながら話をしていく。
「今の現在地はココだ。で、目的地の村はココ。その後は北上してこの町に向かう。村から町までの道中は野営が三日の予定だ」
秋雨の言葉にクロが露骨に嫌そうな表情を浮かべる。ルシアも少しばかり顔を引き攣らせていた。
それに秋雨は困り顔を浮かべつつも話を続ける。
「本来なら村から町までは一日で到着するらしいけど、最短経路の橋が倒壊したせいで遠回りを強いられたせいだな」
これは国境線の町で得た情報だった。
どうやら正体不明の魔物が橋を壊してしまったらしい。
現状、周辺の危険度が高いこともあり修理予定は未定。その結果、遠回りをすることになっていた。
「町から二日でセイレムに到着の段取りだ。天候による足止めも考えると十日から二週間程度は見る必要があるかもな」
「お兄さん、雨の中での野宿は嫌だぞ」
「ま、雨が降らないことを祈るしかないな」
クロの言葉を秋雨はバッサリと切り捨てる。
秋雨としても気持ちはわかるが、どうしようもない。
「セイレムの後は考えているのですか?」
ルシアが問う。
秋雨は難しい表情を浮かべながら口を開いた。
「セイレムからは状況次第にはなる」
そう言って、秋雨はひとつの選択肢である帝国を指さす。
「帝国経由でアルズベリィを目指す。問題は入国ができるか否かだ。ルクシャ・ハーナが帝国にいる以上、問題は必ず発生するはずだ」
そして、もうひとつの選択肢であるラムレイ山脈——通称、狂気山脈を指さす。
「帝国を避けるなら狂気山脈を越える選択だ。噂だとオルドとかいう生物が潜んでいるらしい」
「精神汚染が得意な生物らしくてねぇ。正直、相手にするのは面倒だと思うよぉ? あと見た目が気持ち悪いねぇ」
アンタの飼っている奴も相当キモいぞ——と秋雨は内心で思う。
「どちらにしても厄介なことに変わりないようですね」
「ま、そういうことだな。行き当たりばったりにはなるが、ケースバイケースで進むしかないってことだよ」
こういう時に現代日本で当たり前に存在している車や飛行機のありがたみを感じてしまう。
その後は適当な与太話を交わしながら時間は過ぎていく。
そんなこんなで陽が傾き始め、空が茜に染まり始めた頃。
チオビタが荷車に向かって声を掛ける。
「村が見えて来たぞ!」
その言葉を聞いて一番喜んでいたのはクロ。時点でルシアであった。
どうやら荷車での寝起きは相当に辛かったらしい。




