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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
間章

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139/151

第139話

 パチパチと火の弾ける音が鳴る。

 目の前で揺らめく火をボーッと眺めているだけでも、夜は更けていく。


「秋雨君は寝なくていいのかなぁ?」


 火の番をしていた秋雨の元へ、荷車からアンネリーゼがそんな台詞を吐きながらやって来る。


「……今は俺の番だからな。そもそも寝なくていいのかは俺の台詞だ」

「私は頂点捕食者だからねぇ。睡眠を取る必要はないんだよぉ」

「便利な身体だな」

「良いでしょぉ? ま、お陰様で暇な時間も増えたけどねぇ……」


 地べたに腰掛けている秋雨の隣に、アンネリーゼが腰を下ろす。


「…………」

「そんな顔をされると、流石の私も傷ついちゃうなぁ?」


 アンネリーゼが隣に腰を下ろすや否や、心底嫌そうな表情を浮かべている秋雨。そんな様子にアンネリーゼは楽しそうな声音でワザとらしく言葉を紡ぐ。


「思ってもいないことを言うんじゃない。そもそもアンタは何で大人しく玲香さんに従っているんだ?」


 ずっと抱えていた疑問を秋雨は告げる。

 確かに玲香は頂点捕食者の中でも別格ではある。だが、その気になればアンネリーゼの実力でも逃げ切ることはできるはず。

 しかし、アンネリーゼは逃げる素振りを見せず、指示された通り秋雨の旅に同行していた。

 それこそ、玲香がいない今こそ絶好の機会であるにも関わらずにだ。


「ま、敗者は勝者に付き従うことが正だからかなぁ?」

「……ふざけたことを言うんじゃない。そんな対外向けの嘘なんて簡単に見破れるぞ」


 するとアンネリーゼが「やれやれ、困ったねぇ」と首を横に振りながら言う。


「私はねぇ、秋雨君のことを愛しているんだよぉ?」

「………………で?」

「冗談じゃないんだけどなぁ?」

「ふざけろ。そんなワケの分からない愛で、父さんと母さんを殺された身にもなれよ」

「ま、ゴメンねぇ」


 秋雨は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、アンネリーゼを睨む。

 反省の有無はこの際どうでも良い。

 アンネリーゼは頂点捕食者としての責務を果たした。そこに関してだけは責めることではない。ただ、方法があまりにも過激であり、秋雨が憎しみを抱くには十分過ぎる材料であっただけの話。

 正直なところ、秋雨としてはアンネリーゼを許すつもりは微塵もない。

 だが、彼女を殺したところでひとつも生むものがないことも確か。結局、憎しみの怨嗟に促されるまま動いたところで、満たされるものも、取り戻せるものがない。

 何よりもアンネリーゼは玲香が管轄しており、彼女を生かすことを決めたのも玲香だ。

 それに対し、異論を挟む余地はなかった。


「…………少なくとも俺はアンタに背中を預ける程度には信用はしている」

「へぇ? それは嬉しいかなぁ?」

「だが、信頼はしていない」


 パチンと火が弾けた。


「それだけだ」

「そうだねぇ。私としてはそれだけでも十分かなぁ?」


 揺れる炎が辺りを照らす。


「とにかく明日からも頼む」


 秋雨から投げつけられたその言葉に、アンネリーゼは目を丸くする。同時に口角を上げて、クスクスと笑い声を溢す。


「ええ、頼まれましたよぉ」

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