第138話
国境に設けられた関所へ必要な書類を提出することによって、共和国へ踏み入れることができた。
最後まで関所の兵に危険性を説かれ、立ち止まるように説得をされたのだが、そのすべてを振り切っての入国となった。
さて、共和国へ足を踏み入れた秋雨たちではあるが、セイレムまでは結構な距離がある。
道中では野宿も当然ある他に、数か所の村と町を補給も兼ねて経由していく予定となっていた。
関所を抜けてからの道中は実に穏やかであった。今のところは正体不明の魔物の姿形は見受けられない。
「平和ですね」
ガタガタと荷台で揺られる中、ルシアが呟く。
「姉ちゃんの言う通りだけど……正直拍子抜けだよな」
「クロ、ルシア。何事もないことが一番楽で良いんだ。極力面倒事はない方が良い」
二人の言葉に秋雨はしみじみと言う。
元来の秋雨は面倒臭がりである。ここ数ヶ月は面倒がどうだとか言っている場合でもなく、それどころから途轍もないスピード感で世界が変化していってしまった。忙しいとかそういう問題でもなく、唯々気が付いたら今の状況だったと言うべきかもしれない。
「まぁ、最近はずっと大変だったからねぇ?」
「…………少なくともアンネリーゼにだけは言われたくないな」
アンネリーゼの言葉に、秋雨は吐き捨てるように答える。
秋雨が本格的に厄介事へ巻き込まれるようになったのは、アンネリーゼたち頂点捕食者が原因だ。
そんな二人のやり取りにルシアが問う。
「お二人は……見た感じ仲良くなさそうですけど、どういう関係なんですか?」
それに秋雨は難しい表情を浮かべる。
両親を殺した張本人——と話す必要はない。
するとアンネリーゼがニコニコしながら答えた。
「お互いに殺し合った仲だねぇ」
「愛し合った⁉」
「……ルシア、アンネリーゼの言葉を馬鹿正直に受け取らなくて良い。ま、元は敵同士だっただけの話だよ」
何やら顔を真っ赤にするルシアへ、秋雨は溜息交じりに告げる。
「えぇ、あんなに激しかったのにぃ?」
「激しかった⁉」
ニヤニヤしながら言うアンネリーゼとそれに過剰な反応を見せるルシア。
「誤解を招くような言い方をするんじゃない」
「それもそうだねぇ。まぁ、どうやらルシアちゃんはムッツリみたいだねぇ?」
ケラケラと笑うアンネリーゼと顔を真っ赤に染めるルシア。そんな姉を見て、声を殺して笑うクロ。そして、眉間を摘まみながら上を見上げる秋雨。
——と、荷車を引っ張る馬の手綱を握るチオビタが声を掛けてくる。
「仲睦まじいことは良いことだね。それよりもそろそろ何処かで野営の準備をしたんだけど、どうだい?」
「次の村? 町にはどの程度で到着ですか?」
「次の村は予定通りに進めば明日の夕方に到着予定さ、シューウ君」
「わかりました。程よいところで野営の準備をしましょう」
「了解。良さげなところに着いたら声を掛けるよ」




