第137話
拠点としている宿の一階。そこは酒場として宿泊客以外にも利用されており、日々それなりに賑わっていた。
そんなテーブルの一角に秋雨たちを馬車に乗せてきた商人チオビタの姿が在った。
「チオビタさん、お疲れ様です」
「やあ、シューウ君。修行帰りかな?」
そう言ったチオビタは並々とジョッキに注がれているエールを煽るように飲み干す。
「かぁ~、この一杯が染みるねぇ!」
「……仕事はもう終わったのですか?」
「おうともさ、ルシアちゃん。ま、とりあえず突っ立って話すのもアレだろ? ほら、座わってくれ」
チオビタに促されれるように秋雨、クロ、ルシア、アンネリーゼは同じテーブルに着く。
そして、そのまま適当な飲み物と食べ物を注文する。
「さて、シューウ君としては国境封鎖がどうなったかを知りたいってことかな?」
「はい。そろそろ封鎖が解除されるって聞いていたので、どうなったのかをお伺いできればと思ってました」
秋雨の言葉に、チオビタが「ふむ」と難しい顔を浮かべる。
——と、宿のスタッフより飲み物と食事を配膳され、テーブルの上はあっと言う間に賑やかになった。
「ま、とりあえず飯を食いながら話をしよう」
チオビタは配膳された料理のひとつである肉料理を小皿に取り分けていく。
するとルシアも続くようにその他の料理を取り分ける。
それぞれに料理が行き渡ったところで、チオビタが新たに注文したエールが注がれたジョッキを掲げ、それに倣うように秋雨たちもグラスを掲げる。
「一先ずは今日一日お疲れさまでした!」
そのチオビタの言葉と共にグラスをぶつけ合い、料理に手を着けた。
「——さて、国境封鎖についての話だったね」
程々にお腹が膨れたところで、チオビタが口を開く。
「一応、明日から条件付きで国境を超えることができるようになったよ」
「条件付き?」
チオビタの言葉に秋雨は問う。
クロとルシアも興味あり気に耳を傾けている中、アンネリーゼは黙々と料理を頬張っていた。
「そう条件付きさ。要は正体不明の魔物に襲われても一切の責任を負わない。当然、国として護衛を付けない。それでも良いのなら通過の許可を出すとさ」
「なるほど。あくまでも自己責任なら良いってことですか……」
「だな。ま、俺としてはシューウ君たちがいるなら通過するのは問題ないと思っているぞ」
チオビタはニッと笑って言う。
随分と信頼されている事実に秋雨は内心嬉しく思いつつも、問いをチオビタへ投げかける。
「俺たちでも、その正体不明の魔物から守り切れる保証はありません。それでも俺たちを信用してくれるのですか?」
「ああ。シューウ君たちが信用、信頼できることは断言できるからね。それに下手な傭兵を雇うよりも良い」
「ありがとうございます。ぜひ、一緒にお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。但し、出発は明日ではなく明後日にしてほしい。少しばかり準備をしたいからね」
チオビタのお願いに、秋雨は迷いなく頷いた。
これで共和国への道は開かれた。
秋雨は勿論、クロとルシアも内心でホッとしている中でも、ひとり我関せず黙々と料理を頬張り続けているアンネリーゼがいた。
「……と、言うわけなんだが、大丈夫だよな?」
「大丈夫だねぇ。ま、噂の正体不明の魔物がでても任せてよねぇ?」
ハムスターのように頬を膨らませて言うアンネリーゼに、秋雨は一抹の不安を覚えるのだった。




