第133話
ゴビ砂漠に落ちた隕石。それによって空いた穴から幾多の収獲者が流入し、モンゴルを瞬く間に制圧され、中国への侵攻は進む。北朝鮮への到達、且つ韓国への侵攻も秒読みとなりつつあった。
フランスはカルロス率いる十二勇士とマーリン率いる魔女会の連携により、隕石の落下を阻止。更に元々隕石に内包していた収獲者を瞬く間に駆逐し切った。
アメリカは銃士会による奮戦空しく——焦った軍により核兵器が投下され、隕石落下地点の穴と収獲者諸共吹き飛ばし、一端の幕引きとなった。
隕石の落下は相次いでおり、その大半が太平洋に落下され、直ぐの被害は皆無であった。
今、目下の世界の脅威はゴビ砂漠から溢れ出る収獲者である。
「——と、まあ……中国は相変わらず他国の介入を拒否。意地でも単独での攻略を進めようとしているし、中国報道官の発表も『問題ない』の一言。まったく困ったものね」
釧路湿原の塞がれた穴の側に設置された天幕で、やれやれと首を横に振りながら玲香は呆れたように口を開く。
周囲には警察、自衛隊の者たちが慌ただしく動き回っており、そのサポートを行う形で各五行神家の術者たちも忙しくしている。
釧路湿原の穴を塞いでから既に二日が経過しており、世界の動きは目まぐるしい。
とは言え、中国の動きからもわかる通り、世界は未だに足並みを揃えることができずにいた。
それは日本国内も同様であり、政治家たちは今日も無意味な会議を繰り広げている。
「頭の固い政治家にはウンザリだ。ま、俺たちは政府の指示関係なく単独で動けるから問題はないがな」
「まったく紅蓮さんの言う通りやね。せやけど、収獲者が現れた時、戦闘許可が下りなければ自衛隊は戦えないんやろ? それはそれで大変やね」
紅蓮の言葉に頷きながら、遥が周囲で動き回っている自衛隊の隊員を目で追いつつ言う。
「まあ、そこは私たちでカバーするしかないね。秋雨が異世界に行っているからどうなるかと思ったけど、律が馬鹿みたいに強くなったから助かったよね」
「馬鹿みたいって何ですか。まぁ、まだ完全に使いこなせている感じはないですけど……」
「記憶の中の自分には程遠いって感じ?」
「はい。今の世界になる前の自分はもっと強かった。今のままじゃ、九十九にも届いていないです」
律は迷いなく言い切る。
東京会談の際、律は確かに九十九を討った。しかし、それは様々な要因が重なった結果であり、決して実力で上回ったとは思っていない。
九十九から引き継いだ力の真価はまだ出し切れていないのだから。
「だけどよ、今の律は間違いなく俺たちと張り合うくらいの力はあるぜ?」
「そうやね。下手したら秋雨ちゃんを上回ってるんやないの?」
遥の言葉に、玲香が口を挟む。
「……非常に不本意だけど、そうかも知れないわね」
「あら? 愛弟子が抜かれて悔しかったりするん?」
「まさか。私が見定めたのよ? そんなことはありえないわ」
遥はニヤニヤしながら玲香へと視線を向ける。が、玲香は澄まし顔で大きな欠伸をする。
「しかし、いろいろと面倒なことがこれから起こりそうだな?」
「そだね。ゴビ砂漠の収獲者の動向も心配だけど、太平洋に落下した隕石も注意が必要かも」
紅蓮の言葉に頷きながら、鈴音が言う。
「現状は音沙汰なしだけど、比較と超越の理がある以上、深海に適応する可能性は大いにあり得るよね?」
「なるほど。目に見える所だけを警戒するわけにはいかねぇってことか」
紅蓮は眉間に皺を寄せつつ、そう言って唸る。
「ま、五行神家はいつも通りで良いのよ。私は私の好きに動くだけだから」
「……個人的にはもう少し協調性を養ってほしいのが本音やね」
「それは無理な相談よ、遥。ま、強者が相手なら最前線に立つくらいはするわよ」
玲香の答えに遥は溜息を交じりに息を吐く。
それは他の者たちも同じであった。
しかし、戦ってくれるのなら——と、これ以上の言葉を告げることはなかった。




