第130話
釧路湿原上空に玲香はいた。
目下で魔法を討ち放ち続ける律の姿を眺めながら、玲香はジッと蜘蛛が湧き出し続ける穴を見る。
隕石の墜落により空いた穴。しかし、その隕石は大地に深く穴を穿つほどのものではなかったはずだ。
だからこそ、玲香は眉間に皺を寄せながら、その穴を睨みつけていた。
「——次元が歪んでいる? なるほど、隕石と思っていたものは収獲者の創造主が放った門なのかしら?」
畑へ農耕機を効率的に輸送するために、隕石という形で地球の大地に門を突き刺した。
門さえ開いてしまえば、収獲者を送り込み続ければ良いだけ。
「向こうも本気で刈り取りに来ていると見るべきね。栄えた文明という果実を収穫する創造主の目的が何なのか……きっとくだらないことなのかも知れないわね」
玲香は吐き捨てるように言い、考えるだけ無駄だろうと思考を切り捨てる。
「しかし、彼は随分と強くなったわね」
戦い続ける律を観察しながら玲香は言う。
元々は鈴音に仕える一般術師であり、別段才能が突出しているワケでもなかった。
だからこそ、玲香も顔と名前は知っていても、進んで関わろうとも思っていなかった。
しかし、蓋を開けてみればトンデモナイ因果を抱えていた人間であった。
「私の見る目がなかったと言えば、そうだけど……それにしても主人公が過ぎるわね」
長文詠唱魔法——それは五行神家の当主が行使する相伝術式に匹敵する魔法。
そんな魔法を幾つも有するのだから、律も大概のイレギュラーだ。
「ま、それでも私には及ばないところが残念だけど」
玲香は溜息を吐く。
これから経験を積んでいけば、玲香に匹敵する実力を有する可能性はあり得るが、現状としてそれを待つことはできない。
「…………まあ、良いわ。律のことは鈴音が管理しているから、私には関係ないことだしね」
玲香は右手を天へと掲げる。
「さて、ちまちまと戦うことは私の性格には微塵も合わないから——まずは一発ブチかまそうかしら」
掲げた手の先に、巨大な大樹が形を成していく。
「仮想を実現し、生命の源を凝縮し、その枝葉には幾多の世界を内包する大樹。さて、まずはその門の強度を見せてもらいましょうか?」
東京会談にて、アレクシスへ放った玲香の相伝術式・転換。
「耐えて見せなさい? 相伝術式・転換――世界樹の墜落」
釧路湿原の空に巨大な大樹が顕現し、穴へと向かって一直線に落ちていく。
——と、玲香の耳に着けていた通信機から怒鳴り声が上がった。
『玲香さん⁉ 何やっているの⁉ 巨大な樹が空に浮いているって報告があったんだけど⁉」』
「あら、鈴音? 何って——とりあえず一発ぶっ放しているだけよ?」
『下には神金守の術者がいるのだけど⁉』
「ま、五行神家に所属しているのなら、乗り越えられるでしょ?」
周囲のことなぞ、生きる天災にとって知ったことではない。




