第126話
釧路湿原。
隕石の落下地点を取り囲むように、蜘蛛がワラワラと群がっている。
少し離れたところで、律は睨みつけるように蜘蛛を凝視していた。
「律……」
雪が不安そうな表情を浮かべている。
周囲には神金守に属する術者が慌ただしく動き回っていた。
「大丈夫だよ、姉さん。鈴音さんの指示通り、俺が単身で奴らを相手にする」
九十九との戦いを経て、律は数多くの者を引き継いだ。
それは記憶や意志もあるが、最も大きなものは嘗ての世界に存在していた魔法だった。
「律君、準備は良い?」
神金守に属する術者のひとりが律へと声を掛ける。
「はい。できる限り通さないようにしますけど、漏れた蜘蛛は何とか打倒してください」
「わかりました。雪さんと共に必ずこのラインは死守します」
隕石の落下地点を中心に、取り囲むように術者を配置。律の打ち漏らした収獲者を他の術者が打倒する。
これは北海道の人々を本土へ避難させるまで続く予定ではあるが、それがあまりにも現実的ではないことは律もわかっていた。
しかし、それでも律はやる気だった。
「————常在魔法、起動。乙女の望んだ再起の物語」
それは律自身が敗北を認めない限り身体能力を向上させる魔法。
その他の常在魔法を全て起動していく。
「行って来るよ」
「いってらっしゃい、律」
雪の言葉を背中に受け、律は蜘蛛の群がる隕石の落下地点へと駆ける。
身体能力が上昇している今、その地点へ躍り出るのは一瞬だった。
ダン——と地を蹴り、蜘蛛の群がる隕石の上空へと舞う。
「我、魂の赫灼をもって乞い願おう。焼き尽くすは堕ちた清浄。怒りは汝の情景。故に我が焔で汝の恩讐の尽くを灰にしよう。恨むといい。憎むといい。嘆くといい。その全てを我が抱いて、我が受け止めよう。生命巡廻。我が焔にて、その終わりを見届け、汝の新たな始まりを切に願わん――生命巡廻の聖焔!」
今、律の放出できる全力による長文詠唱魔法を放つ。
白い焔が蜘蛛を覆い隠すように立ち上がり、その全てを燃やし尽くさんとする。
ほぼ不意打ちによる強力な攻撃により、蜘蛛が焼き尽くされていく。
だが、それはほんの僅かな時だけ。
白焔の中から数体の蜘蛛が飛び出してきた。
「超越したな」
事前に収獲者の理を聞いていた律は冷静に観察する。
「舐めるなよ。俺の手札はまだある」
次の長文詠唱を唱える。
「音を越え、私は光すらも置き去りにしよう。置いて行かれないように、後から続く者へその意志を指し示すために。私は、私の在り方を此処に見せつけよう。今を越え、未来より敵を穿つ。奔り抜けろ、蒼白の雷霆——迸るは蒼白の雷霆!」
蒼白の雷を纏い、稲妻となって飛び出してきた蜘蛛へと次々と突っ込み打ち砕く。
蜘蛛の硬い外皮は閃光と共に貫かれる。
そのまま律はギチギチギチギチギチギチと鳴く蜘蛛が群がるど真ん中へ着地する。
「————此処からだ。力を貸してくれよ、みんな!」
その身に宿った受け継がれた力へ、律はそう声を掛けるのだった。




