第122話
翌朝、レギオーたちと別れ、共和国を目指すべく出発した秋雨たち。
ギルドの紹介もあり、ちょうど護衛を探していた商人の馬車に乗せてもらっていた。
手綱を握る商人を他所に、荷台でガタガタ揺られながら、ゆるやかな道中を進んでいる。
「こんなにゆったりとした移動で良いんですか?」
ふと、ルシアが口を開いてそう言う。
ルクシャ・ハーナに、収獲者——旅としては確かに急ぎではあるが、今の状況は急いでいる雰囲気はない。
そこに疑問を抱いたのだろう。
「急いだところでたかが知れているからねぇ。まあ、歩くよりは全然早いから、問題はないかなぁ?」
アンネリーゼは欠伸をしながら、気だるげな口調で言う。
「アンネリーゼの言う通りだが、歩くよりは早いから一応は急いではいるんだ。ま、慌てても事を仕損じるだけだから、確実に行こう。折角だから、ここで神水守の水之業について話をしようか?」
その言葉にクロが目を輝かせ、前のめりになる。
「本当か、お兄さん!」
「ああ。一応、弟子なんだから話はするさ」
はしゃぐクロに落ち着くように宥めるルシアだったが、彼女の顔にも好奇心がありありと浮かんでいる。
アンネリーゼも「へぇ?」と興味深そうな表情を浮かべている。
「クロとルシアは知らないだろうけど、俺の神水守の名は五行神家の一角だ。で、俺はその神水守の現当主となる」
「ならシューウさんは貴族ということなのですか?」
「いや、貴族じゃない。そもそも俺の住む国じゃ、貴族制度は既に存在していない」
秋雨は首を横に振りながらそう言う。
とは言え、昔からの名家は現代においても名を馳せており、政界、経済界においてそれな力を有していることも事実。
あくまで表向きには存在していない。
特権階級という括りで言ってしまえば、五行神家もある意味で特権を有しているとも言える。
が、それをクロとルシアへ話すことではない。
「ま、五行神家の詳細は省くが、神水守家の術として使用しているのが、水之業だ」
そう言って、秋雨は自身の右手に水の刀を創り出す。
水之業・陽型——水刃刀。
「これが水之業において基礎の術だよ。この他には——」
秋雨は水刃刀を消した後、右掌に小さな水球を創り出す。
水之業・陽型——水天球。
「水天球と呼ばれる術だ。これも基礎中の基礎。此処から派生する変型の術も存在している」
「すっげぇ! だけど、魔法とはどう違うんだよ、お兄さん」
「あー、それは正直よくわからん。勇者パーティのリファ・メルクストーリアが言うには『魔力を注ぎ続けているわけでもないのに形を保ち続けることが異常』みたいなことは言っていたな」
少し前にリファに言われたことを思い出しながら、秋雨は答える。
と、ルシアが目を見開いて、秋雨に詰め寄ってくる。
「シューウさんはリファ様にお会いしたことがあるんですか?」
「そりゃあ、まあ……言っても大した仲じゃないけどな」
奏多経由であくまで必要最低限の言葉を交わしたことがある程度の仲でしかない。
「ま、専門家からすれば明確な違いがあるらしい。詳しいことは知らん」
「自分の術なのに詳しくないのはダメだよねぇ?」
「黙ってろ、アンネリーゼ」
茶々を入れるアンネリーゼを無下に扱いながら、秋雨は続ける。
「一先ず、クロとルシアには水刃刀と水天球の獲得を目指してもらう。とは言っても、やるべきことはイメージなんだけどな」
そう言って、秋雨は二人の前にそれぞれ水天球を創り出す。
「その水天球に気を流し込んで、水刃刀を創ってくれ。ま、これまで瞑想をして、それなりに気の力は感じているとは思う。それを内に溜め込むんじゃなくて、外に放出して、形を成型してくれ」
秋雨はパンと手を叩く。
「よし、それじゃはじめよう」




