第118話
帝国からの攻勢を何とか退け続けていく中で、奏多たちが遭遇した蜘蛛のような生命体。
その十数体は空から静かに降り立った後、瞬くの間に帝国軍の命を狩り取り尽くした。
そして、次の狙いをアルズベリィ軍、及び勇者パーティへと定めた。
「何だ……アレは?」
奏多は背筋に冷たいものを感じながら、その異様な蜘蛛から視線を逸らさなかった。
少なくとも奏多の知る限り、このゾティークに目の前のような魔物は存在していないはずだ。
何よりも蜘蛛は何故空から降って来たのか?
「奏多、アレ……嫌な予感がするわ」
志乃が杖を構える。
ギチギチギチギチギチギチ——と、蜘蛛が金切り声を上げながら、悠然と迫って来る。
そして————、
「っ————⁉ 志乃⁉」
バンと奏多は志乃を押し倒すように力いっぱいに突き飛ばす。
瞬間、志乃がいた位置を風切り音と共に猛スピードで過ぎ去る影があった。
「なっ⁉」
地面を転がりつつも、直ぐに志乃は立ち上がり、その過ぎ去った影はあの蜘蛛だ。
「速過ぎる」
奏多はフィニステラを手に、その蜘蛛へと斬り掛かる。
狙うのは脚の関節部だった。
しかし、その関節を狙った剣は容易に弾かれる。
「硬い⁉」
「疾風の加護よ、鋭利な刃となりて仇なす者を切り刻め」
態勢を崩した奏多をカバーするように、志乃が風の刃を放つ。
だが、その刃は蜘蛛の外皮によって悉くが容易く弾かれる。
「奏多! 撤退だ!」
少し離れたところから孝也の声が上がる。
同時に至るところからアルズベリィ軍の者たちの悲鳴が上がり始める。
理由は明確だ。
他の蜘蛛が殺戮を始めたからだ。
「このままだと全滅だ。何よりもコイツら……妙だ!」
孝也が蜘蛛を殴り飛ばしながら、叫ぶ。
「攻撃する度に手応えが無くなっていく。長期戦となれば取り返しがつかなくなるような気——いや、確信がある!」
その言葉に奏多は思考を巡らせる。
蜘蛛は奏多へとその脚を伸ばし、それをフィニステラで捌き、隙があれば斬り掛かる。
外皮は硬い。しかし、亀裂を入れることはできていた。
だが、それも次第に難しくなっていることに奏多は気づく。
その時、ひとつの可能性が脳裏を過る。
奏多の額に嫌な汗が滲んでくる。
「撤退だ! 殿は俺が務める!」
奏多は叫ぶように指示を出す。
「志乃、残りの魔力を使って王都へ飛ばしてくれ!」
「わかったわ! 背中は任せるわよ!」
「ああ!」
ひとつ、奏多の勇気は途絶えていない。
ふたつ、対峙する者は巨悪だ。
みっつ、仲間の意志は集っている。
「――聖剣フィニステラよ! 終わりを超え、始まりの星を振り落とせ! これはあらゆる闇を払う、光の刃なり!」
奏多が今放てる最強の一撃。
眼前の蜘蛛へと放つ——閃光剣フィニステラ。
「昇華ッ!」
斬り割かれた蜘蛛は瞬く間に霧散する。
奏多は輝くフィニステラを維持したまま、他の蜘蛛へと向かって駆ける。
一体、二体、三体————と、次々と斬り伏せる奏多。
だが、その猛攻は四体目に刃を突き立てた時に終わりを迎える。
ガキィ!
閃光剣はまだ維持されているはずのフィニステラが容易く弾かれたのだ。
「————」
その隙を見逃さず、刃を弾いた蜘蛛が奏多の肩へ鋭利な脚を突き刺した。
「ぐぅ……」
「メテオインパクト!」
孝也が奏多を襲う蜘蛛を吹き飛ばす。
それと同時に志乃が叫んだ。
「補足完了! 座標固定! みんな飛ぶわよ!」
ゾティークと地球を行き来する為の転移魔法を、アルズベリィ王国内の移動に範囲を阻めることにより大量の人員を移送することが可能になった。
ただ、それは魔力量の多い志乃にしか使用できない荒業。
奏多たち、そしてアルズベリィ軍の全員を光が包み込む。
そして、次の間にはその姿は何処にもなく、蜘蛛だけが金切り声を上げているだけだった。




