第115話
見覚えのない新種の魔物による襲撃の報を聞き、冒険者レギオー・カークランドは同じパーティを組んでいる冒険者たちとその魔物——蜘蛛と死闘を繰り広げていた。
レギオーたちが相手にしていた蜘蛛の数は三体だったが、一体は何処かへ向かって飛び跳ねて消え、後を追うにも残りの二体に阻まれ、後を追うことができなかった。
硬い外皮を持つ蜘蛛に防戦一方を迫られ、決定打を与えることができず、体力だけが削られていく。
他の冒険者たちとの連携で何とかなっているが、それも次第に難しくなっていく。
「レギオー! 魔法が効かなくなっているわ⁉」
魔法使いの女が焦ったように言う。
少し前までダメージは与えられずとも、その身体を吹き飛ばすくらいはできていたのだが、それすらもできなくなっていたのだ。
蜘蛛の鋭利な脚による攻撃を、その手に持つ槍で弾き、受け流しながらレギオーは軽く舌打ちをする。
「クソっ! ブレードライガーの異常発生を調べる依頼かと思えば、とんでもない化物が出てきやがる。恐らくこいつ等が異常発生を引き起こした原因だろうな!」
蜘蛛を押し返し、レギオーは魔法使いの女の前に立つ。
「レミネ、攻撃魔法は不要だ。代わりに身体強化の魔法を頼む。ルクス! パドルフ! そっちはどうだ!」
大声によるレギオーの問い掛けに、戦士のルクスと重騎士のパドルフは厳しい表情を浮かべながら答える。
「受け流すくらいしかできねぇ! このままじゃジリ貧だ! 剣も通らなけりゃどうにもならねぇ!」
「私もルクスと同じだ! 盾で受け流しつつ、メイスで打ん殴ってはいるが、手ごたえが全くない!」
別の場所から剣戟のような音が響き渡っている。
その中には悲鳴のような声も入り混じっていた。
別のところで蜘蛛と対峙している冒険者たちも、恐らく硬い外皮への回答がないはずだ。
何処も同じようにジリジリと体力だけが削られているのだろう。
「まったくコイツらは一体何なんだ⁉」
レギオーは叫びながら、その手に持つ槍へ魔力を込める。
その切っ先に全力の魔力を込め、渾身の一撃を放つ。
同時にレミネがレギオーへ身体強化の魔法を施す。
「——銀光穿!」
貫通力だけを突き詰めたレギオーの十八番。
これまで貫くことは不可能と呼ばれた強固な外皮、鱗を持つ魔物を貫いてきた必殺の一撃。
難点は全魔力を注ぎ込むことで放つ一撃であること。
「打ち抜けッ!」
槍を構え、突っ込んだレギオーの切っ先が蜘蛛へ衝突する。
普段通りであれば、すべてを貫けた。
だが————、
「くっ⁉」
ガキィン——甲高い音と共に、槍は弾かれ、レギオーは態勢を崩してしまう。
レギオーは自身の槍が直撃した蜘蛛の外皮に視線を向ける。
そこには僅かな亀裂があった。
「————渾身の一撃でこの程度とはな……」
態勢を崩したレギオーに蜘蛛の鋭利な脚が迫る。
レミネの悲鳴にも似た声が響き、ルクスとパドロフの叫びが轟く。
終わった——レギオーの脳裏にこれまでの冒険の数々が走馬灯のように流れていく。
「クソったれめ」
自身の終わりを受け入れた時だった。
「食らい尽くせ、シューブ=ニググラトス」
そんな声と共に、レギオーに迫っていた蜘蛛の姿が掻き消える。
「な、なんだ⁉」
間一髪で一命を取り留めたレギオーは態勢を立て直し、槍を構え直す。
そんなレギオーの元にレミネが駆け寄って来る。
「レギオー! 無事?」
「あ、ああ……何とかな……」
レギオーの目の前から蜘蛛の姿が消えた。
残りはルクスとパドルフが戦っている一体だけだったが……。
「水之業/氷之業・混合変化、相伝術式・転換――八寒地獄・摩訶鉢特摩」
世界すら凍らせる冷気が残りの蜘蛛を包み込んだ。




