第114話
「一先ず、目を開けて良いよぉ」
シューブ=ニググラトスを雲の中に戻した後、アンネリーゼは目を閉じている二人に声を掛ける。
目を閉じていた二人は恐る恐る目を開け、蜘蛛がいなくなっていることにホッと胸を撫で下ろす。
「面倒なことになってるねぇ。アリステッド市がいつも通りだったのは、この町の人たちが収獲者を何とか抑え込んでいたと考えるべきだねぇ。ま、情報が出回っていないのは、上層部で情報統制をしていたからだろうけどねぇ」
アンネリーゼがそう言っている最中にも、離れたところから戦闘の音が聞こえてくる。
秋雨は難しい顔を浮かべながら、戦闘の音が聞こえる方へと視線を向ける。
——と、アンネリーゼが秋雨へと問う。
「助けに行くつもりかなぁ?」
「……襲われていることがわかっているのに見て見ぬふりをするのは違うだろ?」
「正直なところ、此処をさっさと離れてしまった方が、いろいろと楽だと思うけどねぇ」
暗にアンネリーゼは収獲者との戦闘は避けるべきだと言っているのだろう。
確かに、秋雨の本来の目的を考えれば、この戦闘に参加する理由はない。目的を果たすためにも戦闘回数は少ない方が良いだろう。
「わざわざ厄介事に首を突っ込む必要はないよねぇ? 目的は勇者君たちを助けることだったはず。自ら死地に飛び込む理由があるとは思えないけどなぁ?」
「……それでも、やっぱり無視はできない」
秋雨の言葉に、アンネリーゼは一度目を閉じ、深い溜息を吐く。
「はぁ、秋雨君の指示に従うようにと言われているから、君の決定には従うけどさぁ……そんなことばかりやってると、命が幾つあっても足りないと思うよぉ?」
「ああ、肝に銘じておく。それよりもクロ、ルシアは安全なところへ……って言っても無いか?」
「うーん、強いて言うなら冒険者ギルドだろうねぇ。一応、まだ大丈夫そうだし、それなりの冒険者の気配も感じるから一時は安全かなぁ? それに二人には引き続きロイガーとツァールに護衛をお願いするから心配無用だねぇ」
「そうか……二人は冒険者ギルドへ避難してくれ」
秋雨の言葉に、二人は頷く。
「わかりました。お二人も気を付けてください」
「お兄さん、頑張って!」
場所については二人とも把握しているらしく、ロイガーとツァールを引き連れ冒険者ギルドへと向かって歩いて行く。
「さて、秋雨君の指示通りに余計なことへ首を突っ込みに行くとしようねぇ」
「余計なことじゃない」
「そうかなぁ? ま、感じ取れることから察すると、ひとり秋雨君と同等くらいの実力を持つ人がいるみたいだねぇ? この町で収獲者を抑え込めていたのは、その人がいたからかなぁ? だけど、息も絶え絶えみたいだねぇ」
比較と超越の理を有する収獲者を相手に対抗できていることから考えれば、実力があることは間違いないだろう。
しかし、アンネリーゼが言う「息も絶え絶え」が本当なら、防衛戦は瓦解するだろう。
「急ごう」
「りょーかい。まったく秋雨君はお人好しだねぇ」
走り始める秋雨の背中にそんな言葉を投げかけながら、アンネリーゼもその後を追って走り出した。




