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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第四章

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112/121

第112話

 ギチギチギチギチギチギチ——アンネリーゼが収獲者の斥候と告げた蜘蛛が、気味の悪い鳴き声を上げている。

 金属のような光沢のある外皮から見ても、強靭であることは火を見るよりも明らかだ。


「——ロイガー、ツァール、二人を守るように」


 アンネリーゼが触手のある緑色の肉塊を召喚し、クロとルシアを守るように命令する。

 ロイガーとツァールの冒涜的な姿である二体をはじめて見た二人は、顔色を僅かに悪くした。


「この子たちはロイガーとツァール。直接は降れないでねぇ。君たちだと発狂して廃人になっちゃうからさぁ。だけど、この子たちが君たちの安全を保障するからねぇ」


 そう言った後、アンネリーゼは蜘蛛へと視線を向ける。


「秋雨君、ちょっと本気出すけど問題ないよねぇ?」

「……ああ。とりあえず、目の前の蜘蛛がヤバいってことだけは初見でもわかる」


 秋雨は背筋に冷や汗を流しながら、蜘蛛をジッと睨んでいた。

 その身の威圧感もさることながら、鳴き声の君の悪さと金属のような外皮が、歪な何かを漂わせている。

 蜘蛛はジッと秋雨たちを観察するように、頭部に付いた複眼をギョロギョロ動かしている。


「収獲者の脅威はその運動能力の高さだけじゃなくてぇ————」


 アンネリーゼが言葉を紡いでいる最中に、蜘蛛が動いた。


 ——ギギギギギギギギギギギ!——


 奇声のような甲高い鳴き声を天に轟かせ、蜘蛛がその脚を動かし、アンネリーゼへと向かって突っ込んできた。

 そのスピードは秋雨とアンネリーゼがギリギリ目で捉えられたほど。

 クロとルシアについては一瞬で移動したように見えただろう。


「——舐めるなッ!」


 普段の纏わりつくような声とは打って変わり、アンネリーゼは迫って来た蜘蛛を召喚した黒い雲で薙ぎ払う。

 ガキィ——金属同士が擦れ合うような音が鳴り響く。

 蜘蛛は黒い雲によって吹っ飛ばされるが空中で器用に態勢を整えると、奇麗に着地する。


「ムカつくほど器用だねぇ……」


 底冷えするような声音でアンネリーゼは呟く。


「アンネリーゼ」

「……私の惑星(ユゴス)を滅ぼした存在だから、少しだけイラついただけだよぉ」


 秋雨が呼ぶ声に、アンネリーゼは答えを返し、深呼吸をする。

 一方、秋雨は蜘蛛の頑丈さに舌を巻いていた。

 黒い雲による攻撃を受けたはずなのだが、傷を負ったようには見えなかった。


「雲に触れた割には変化がないな?」

「アイツらに精神攻撃は無意味だねぇ。見た目は生物チックだけど、憶測だと農作機械らしいんだよねぇ。だから、千匹の仔を孕(マグナ)()し森の黒山羊(マテル)による狂気は何も役に立たない。それに生半可な攻撃もアイツの外皮で悉くを弾かれる。本当に厄介極まりないよねぇ」

「農作機械? アレが機械だって言うのか?」

「そうだねぇ。収獲者ってヤツは、私たちとは大きく異なる生命体なんだろうねぇ。まぁ、私も農作機械以外の収獲者は見たことないけどねぇ」

「……何でゾティークに斥候とは言え、収獲者がいるんだ?」

「アイツらに世界の壁なんて関係ないよ。畑の果実が実ったから刈り取りに来ただけ」


 いよいよ収獲者という存在が、常識の外である存在ことを秋雨は認識する。


「ルクシャ・ハーナの件で厄介だと言うのに、収獲者の相手までしろって?」

「……馬鹿正直に相手にする必要はないかなぁ。斥候が存在している時点でゾティークは終わりかもしれないねぇ」


 苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべながら、アンネリーゼは吐き捨てるように言う。


「ま、とにかくこの場を切り抜けることが先決だねぇ。目の前の蜘蛛以外にも数体いるみたいだけど……」


 アンネリーゼの言葉に、秋雨は気を巡らせて周囲を探る。

 すると少し離れたところで複数人の者が、争っているような様子だけわかった。


「手早く片付けよう」

「同感だねぇ」


 秋雨はその手に氷刃刀を顕現させ、アンネリーゼは黒い雲を周囲に漂わせた。

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