第111話
陽が傾き始めた頃、一泊するための町に到着した秋雨たちであったが、町にしてはあまりにも静か過ぎる様子に怪訝な表情を浮かべていた。
クロとルシアに関しては目を見開いて、その異常性に驚くほどだ。
「数年前ですが、その時はこんなにも静かじゃありませんでした。アリステッド市ほどではありませんが、街道の真ん中にある立地ですから多くの人々の往来があった筈ですよ」
ルシアはそう言うが、目の前に広がる光景は人気がなく、何処かどんよりとした空気が漂っている。
そんな様子もあり、賑わっていたと言われても信じられない。
「お兄さん、どう思う?」
クロに問われた秋雨は、顎に手を当てながら思考を回す。
「正直わからないな。だけど、ブレードライガーだったか? そいつが増えていることが影響しているんじゃないのか?」
今、思いつくことは、それしかなかった。
しかし、それだけで賑わっていた町が寂れてしまうものなのかは疑問ではあった。
「恐らく冒険者にも討伐依頼が回っているとは思うのですが、それも間に合っていないのかもしれませんね」
秋雨とアンネリーゼの二人のせいで大した魔物ではない感覚になってしまうが、ブレードライガーは魔物の中でも上澄みに位置する危険度を有している。
並の実力者であれば、悉く命を狩られる程度には脅威だ。
一般人なら猶のことであり、街道の行き来が少なくなるもの道理だろう。
「なら、まずは冒険者ギルドに行くべきだねぇ」
黒い雲の上に寝転がりながら、気の抜けた声音でアンネリーゼが言う。
相変わらず緊張感の欠片もない雰囲気を漂わせているが、言っていることは真っ当なので秋雨は渋い表情を浮かべる。
「…………情報収集だな?」
「そういうことだねぇ。アリステッド公国の町の大半には冒険者ギルドがあるから、情報収集なら立ち寄るのはオススメだねぇ」
——と、その時だった。
カンカンカンカン——と、鐘の音が鳴り響く。
それはあまりにもけたたましく何度も鳴らされ、即座に異常事態であることを察せられるほどだ。
「姉ちゃん、コレって⁉」
「恐らく警鐘ですね。何らかの危機が迫って来ていると思われます」
「なるほど。こっち側に人気が無いことを考えると、別の方か?」
秋雨が視線鋭くしながら言う。
「……人の気配の数からすると、北の方みたいだねぇ?」
そう言ったアンネリーゼが、何やら難しい表情を浮かべている。
「どうしたんだ、アンネリーゼ?」
「うーん——気のせいだったら良かったんだけど、そうじゃないっぽいねぇ」
「何が言いたい?」
「悪いことは言わないから、この町から離れるべきだねぇ」
アンネリーゼが突然そんなことを言い始める。
「いきなり何を言ってんだ? それに魔物の襲撃なら俺たちにも————」
「いや、対処は無理かなぁ?」
秋雨の言葉を遮って、アンネリーゼは断言する。
同時にアンネリーゼは雲から飛び降り、その身から強烈な殺気を放ち始める。
「……秋雨君、構えなよ。私が最も会いたくなかった蜘蛛のお出ましだよ」
「————は?」
その時、上空から秋雨たちの目の前に飛来する影が舞い降りる。
それは蜘蛛のような多脚生物だった。
「アンネリーゼ、コイツは⁉」
「……これこそ、秋雨君の住む地球が恐れていた宇宙より来たる脅威——収獲者。その斥候だねぇ」




