第102話
秋雨とアンネリーゼの二人がギルドから外へ出ても、陽はまだ高いところに位置していた。
とは言え、これから出発するには少々遅過ぎることもあり、今日はアリステッドで一泊し、夜明けと共にアヴェロワ共和国へ向かって出発する予定とした。
隔して、残りは旅路の準備を済ませる運びとなったのだが……。
「——何処に行きやがった、アンネリーゼ」
見知らぬ地の町のど真ん中で、秋雨は青筋を浮かべながら天を仰いでいた。
ほんの十数分前に「ちょっと散策してくるねぇ?」と言い放ち、秋雨の了承を得ることなく何処かへ消えて行ったきり戻ってこない。
人によっては「たかが十数分で目くじら立てるな」と言うかもしれないが、アンネリーゼに対する好感度が低いこともあって、秋雨の堪忍袋の緒は非常に短い。
しかし、ここで変に動いて迷子になり兼ねないこともあるので、ジッと待つしかない。
「はぁ、待つしかないよなぁ」
そんなことを呟きながら、秋雨は直ぐ側にあったベンチへ腰を掛ける。
照り付ける陽射しと吹き抜ける風——暑過ぎず、寒すぎず、日本よりも過ごしやすいくらいだった。
ぼんやりと空を眺めながら、ボケーっとしていると何処からか怒鳴り声が聞こえてきた。
「私を誰だと思っているのだ! お前のような愚民とは違うのだよ!」
声の方へと秋雨は視線を向ける。
そこに実に尊大な態度をとる男とヘコヘコしている取り巻き数人、そして男に絡まれているボロボロの少年の姿があった。
秋雨は顔を顰める。
「姉ちゃんを何処へ連れて行った!」
「あ? 姉とな? さあ、今頃どこかの貴族に売り払われとるのではないのか?」
男は少年を見下しながら馬鹿にするように言い放つ。
「ふざけるな! アンタが無理やり連れていったくせに!」
「何を言う。私のような偉大な男の懐を潤す役を担ったのだ。感謝されるならまだしも、文句を言われる筋合いは微塵もないわ!」
そう言って男は少年を思い切り蹴り飛ばす。
その様子を見ていた秋雨が立ち上がろうとした時、近くで同じように様子をうかがっていた女性が肩を掴んで口を開く。
「行かない方が良い。あの男はティムドラの公爵だよ。下手に手を出すとアンタもタダじゃすまないよ」
「……帝国の貴族は誰もがあんなに横暴なのか?」
「どうだろうね。けど、此処を訪れる貴族は皆横暴だね」
女性は吐き捨てるように言う。
と————、
「私の靴がお前の血で汚れた! 万死に値する!」
少年を蹴り飛ばした際に付いた血に、男が激高する。
明らかなやつ当たりだった。
男は腰の剣を抜き、振り上げる。
「此処で処断する!」
斬——と、振り上げた剣が振り下ろされる。
陽に煌めく刃が少年へ向かって奔り、誰もが凄惨な光景を創造しただろう。
しかし、その光景は——キィンという甲高い音によって阻まれた。
「——何者だ? この私の行いを妨げる愚か者」
「……悪いな。目の前で理不尽に殺されそうになっている人を見逃すほど人間辞めてないんでね」
氷刃刀で男の振り下ろした剣を受け止めながら、秋雨はハッキリとした口調で言い放った。




