第101話
アンネリーゼがギルドの受付から地図を借り、それをテーブルの上へ広げる。
その地図に記されている文字を秋雨はまったく読めないが、そこはアンネリーゼがカバーする。
「今いるアリステッドが此処だねぇ」
そう言ってアンネリーゼは巨大な大陸の最南端に位置する場所を指さす。
「ちなみにここはアリステッド公国アリステッド市。この国の首都で各国との貿易で栄えている町だねぇ。で、目的地のアルズベリィは此処から北の——此処だねぇ」
アリステッドからグッと北に位置する場所を指さすアンネリーゼ。
地図の縮尺がどの程度かはわからないが、陸路で行くには結構な距離があることは明らかであった。
「陸路とは言っても、アリステッドとアルズベリィの間に別の国があるな?」
「そうだねぇ。そこはアヴェロワ共和国。ティムドラ帝国に次ぐ軍事国家で、アルズベリィとは友好的だったと記憶してるかなぁ。今はどうなっているかは知らないけど、最短距離で進むにはアヴェロワを縦断する必要があるかなぁ?」
ジッと秋雨は地図を眺めながら、アリステッドからアルズベリィまでの経路を指でなぞる。
しかし、アヴェロワとアルズベリィの間を遮るように存在している山岳部に気付く。
「山越えが必須になりそうだな?」
「そうだねぇ。そこはラムレイ山脈って名前だけど、人々からは狂気山脈って呼ばれているねぇ」
物騒な呼ばれ方をしていることに秋雨は眉間に皺を寄せてしまう。
「道が険しく危険ってこともあるんだけど、オルドっていう生物が生息していることが狂気山脈と呼ばれる所以らしいねぇ」
「……オルド?」
「オルド。私が前に調べて知った一説によると、この世界における旧支配種族だったと言われているねぇ。知能は高く、精神汚染を得意としている。ま、山脈に押し込められたのは、恐らくルクシャ・ハーナによって支配権を奪われたからだろうねぇ」
ルクシャ・ハーナによる支配権の強奪により、ゾティークは竜人と蜥蜴人間が支配していたのだろう。しかし、秋雨の住む地球への侵攻を行った結果、封印されてしまい、力を失った末に今の人類に支配権が移ったのだろうか。
その際にオルドが再び支配権を取り戻そうとしなかったことは不明だが、何かしらの理由でもあるのだろうか。
「可能であればオルドとの接触は避けるべきだねぇ。精神汚染、干渉された時点でアウトだからねぇ。何よりも見た目が気持ち悪いかなぁ」
アンネリーゼは顔を顰めながら「おえー」と声を溢す。
「とは言っても、経路からしても山越えは必須だろ?」
「いや、必須ではないかなぁ? 一応、今考えられるルートはふたつだねぇ」
そう言ってアンネリーゼは西側に広がる大国を指さす。
「ひとつはアリステッドから帝国を経由してアルズベリィへ向かう方法」
アルズベリィと戦争中と思われる帝国を突き抜けることが容易いかどうかを考えれば、結構難しい可能性がある。
「もうひとつはアリステッドから船に乗って、ウバルって国に向かう。そこから陸路で南下する方法。ちなみにウバルはアルズベリィの北に位置する国だねぇ」
アンネリーゼがアルズベリィの上に広がる場所を指さしながら言う。
ウバルからアルズベリィ入りは山脈も無いため狂気山脈を越えるよりは危険も少ないかも知れない。
しかし、海路を考えると時間が掛かる可能性もある。
「地球にあるような石油で動く車や船がないから、どちらにしても時間は掛かるかなぁ? 一番安全なのはウバルからの南下だけど、時間は一番掛かるかもねぇ。あと船旅の安全性は担保できないかなぁ」
「そうなると陸路で行くしかないが……」
「帝国越えか、山越えかってところだねぇ?」
ニンマリと笑みを浮かべながら、アンネリーゼは秋雨へ向かって「どうするぅ?」と問う。
あくまでも決定権は秋雨に委ねているあたり、アンネリーゼとしてはどちらでも良いのだろう。
「オルドと遭遇した場合、俺とアンネリーゼで対処できるものなのか?」
「うーん、どうだろうねぇ。私も事を交えた事はないけど、面倒ではあるかもねぇ」
アンネリーゼで面倒となると、相当厄介な可能性が考えられる。
そうなると秋雨ひとりでは対処できない。
なら、帝国を経由して行く経路しかないのかも知れない。
「とにかく庄司たちの情報を集める必要もある。一先ずはアヴェロワ共和国に向かおう」
「ふーん? ま、私は秋雨君に従うように玲香に言われているから異論はないかなぁ?」
まずは北上し、アヴェロワ共和国へ向かうことで方針は決まった。




