13.4 シノン城の政変(3)クーデターの種明かし
聞きたいことは山ほどあるが、各自の《《言い訳》》を聞くのは後回しにしよう。
「状況はどうなっている? 大元帥もいるのか?」
もともと、シノン城はリッシュモンが大元帥に就任したときに与えた。
その後、私が接収し、リッシュモンの妻から城の見取り図を受け取った。
ラ・トレモイユはそのことを知らず、堅牢なシノン城に閉じこもっていれば安全だと思っていたようだが、元城主のリッシュモンはこの城の隠し通路まで知り尽くしている。クーデターを起こして政敵を捕らえるなら絶好の場所だ。
「先ほど、ブレゼは『逆臣を討伐した』と言ったが、それは確かなのか?」
「はい。この目で見ました」
「では、目撃したことを説明してほしい」
この日、私がシノン城に帰還することは事前に知らせてある。
王妃をはじめ、重臣たちは出迎える準備をしていたはずだ。
だが、大侍従のラ・トレモイユはいなかった。
王が帰還する時刻を教えず、大侍従が出遅れるように仕向け、王を出迎えるために兵たちが出払い、城内の警備が薄くなる瞬間を見計らって、潜入していたリッシュモンとその配下がラ・トレモイユの寝室を襲撃した——。
簡単にまとめると、そのような筋書きだった。
「パリの王城には及ばないが、シノン城は広い。ラ・トレモイユが寝室にいなかったらどうするつもりだったんだ?」
一応、聞いてはみたものの、寝込みを襲われたのだろうと察しがつく。
6月のフランスは天候が穏やかで、日の出から日没までの時間が長い。
なにせ、夜10時まで太陽が沈まない。
前日のうちにシノン城まで行くこともできたのに、アンボワーズ城に宿泊したのもクーデター計画の一環だったのだろう。
アンボワーズ城からシノン城まで、早馬なら1時間ほど。
のんびりした行軍でもせいぜい2〜3時間だ。
日の出は、午前5時45分ごろ。
夜明けと同時にアンボワーズ城を出発すれば、8時前に到着する。
この日がクーデター決行日と決まっていたなら、前夜、ラ・トレモイユに深酒でもさせて寝坊するように仕向けることもできる。念には念を入れて、睡眠薬を一服盛ればさらに完璧だ。
「ラ・トレモイユは何をしている?」
「寝室で酩酊しているところを、大元帥閣下の手で捕縛されました」
「それはわかっている。無事なのか、と聞いている」
リッシュモンが《《国王のために》》手をかけた人物たちを思い出す。
拷問じみた断罪。切り落とされた右手。したたる血溜まり。振りかけられた聖水。伴侶殺し。横領。溺死刑。
ピエール・ド・ジアックの時は、かばいようがなかった。
カミュ・ド・ボーリューの時は、間に合わなかった。
また政敵を殺したのだろうか……?
「こちらで謁見しますか?」
マリーに聞かれたが、私は答えなかった。
察しのいいシャルロットがブレゼに何か耳打ちして、ブレゼは一礼すると礼拝堂から出て行った。
わかっている。私にリッシュモンを責める資格はない。
リッシュモンと再会する前、王太子の時点でそうだった。
私はモントロー橋上での無怖公の殺戮を止めることができなかった。
オルレアン包囲戦では、イングランド軍総司令官ソールズベリー伯を自らの手で狙撃して殺害した。私の手も魂もとっくに血で汚れているのに、どうしてリッシュモンを責められようか。
そんな私を、あの晩のリッシュモンは「慰めたい」と言った。
どうかしている、私もあいつも。
「陛下……」
考え事をしている間に、リッシュモンとラ・トレモイユの様子を見に行ったブレゼが戻っていた。
「あっ……」
思わず動揺した。あいつに何と声をかければいいのだろう。
なぜか、リッシュモンの前ではペースを乱されて醜態をさらしてしまう。
マリーやシャルロットもいるのに、私はどうすれば……。
「申し訳ございません。大元帥閣下はお目にかかりたくないとのことです」
ブレゼに託された伝言を聞いて、私は大きくため息をついて脱力した。
「そ、そうか……」
ほっとしたと同時に、がっかりしている自分もいて、リッシュモンの動向にいちいち振り回されている自分自身に気づいてみるみる顔が熱くなっていくのを感じる。
「な、何で私がこんな……」
誤魔化すように手で顔をぐりぐりこすりながら、愚痴をこぼす。
間の悪いことに、マリーからブレゼに至るまで、私のどうでもいいつぶやきを聞き漏らさず、一斉にこちらを振り返る。
「陛下、どこかお加減でも……?」
「もういい、大義であった! 全員下がっていい!」
動揺を悟られまいと、じたばた取り繕う私の様子は、端から見てよほど不機嫌かつ不自然に見えたようだ。
ラ・トレモイユ失脚にまつわるさまざまな憶測は、各方面で都合よくねじ曲げられ、従来の「シャルル七世はリッシュモンを嫌っている」に加えて「国王は王妃に冷たい」という不仲説が一人歩きするようになった。





