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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十三章〈大元帥の復帰〉編

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13.3 シノン城の政変(2)おそろしい子

 私たちは、ひとまず城内の礼拝堂へ向かった。

 それなりの規模を持つ城には、付属の教会施設がつきものだ。

 今回のような騒ぎがなくても、出発前に旅の安全を祈願したり、帰還後に道中の加護を感謝するために立ち寄る。


 また、「聖域」は緊急時の避難所としても有効だ。

 聖域での流血沙汰は禁忌になっているため、極端な不信心もの、または無神論者でもない限り、たまたま敵同士が出会ったとしてもお互いに暴力行為を避けようとする。


 もうひとつの狙いは——。


「貴公はブレゼと言ったな。それから、マリーとシャルロット……」

「メーヌ伯です」

「王妃とメーヌ伯! この騒ぎについて何か知っているな? 長年温めていた計画とやら……について、ここで洗いざらい話してもらおう」


 神と聖人をまつり、十字架を掲げる礼拝堂で尋問すれば嘘やごまかしはやりづらいだろうと見越して、この場所を選んだ。他言無用の内緒話をするのにも最適だ。


「みなさん、陛下は司祭の資格をお持ちです。神の御前で懺悔をするように、正直に告白しましょう」

「マリー、君もだぞ。王妃だからといって何でも許されるわけじゃない」

「ええ、仰せのままに」


 マリーはいつもと変わらず、おっとりと優雅な振る舞いを崩さない。

 むしろ、尋問する私の方が動揺しているのではないか。


「まったく……、結構本気で怒ってるんだけどな……」

「ええ、承知しています」

「マリー姉さまの気持ちを代弁すると、優しい陛下も好きだけど、怒っている陛下もりりしくて一段とす・て・き♡と惚れなおしているのではないかと」

「シャルロット、お黙りなさい」

「メーヌ伯です」


 なお、シャルル・ダンジューの領地メーヌはアンジュー公爵領に含まれるが、ヴェルヌイユの戦いでイングランドに奪われたままだ。本来得られるはずの収入はなく、したがって、シャルロットは領地経営に割く時間や労力をすべて宮廷生活に捧げている。


「クーデター計画に関わるほど暇を持て余しているとは思わなかった……」

「策謀に長ける義弟を持ったことを喜んでください」

「今年でいくつだっけ?」

「まだ誕生日が来てないので18歳です」


 末恐ろしい義弟だ。


「さっき言っていた逆臣とは誰のことだ?」

「大侍従ジョルジュ・ド・ラ・トレモイユ卿です」


 念のため尋ねたが、予想通りで驚きはない。


「大元帥がこの計画を温めていたと言っていたな?」

「首謀者はそうなりますが、大勢の宮廷人が関わっています」

「王妃までかかわっているとなれば、ただの反乱では済まないんだぞ!」


 ことの重大さが伝わっていない気がして、私は口調を強めた。

 子供の暇つぶしのお遊びでクーデターを起こされてはたまったものではない。 


「そうですね。ぼくたちの命運は、陛下のお気持ち次第です」

「どういうことだ?」


 シャルロットいわく、私が今回の件を「リッシュモンの反乱」と解釈するなら、王妃とその外戚であるアンジュー家も不敬罪はまぬがれない。だが、「リッシュモンが逆臣ラ・トレモイユを討った」と解釈するなら、大元帥は英雄として宮廷に復帰できる。


「ぼくとしては、後者の筋書きを推したい」

「王妃とメーヌ伯は、大元帥派だったということか?」

「宮廷の派閥に興味はありません。あの人に恩を売りたかったんです」

「リッシュモンに? なぜ?」

「あの人は義理堅いですからね。ひとつ恩を売っておけば、あとで二倍三倍にして返してくれそうでしょう?」


 誰かの入れ知恵——おそらくヨランド・ダラゴン——もあるだろうが、ここ数年来、宮廷を二分していた大元帥と大侍従の派閥争いにしれっと加担して、王に気づかれずに仲間と謀略を練り、まんまと政敵を失脚させ、悪びれることなく告白する。


 もはや、したたかを通り越して「狡猾」という言葉がふさわしい。


 いや、計画が失敗していたら、この告白の内容も変わっていたかもしれない。

 仮に失敗したとしても、クーデターの首謀者は「長年大侍従と敵対していたリッシュモン」だ。シャルロットは若く、王妃の弟という立場もあるから、責任をまぬがれるだろう。遠征中は、大侍従の代わりに王に同行していたから「計画のことは知らなかった」とシラを切ることも可能だ。

 クーデターの結果がどちらに転ぼうが、シャルロットは絶対に失脚しないポジションに身を置いている。


 それに、私の気持ちひとつで、アンジュー家も不敬罪はまぬがれないというが。


「基盤の弱いフランス王が、王妃の一族に罪を問うことなどできるわけがない……」


 やれやれ、よく考えたものだ。

 王のお墨付きを得て、大元帥を宮廷に復帰させるため——、「王妃とアンジュー家を不敬罪にするのか?」は、私に対する一種の「脅し」だ。


 できないことを要求して、リッシュモン復帰を強引に認めさせようとしている。


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