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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十三章〈大元帥の復帰〉編

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13.2 シノン城の政変(1)1分間のクーデター

 シノン城に到着すると、いつものように王妃マリー・ダンジューが出迎えた。

 そばに控えている義弟シャルル・ダンジューに気づくと、ちらっと視線を交わした。姉と弟の無言の会話がなんとも微笑ましい。


「陛下のご帰還をお待ち申し上げておりました」

「大事はないか?」

「ええ。子供たちもみんな健やかに過ごしています」


 前年に、マリーは男児を出産し、私はジャックと名付けた。

 今のところ、私たちの子供は王子と王女が2人ずつ。

 さらに、ルネの子供たちが3人いるから遊び相手には困らない。


 長男のルイはもうすぐ10歳になる。そろそろ宮廷の作法を学んだり、甲冑をあつらえて父の遠征に同行する年頃だ。生まれながらの王太子だから、学ぶことがたくさんある。

 双子のラドゴンドとカトリーヌは5歳となり、会うたびに可愛いさが増していく。王女の宿命で、長女ラドゴンドはすでにオーストリア大公家との婚約が決まっており、そう遠くないうちに手放すことを考えると涙を禁じ得ない。


 私は不遇な生い立ちだといわれるが、アンジュー家の家風を受け継いで、幸せな家庭を築いている。とはいえ、フランス王位継承者は男子のみと定められている以上、弟王子の誕生はひときわ喜ばしい。


「さて、大侍従は……」


 シノン城の宮廷か、離宮で家族団欒か。

 急ぎの案件がないなら、子供たちの様子を見に行きたい。

 宮廷の留守を預かっていたラ・トレモイユにたずねようとした時だ。


 シノン城の一角にあるクードレの塔で、侵入者を阻む「落とし格子」がけたたましい音を立てて下ろされた。


 読者諸氏には、「シャッター」と言った方がわかりやすいか。

 城門の出入り口に取り付けられ、垂直に上下させて開閉する。

 格子状のシャッターの下部には鉄の杭がついており、地面側は杭を受ける(くぼ)みが設置され、杭とくぼみを噛み合わせると簡単にはひらけない仕組みだ。


 外部の敵を侵入させないため、または侵入者を閉じ込める罠として使うこともある。


「何かあったみたいだ」


 ただごとではない。とっさにマリーを抱き寄せた。

 子供たちの安否が気がかりだが、敵の襲撃に巻き込む可能性を考えるとうかつに動けない。おおかた、狙われているのは私だ。

 子供たちには子守りの侍女の他に、優秀な護衛が何人もついている。

 城の奥、安全な場所にいるなら、私はむやみに会いに行かない方がいい。


「陛下、心配ご無用です」


 警戒する私とは反対に、マリーは落ち着いていた。

 腕の中でしなだれかかりながら、おびえるどころか、うっとりした表情を浮かべている。かたわらでは、義弟が目を見開き、両手で頬を包みこんで「ファーーーーー!」と黄色い悲鳴をあげている。


 かわいい義弟といえど、危機感がなさすぎる。

 それとも、この騒ぎは何かの余興か? 私をからかっているのか?

 疑問を口にするより早く、若い侍従が息を切らせながら駆けつけた。


「陛下、ぼくの友達でピエール・ド・ブレゼといいます」


 義弟は済ました顔で、同じ年頃の友人を紹介した。


「ご帰還早々に、お騒がせして申し訳ありません」

「一体、何ごとだ?」

「ふふふ、首尾はどう?」


 義弟の質問にブレゼは力強くうなずくと、緊張した面持ちで私に向き合い、あらためて膝をついた。


「ご安心ください。陛下のため、王国のため、大元帥閣下が長年温めていた計画が実行に移され、逆臣を討伐しました!」


 私にとっては青天の霹靂だったが、マリーもシャルロットも——おそらく義母ヨランド・ダラゴンも——すべて承知していたようだ。





 政治的な変化とは、しばしば暴力によってもたらされる。


 革命は、国家体制そのものの変革を目的とする。

 反乱は、被支配者が支配者に挑み、上下関係を入れ替える。

 そして、クーデターは支配階級内部における権力の争奪だ。


 政変の鎮圧か、新体制の樹立か。

 どちらにしても成功の鍵は、すみやかに奇襲を完遂し、いかにして資源と支持基盤を確保できるかにかかっている。


 1433年6月24日、シノン城で起きた政変はわずか1分で成し遂げられた。ある意味、理想的なクーデターだった。


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