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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十三章〈大元帥の復帰〉編

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13.1 ルネ・ダンジューの虜囚生活

 シノン城へ帰る途中、ひとつ前の逗留地アンボワーズ城にて。

 大侍従代理を務めるシャルル・ダンジューが、アンジュー家の諜報員ベルトラン・ド・ボーヴォーを連れてきた。


「久しぶりだな」

「ラ・トレモイユ卿の監視下ではゆっくり話せませんから、今のうちにと」

「ははは、確かに!」


 大侍従ジョルジュ・ド・ラ・トレモイユは宮廷で実権を握るため、私の動向を監視して近づく人物に制限をかけ、策謀に余念がない。ただ、基本的に引きこもり体質のようで、自分から「打って出る」ことは少ない。

 私が外出することも「危険」を口実に制限し、宮廷にとどめようとする。

 戴冠式を控えたランス行軍にはしぶしぶ同行したが、「王の遠征」についてくることは稀だ。


 そんなときは、代わりに王妃の実弟シャルル・ダンジューをよこす。

 かろうじて十代で、そろそろ少年から青年に差し掛かる年齢だ。

 だが、私やマリーが子供時代の口癖でつい「シャルロット」と幼少期の愛称で呼ぶと、頬をぷくっと膨らませて「メーヌ伯です」と抗議する。

 本人は心外だろうが、そういうところがいかにも子供っぽくて愛らしい。


 シャルル七世とアンジュー家の事情を知らない人からすれば、「国王夫妻の面前で恐れ知らずな小姓」にしか見えないだろう。


 おそらく、ラ・トレモイユも「御しやすいお子様」と考えて、大侍従の代理を任せている。宮廷で経験が浅いうちに懐柔して、大侍従派に取り込むつもりかもしれない。


 なお、王妃マリー・ダンジューには、妻を侍女として送り込んでいる。

 ラ・トレモイユとしては、王に続いてアンジュー家を手中に収めたいのだろう。


 ただ、まぁ……、私が思うに、アンジュー家のきょうだいは人畜無害に見えて、意外にしたたかな一面がある。なにせ、あのヨランド・ダラゴンが育てた子供たちだ。あまり舐めてかからない方がいいと思う。




 ベルトラン・ド・ボーヴォーがもたらしたのは、ブルゴーニュ公に捕らわれたルネ・ダンジューの近況だった。ブルゴーニュ公の本拠地ディジョンに移送され、厳重に監禁されているとのことだ。


「ルネ兄様……、なんとおいたわしい……」

「身なりを整える余裕もないようで、髪を振り乱しながら熱心に絵を描いていました」


 自由を奪われ、閉じ込められ、暇を持て余したルネは、暖炉に残っていた炭を片手に、板切れに絵を描くのが日課らしい。音楽やら料理やら、もともと趣味に興じるのが好きだった。


「よかった。思ったより元気そうだな」

「それが……」


 意外と気楽に過ごしているのかと、安堵しかけたが——。

 潜入したなじみの諜報員に気付くと、ルネは涙ながらに救出を訴えた。


 ブルゴーニュ軍に捕らわれたジャンヌ・ラ・ピュセルは高値でイングランドに売り渡され、火刑に処された。同じ境遇にいるルネからすれば、ジャンヌの最期は他人事ではない。


 一心不乱に絵を描いていたのは、不遇な境遇の中でささやかな娯楽を見つけようとしたのか。それとも、正気を保つために何かをせずにいられないのか。


 私としても、ジャンヌの二の舞は絶対に避けたい。

 無怖公殺害の引け目からブルゴーニュ公に対して躊躇するところがあったが、ルネ救出のためにはそうも言ってられない。


「なるほど。悠長に様子を見ている場合じゃないな」

「ベルトラン、こっそり兄様を連れ出すことはできなかったの?」

「申し訳ありません」

「メーヌ伯、ベルトランは手練れの諜報員だ。可能ならやってる」


 交渉にしろ戦争にしろ、ルネの現状と意志を知りたかった。


「救出を最優先で。それがルネの意思だな」

「いえ、それが……」


 ベルトランいわく、ルネは丸頬を涙で濡らしながら「助けて欲しいけど……」と言葉を濁した。


 しばらく逡巡していたが、意思が定まったのか、黒炭で(すす)けた手で目尻に浮かぶ涙をぬぐい、こう告げた


「イングランドやブルゴーニュに譲歩するくらいなら僕は一生ここにいます。足手まといになりたくない……!」


 幼いときからずっと私を慕ってくれる、天真爛漫な弟分の思いがけない矜持を知らされ、私ははっとした。

 さらに、ルネは諜報員の忠誠心に釘を刺した。


「いいか、ベルトラン。アンジュー家はフランス王を支える。……ボーヴォー家はアンジュー家の忠実な家臣だが、当家のためにフランス王を犠牲にしようなどと考えるなよ」


 ああ、そうだった。私は思い知らされた

 ルネはすでに妻と共同統治するロレーヌ公であり、フランス王の力強い同盟者アンジュー公なのだ。


「ランスでシャルル七世に臣従したのも、ブルゴーニュ軍と戦ったのも僕の意思だ。だから、兄様は僕のことで引け目に思わないで欲しい。敵に譲歩しないようにと、兄様は優しいからそのことが心配だと伝えて……。その代わりに……」


 ルネの妻イザベル・ド・ロレーヌと3人の子供たちの将来を託された。

 ベルトランがすでに保護されていることを伝えると、ルネは濡れた顔でうなずき「それなら安心だ」と笑顔を見せた。


「報告は以上です」

「大義であった……。いや、感服したというべきか」


 義弟は自らの境遇を顧みずに、フランス王である私の面子(めんつ)を立て、国益を守ろうとしている。ルネの言葉は本心だろうが、そんな健気なことを言われて放っておけるものか。


「心配無用だ。何がなんでも救い出してみせる」


 おそらくベルトランは、私の性格を見越してルネとの会話をすべて伝えたのだろう。言われるまでもない。救出したい気持ちは同じだ。

 私は決意を新たにし、ベルトランには「他のどの任務よりもルネの安否を最優先に行動するように」と指示した。


 まもなくシノン城だ。

 マリーとともにルネの家族も待っている。


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