12.10 処刑人(4)最初の判決
異端審問官のひとり、ギヨーム・エラールという司祭が「この罪人がいかにして異端者となったか」を大勢の聴衆の前で雄弁に演説し、次にジャンヌが答弁する番になった。
罪を認めて悔い改めれば、有罪判決を受けるが処刑は免れる。
罪を認めず、更生する可能性がないと判断されればその場で処刑される。
大抵の人は、罪を認めて涙ながらに慈悲を乞う。
ごくまれに、自分の正当性を聴衆に訴えて殉教者になろうとする者もいる。
フス戦争は、後者の《《演出》》が効いたために勃発したといえる。
異端審問官たちは、ジャンヌの発言に注目していた。
聴衆を扇動するならすぐに黙らせるが、発言の内容次第ではイングランドの正当化に貢献するかもしれない。その場合は、好きなだけしゃべらせる。
「何か言ったらどうかね?」
司祭はしびれを切らして声をかけた。
当のジャンヌは演説を聞いてなかったのか、ぽかんと突っ立ったまま、顔色ひとつ変えずに沈黙していた。
「おじょうさんは初犯だからね。罪を認めて命乞いをすれば処刑だけは回避できるんだよ? さあ、言ってごらん」
権威とは「逸脱」を嫌うものだ。
しきたり通りに、ことが運ぶことを良しとする。
罪人が言うべき言葉は、事前に教えられているはずだったが。
「罪、とは何ですか?」
ジャンヌは尋ねた。
「自分の振る舞いをよく見るといい。例えば、その男装だ」
「あたしは王様のために戦うと誓いました。長い髪、長い裾のドレスでは戦えないでしょう? これは戦闘服で……」
司祭は苛立ちを隠さず、ジャンヌの答弁を遮った。
「もういい、黙れ」
「だって、この服は特別だから……」
「まったく、女という生き物は身なりばかりを気にする。服などどうでもいい。おまえは自分が置かれている状況を理解しているのか?」
司祭エラールは、冷静なときも立腹しているときも饒舌だった。
駐仏イングランド人の注目を集める異端審問で、会心のご高説を披露したのに、この罪人は恐れも敬いも見せない。聴衆の前で恥をかかされたと感じたのだろう。ジャンヌを見下すことでプライドを保とうとした。
「無学な娘よ、おまえにはこの異端審問の真意を理解できまい。正しい振る舞い方を教えてやっても、理解して実行する知能がないようだ……。いやはや、哀れなことよ」
聴衆には聞こえないような小声で、にちゃにちゃと嫌味を重ねた。
何を言っても動じないジャンヌの心に、どうにかして爪痕を残したいと思ったのだろう。
「罪を認めるのだ。自分は間違っていたと……簡単なことだろう? 忘れてしまったなら思い出させてあげよう。私は異端審問官だが、本来は優しい司祭さまだからね。おまえが死ななくて済むようにもう一度チャンスをあげよう。なあに、今は理解できなくても、あとできっと私に感謝するだろう。いいかい?」
自分の言葉に酔った司祭は、興奮が高まるにつれて声がうわずっていた。
「おまえの王は恥ずべき異端者であり、王国を分断し災いをもたらす分裂主義者だと……! ほら、言うんだ!」
「あたしの信仰と命にかけて誓います!」
ジャンヌは顔を紅潮しながら、司祭に挑むかのように声を張り上げた。
「あたしの! 優しい王様は! ……すべてのキリスト教徒の中で一番高貴な人です。神様と教会とこの国のことを一番愛している人です。あなたが言うような人じゃないと誓います……!」
死刑執行人いわく、自分の処刑が控えているにも関わらず、ジャンヌが怒りをあらわにしたのはこの一度きりだった。
「もし、あたしのやったことや言ったことが間違っていたとしても王様のせいじゃないです。これはあたしの裁判なんだから、あたしの責任じゃないですか……。なんで、あなたは王様のことをそんな風に言うの……? なんで、会ったこともない人をそんな風に悪く言えるの……?」
3ヶ月間、たった一人できつい尋問に耐えていたジャンヌは「王様のことを悪く言わないでください」と訴えて、この時初めて泣いたらしい。





