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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十二章〈二人のジャンヌの死〉編

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12.8 処刑人(2)

「外は寒いでしょう。暖炉の近くへどうぞ」


 死刑執行人は、客間とおぼしき部屋の「奥」をすすめた。

 城の広間なら玉座が置かれる場所だが、敵地で「奥」に深入りすることは危険をともなう。そこには使い込まれた暖炉と簡素な祭壇があった。室内は小綺麗に片付いているが、暖炉の隅にはとがった火かき棒が、脇の壁には小型の斧が立てかけられている。薪を燃えやすい小片にするための小道具だが、今の状況を考えると物騒にも見える。


「おー、寒ぃ寒ぃ!」


 私より先んじて、ラ・イルが両腕をさすりながら暖炉の前に陣取った。

 この部屋でもっとも暖かい場所を()られてしまったが、相手に武器を取らせず、自分が武器を取れる位置を確保したといえる。仮に、ラ・イルが寝返っていたとしたら私は窮地におちいることになるが——。


「降ってきたな」


 死刑執行人は、細い窓から外を見ている。

 ラ・イル以外にも、複数の護衛がひそかに周囲を取り巻いているが、雪降る中で見張りをさせるのは気の毒だ。


「積もると帰り道がわずらわしい。手短(てみじか)に済ませよう」

「おう、頼むぜ」


 ラ・イルはこちらに背中を向けると、暖炉に手をかざしてぬくぬくと炙り始めた。死刑執行人との対話に口出しする気はないが、事が起きればすぐに手斧をつかむつもりなのだろう。


「覚悟はできている。復讐するために来たのだろう?」


 口火を切ったのは、死刑執行人だった。


「今、このルーアンの町には、異端審問を主導して処刑を命じたボーヴェ司教もウォリック伯もいない。となれば、次に狙われるのは、あの娘に手をかけた処刑人……。そうだ。命じられたから()った。処刑人とはそういうもんだ。命じられたら誰であろうと()るんだ」


 悪びれる様子もなく、淡々と話を続けた。


「どう言い訳しても、あの娘を手にかけた事実は変わらん」


 死刑執行人は手を伸ばすと、おもむろに窓の鎧戸を閉めた。

 強風でもない限り、日中はたとえ曇天でも窓から差し込む外光を取り入れた方が暮らしやすい。暖炉が赤々と燃えているから完全な暗闇にはならないが、外部に見られたくない「何か」を企んでいるのか。


「人はこの仕事を蔑むが、俺は職務に誇りを持っている。だが、あんたがたフランス軍が復讐を望む感情も理解できる」


 死刑執行人がラ・イルの背中に向かって指を差すと、ラ・イルは背中に目がついているかのように振り返った。


「そろそろ手が暖まった頃だろう」

「多少はな」

「かじかんだ手では武器を強く握れない。人体を深く傷つけるには力がいる」


 指先が横に滑り、その先には私たちが入ってきた入口とは別の目立たない扉があった。


「その裏口は納屋に続いている」


 ラ・イルはまったく遠慮することなくその裏口をばかっと開けた。


「うおおっ、寒ぃ!!!」


 せっかく暖まってきたのに、雪まじりの冷気が吹き込んできた。

 ラ・イルは即座に閉めたが、死刑執行人がやってきて再び開けた。


「納屋がふたつ見えるだろう」


 短時間に何度も開閉したせいか、初めに室内に入ってきたときよりも空気が冷えこんだ気がする。


 裏口からすぐのところに小さな納屋が見える。

 と言っても、特段小さい建物ではない。ごく普通のどこにでもある物置小屋だが、もうひとつの妙に大きな建物に比べると「小さい」と形容するのがふさわしい。


「大きい納屋のほうだ。あそこに俺の仕事道具がしまってある」


 死刑執行人の仕事道具ということは……。


「絞首台、火刑台、溺死刑の死体袋、首切り用の大斧、各種拷問器具もある……。よりどりみどりだ」


 死刑執行人は、「それを使って自分を好きにすればいい」と告げた。


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