12.7 処刑人(1)
「重要な証言を伝えてくれてありがとう。数日中にイングランドが戻ってくるだろうが、どうか生き延びてほしい。いつか、貴殿の証言を頼る日が来るかもしれないから」
私は一計を案じて、ドミニコ会修道士イザンバールの肩を抱いて立たせた。
ジャンヌに対する悔いとこの国に対する失望から、命を絶たれては困る。
「私は生前のあの子をよく知っている。涙ながらの告白を聞いて、それでもなお相手を鞭打つような子ではなかった」
ジャンヌを聖女だと思ったことはない。
だが、清らかな心と熱烈な勇気を持っていたのは確かだ。
「もしや、あなたはシャルル王なのか……?」
修道士の最後の問いには答えず、ラ・イルに声をかけて先を促すと、馬の腹を拍車で軽く蹴った。
ふと気づけば、鈍色の空から冷たい小雨が降り始めている。
ロワール川流域よりも北に位置するセーヌ川流域では、しばしば雪が降る。
死刑執行人が住んでいる郊外へ急がなければならない。
*
「犠牲者の善悪を決めるのは俺じゃない。命じられたことをやっただけだ」
「承知している」
異端審問で有罪判決を受けたとしても、初犯で処刑されることはない。
火刑に処されたのが事実なら、ジャンヌは異端の再犯を犯したことになる。
「見たことを率直に話してくれればいい。審理の経緯を知らないとしても、初犯の判決と再犯の処刑に立ち会っているはずだ」
「まるで尋問だな」
「裁くために来たのではない。告白か沈黙か、貴殿の良心に従って決めるといい」
死刑執行人は朴訥とした大柄な男で、私の背後で睨みを効かせているラ・イルにひるむことなく、「あんたの顔に見覚えがある」と指摘した。
「ああそうだ。確か、逃亡した捕虜だ」
「ああん? だったら俺様をどうする気だ?」
執行人は挑発には乗らず、背を向けると無言で家の奥に戻った。
「何だぁ? てめえのナワバリにおびき寄せて始末する魂胆かぁ?!」
「いや、外は寒いから中で話そうということじゃないかな」
こちらも勝手に判断して、後ろをついていく。
壁には、城で見かけるようなタペストリーではなく毛皮がかかっている。
なめし加工の工房を兼ねているようだ。匂いが少々鼻につくが、冬季は防寒対策にもなる。
死刑執行人と皮剥業は、どちらも生き物を殺すことを生業としている。
前者が本業で、後者が副業みたいなものか。
処刑とは不定期なもので、そうたびたび執行する仕事ではないから。
「あの少女の痕跡を探すためにルーアンに来たなら無駄足だった」
暖炉の火勢を強めようと、死刑執行人は火かき棒を灰の中につっこみ、燃えさしを探してガリガリこすっている。
「有益か無駄かはこちらで決める」
「遺品どころか遺体も遺灰も残っていない。セーヌ川に全部流しちまった」
「そう命じられたのか?」
ジャンヌ・ラ・ピュセルが死後に聖女として崇拝されるのを阻止するために、聖遺物になりそうなものは一つ残らずセーヌ川に投げ捨てられたという。
火刑執行から8ヶ月の間にいくつかの荒天と水害を経て、ジャンヌの肉体を形作っていたものはいまごろ大西洋のどこかを漂っているのだろう。





