12.3 ジャンヌ・ドルレアンの死
シャルル・ドルレアンの陰謀を探るため、デュノワの次にジャンヌ・ドルレアンに面会した。シャルル・ドルレアンの一人娘で、今はアランソン公の妻だ。
王妃マリー・ダンジューに迎えられて、女性と子供たちが暮らす離宮へと足を伸ばす。
「少し前から体調を崩してまして、はじめは懐妊かと思ったのですが……」
一応、傍系王族の姫君であり、私の姉イザベルが彼女の実母だ。
オルレアン包囲戦に備えて宮廷に避難してきて以来、気にかけるようにしている。シャルル・ドルレアンの後妻で養母だったボンヌ・ダルマニャックが亡くなったため、ヨランド・ダラゴンやマリーのもとで王族関係者の女性や子供たちとともに暮らしていた。
「アランソン公夫人、お加減はいかがかな?」
「陛下……?」
子供たちの声が響かないように、奥向きの広間で病床に伏していた。
ルネ・ダンジューと同じ歳で、初対面のときは明るくて夢見がちな少女だった。そして、生き別れた父親をとても恋しがっていた。
「美しいアランソン公……。あの人の妻になって10年経つのに、まだその名前に慣れない……」
アランソン公は「オルレアン公の娘婿」という立場だから、包囲戦以来、積極的に戦闘に従事している。しかし、アランソン公が熱心に戦っているのは娘婿の義務というよりも、戦友ジャンヌ・ラ・ピュセルに惹かれているせいでもある。
アランソン公夫妻が疎遠になっているのは、誰が見ても明らかだった。
「そうか。実は、私もいまだに陛下と呼ばれることに慣れていないんだ」
「まあ、そうなんですの?」
ジャンヌ・ドルレアンはかすかに笑ってくれて、病床が少しだけ和んだ。
夫と最後に会ったのはいつか? などと野暮なことは聞かない。
アランソン公は今、ジャンヌの報復のために戦っている。
そんな状態で、無理やり病床の妻のもとに返したところで、アランソン公は落ち着かないだろうし、別の女性のことを考えている夫を見ることは、ジャンヌ・ドルレアンをさらに傷つけてしまうかもしれない。
「アランソン公はよく頑張っているよ。次に帰還したときは、褒美と休暇をたっぷり取らせるから楽しみにしておいで」
あんなに元気で可憐だった花が、気の毒なほどしおれて色褪せている。
どうしたら、この子を元気付けることができるだろう。
「だから、それまでに元気にならなければね」
「…………たい」
「うん?」
「あの人よりもパパに会いたい……!」
ジャンヌ・ドルレアンは「もう顔も思い出せないの」と言ってさめざめと泣いた。かける言葉もない。そして、私は気づいた。
(ああ、そういうことか)
もしかしたら、シャルル・ドルレアンは一人娘が病床にあることを知って、なりふり構わず帰国を急いでいるのではないか。
フランスの和平よりも自分が解放されることを望み、そのために宿敵ブルゴーニュ公と手を組んでイングランドへの臣従を誓う——など、これまでのシャルル・ドルレアンからは考えられないことだ。
「神よ、素晴らしき貴女を創造してくださったお方よ……」
私は、シャルル・ドルレアンが送った詩の一節をそらんじた。
ジャンヌ・ドルレアンが少女だったころ、私の声が「パパに似ている」と言って悶絶したことがある。その後も、ときどきせがまれては詩を読んでいたから、すっかり覚えてしまった。
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上品でやさしくて美しい貴女へ。
あまりにも素敵なひとだから、みんなが貴女を褒めている。
貴女に飽きる人などいるのだろうか。
貴女の魅力はますます増していくのだろう。
はるかかなたの海の向こうにも、
貴女ほどすてきな淑女や令嬢がいるとは聞いたことがない。
すべてが完璧で、夢のように素晴らしい貴女だから!
貴女について考えるだけでも夢ごこち。
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気の毒だが、私にはこんなことしかできない。
ジャンヌを取り戻せなかったように、シャルル・ドルレアンが帰国するめどはたっていない。だが、私情のために王国の平和を売り渡すことはできない。
ジャンヌ・ドルレアンは、ジャンヌ・ラ・ピュセルの火刑の翌年、1432年5月19日にひっそりと息を引き取った。享年22歳。みずみずしい新緑の季節だった。





