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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十二章〈二人のジャンヌの死〉編

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12.2 デュノワの提案(2)手が届きそうな

 帰国してすぐ、ノルマンディーの首府ルーアンをめざして進軍していたデュノワに謁見した。


「ジャンヌのことは……、言葉もありません」


 1431年5月末、ちょうどジャンヌが火刑に処された頃、フランス軍の最前線は「ルーヴィエ」という町で、ルーアンまであと30キロの地点に迫っていた。


 早馬なら1時間、徒歩でも半日あればたどり着く。読者諸氏になじみやすい例えでいうと、東京(日本橋)から横浜まで、または東京(日本橋)から川越まで——、そのくらいの距離感だ。


 あとほんの少し、とらわれたジャンヌに手が届きそうなところまで来ていたのに! 悔やんでも悔やみきれない。教皇不在のバーゼル公会議に出席するより、私も戦地に行って戦うべきだったのだろうか。


 ルーヴィエは、ノルマンディーに駐留するイングランドにとって首府ルーアンを防衛する前哨基地だ。また、フランスから見てもここを突破すれば目的地まであとわずか、ルーアン包囲の要となる場所だ。


 とはいえ、戦闘ありきの行軍は平穏な旅路と違って、最短コースで一直線というわけにはいかない。味方の支援または敵の増援に注意しなければならない。


 ルーヴィエはパリから100キロ地点なので、大規模な援軍が来ないとも限らない。


 先に行軍していたラ・イルは、本隊を率いるデュノワに合流して指揮を交代すると、周囲を警戒して自由裁量で遊撃していたが、ある時を境に連絡が途絶えて行方不明になっていた。


「妙だな」


 敵にとらわれたか、人気(ひとけ)のないところで野垂れ死んでいる可能性もあるが、


「ジャンヌの異端審問が非公開になったので、もしかしたらルーアンに単独で潜入しに行ったかもしれません」


 どちらかといえば、そっちの方があり得る気がした。

 ラ・イルは態度も口も悪く、さらに片足に障害を負っている。

 とてもじゃないが、フランス王に仕えているようには見えない輩だ。

 だが、そういうキャラクターを利用して、傷痍軍人や物乞いのふりでもすれば簡単に敵の本拠地に侵入できそうだ。


 願わくば、ラ・イルがジャンヌを火刑前に救出できていたらと楽観的に考えたくもなる。ありえない話ではないが、可能性は低い。


「これからどうしますか」


 デュノワに聞かれて、しばし悩む。


 通常、ある地域を侵攻・奪還するときは「面」で版図(はんと)を拡大する。「線」で攻め上がれば退路を絶たれる恐れがあり、計画は失敗する。


 今回、ルーアンまで「線」で攻めたのは、ジャンヌを救出するために急いでいたからそうせざるを得なかったのだ。しかし、ジャンヌが火刑に処されたならば、これ以上直線的な行軍を強いることは百害あって一利なしだ。


 しかし、私はきっぱりと「当初の予定通りにルーアンへ向かってほしい」とデュノワに注文をつけた。


「いいんですか」

「うん。できるだけ早く頼みたい」


 ほんの一瞬でいいから、ルーアンの町を私の支配下に置く時間が欲しかった。

 デュノワは怪訝そうだったが特に反論することはなく、私の意向を確認すると、すぐに戦地ルーヴィエへ戻ることになった。


「仰せのままに」


 なお、デュノワの様子はいままでと何も変わらず、シャルル・ドルレアンと陰謀を企んでいるようには見えなかった。まだ知らないのかもしれないが、知っていて素知らぬふりをしているならなかなかの策士っぷりだ。


「それでは、行ってまいります」

「武運を祈っているよ」


 親友を疑っていることに後ろめたさを感じながら、デュノワの颯爽とした背中を見送った。


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