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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十一章〈異端審問と陰謀〉編

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11.16 密談(5)全部正解

 色々なことが起こりすぎていて頭も心もくらくらする。

 これからやることがたくさんあるが、まずは目の前の男に対処しなければ。


 今の状況が空恐ろしく感じられて、ごくりと唾を飲んだ。

 後ずさりしようとしたが、そこにあるのはベッド本体である。

 もともと、半身を起こして片足を一歩踏み出しただけの中途半端な体勢だったから、後ろに下がったというよりも、まるでリッシュモンを誘うかのようにベッドに尻から着地した。


 神聖ローマ帝国が、高位の客人のために用意している寝室だ。

 ふかふかの羽毛の中に沈み込むのは心地いいはずなのに、今は心許ない。

 柔らかくて肌触りのいい寝具がやけに艶かしく感じられて、私の動揺をますます加速させる。


 寒い季節ではないから、夜着は薄地で丈が短く、膝上まであらわになっている。しかも、よく見れば夜着を仕立てた亜麻布は、オルレアン包囲戦でひそかに出会って別れた後にリッシュモンが匿名で献上したやつではないか!


 幸い、寝室はほぼ真っ暗でお互いの姿はよく見えない。

 リッシュモンの恵まれた体格に比べてすこぶる貧相な私の醜態は見えてないはずだ。いや、むしろ見えた方ががっかりして萎えるのか?

 しかし、暗いからこそ感覚が研ぎ澄まされて、ささいな刺激に過敏に反応してしまうとも言うし、淫靡な雰囲気に流されてしまう危うさがある。ここは危険だ! よし、誰か呼ぼう。いや、護衛を呼んだところで大元帥を捕らえることができるのか? 何の罪で? 無理すぎる。


「無理強いはしませんよ」

「な、なんのことだ!」

「私は劣情を抑えられないほどケダモノではありません」

「れ、つ、じょ、う……?!」


 ぽよぽよのベッドの上で跳ねていると、筋肉質の腕が伸びてきた。

 脇から背中に手を回して上半身を支え、もう一方の手を両膝の下に差し入れて脚を支えて、私を軽々と抱き上げた。リッシュモンは夜目がきくようで、暗がりでもお構いなしだ。この男はできないことがないのか!


 狼狽する私がよほどおかしかったのか、リッシュモンはかすかに笑った。

 ベッドの中央にゆっくり降ろして横たえると、枕の位置を整えてから毛布をかけた。


「もうすぐ初夏とはいえ、そのような格好でいたら風邪をひきますよ」


 頭をぽんぽんと撫でられ、手櫛で髪を梳かれた。

 私は拍子抜けして、リッシュモンを警戒したことがむしょうに恥ずかしくなってきた。


「女より愛してるだとか、劣情だとか、私をからかっているな?」

「さあ、どうでしょう」

「本当は子供だと思っているんだろう?」

「全部正解です」


 間違いなく、ふざけている。

 だが、こんな風にゆるく笑いながら軽口をいうリッシュモンは初めて見た気がする。正直、悪い気はしない。なぜか顔が熱くなってきて、私は慌てて枕に顔をうずめた。


「発つ前に、別れのキスをしてほしかったのですが」

「勝手にすればいいだろう」

「臣下から君主にすることはできません」

「オルレアンではしたくせに」

 

 首筋を吸われて、その跡をマリーに見られて誤解された。

 リッシュモンは吸引力まで強いらしい。私の虚弱な体はたぶん耐えられない。


「次に会うときは日の当たる場所で、あなたの顔をよく見せてください」


 その言葉は、次に会うまで生き延びろという意味だろう。

 こくりとうなずくと、リッシュモンは、枕に顔をうずめている私の後ろ頭に覆いかぶさり、髪をかき分けて唇で耳たぶを()んだ。そうやって、さんざん動揺させてからようやく出て行った。悪趣味なやつである。



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