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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十一章〈異端審問と陰謀〉編

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11.15 密談(4)女性を愛するよりも

「ジャンヌのことは残念でした」

「面識あるんだったな」


 リッシュモンはうなずいた。

 パテーの戦いで共闘したことは、私もジャンヌから聞いている。


「あの少女は、私がずっと心に秘めていた想いを見抜いて光のもとにさらけ出しました」


 驚いた。アランソン公がジャンヌにご執心だったことは知っているが、まさかリッシュモンの心まで射止めていたとは! 聖女の名声がおよぼす影響力は想像以上だ。


「いえ、ジャンヌのことではありません」

「そ、そうか……」


 即座に訂正されて、私は早合点したことを恥じた。

 リッシュモンはかすかな笑い声を立てた。


「私は……、自分がおかしいのだと思っていました」


 それは、意外な告白だった。


 アルテュール・ド・リッシュモン伯はブルターニュ公の弟だ。

 地元ではブルターニュの古い国名から「アルモリカの王子」と呼ばれている。

 フランス王家ともイングランド王家ともかかわりが深く、両国を翻弄するほどの名門だ。たとえ王でも一族の意向を無視できない。

 貴婦人たちが色めき立つような美形ではないが、硬質な整った顔立ちをしていて、高潔な精神と恵まれた体格を持ち合わせている。愛想が悪いのは媚びる必要がないからだ。だからといって、恵まれた境遇でわがままに生きてきたわけではなく、教養も武芸も日ごろの鍛錬あっての賜物だ。


 誰が見ても、理想的な貴族男子の姿だろうに。

 一体、どこがおかしいというのか。


「陛下をどう思うかと聞かれて『敬愛している』と答えたら、ジャンヌは『王太子さまを愛している。あなたも同じでしょう』と言いました」


 再び、ジャンヌのことが頭をよぎった。

 あの子はいつも「優しい王太子さま」、「優しい王様」と語りかけてきた。火刑の知らせが事実なら、あの無邪気な瞳が私を見つめることも、呼ぶ声を聞くことももう二度とない。

 ここまでの話の流れから、リッシュモンによるジャンヌの思い出語りかと思われたが、核心は別のところにあった。


「女性を愛するよりも、さらに愛している」


 その言葉にどきりと心臓が跳ねた。


「そう指摘されて、私は否定できなかった」


 これは、聞いてはいけない話だと直感した。

 だが、先ほどの陰謀の忠告とは別の意味でひどく真剣なリッシュモンを押しとどめることは、どうしてもためらわれた。


「ジャンヌは聖女を名乗る者らしく、私に説教をしました。サムエル記のダビデとヨナタンの話です。陛下は司祭の資格をお持ちですから、ご存知ですね?」


 旧約聖書『サムエル記』に登場する若き日のダビデと、サウル王の王子ヨナタンの伝説だ。

 ふたりは固い友情で結ばれ、お互いを自分自身のように愛するようになった。二人は契りを結び、王子のヨナタンはまとっていた衣服を脱いで羊飼いのダビデに着せ、剣や弓やベルトも与えた。


「ダビデはすべての君主の模範です。そのダビデ自身がヨナタンを『あなたの愛はわたしにとって女の愛よりもすばらしかった』と言っている。だから、私が陛下を愛していることは問題ないのだと……。あの少女はそう言いました」


 ようするに、ジャンヌはとざされたオルレアンを解放したように、リッシュモンが心に閉じ込めていた想いを解き放ち、後押ししてしまったらしい。とんだ聖女サマだ!



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