11.14 密談(3)不器用な好意
デュノワに裏切られていると知ってなお、それを受け入れて、親友の腕の中で息絶える自分を想像した。悪い気分じゃなかった。恍惚ですらある。
「許しませんから」
カーテン越しに、やや感情のこもったささやき声が聞こえて我に返る。
「オルレアン包囲戦のさなかで、偶然出会ったあの夜を覚えていますか。いえ、忘れたとは言わせません。陛下は私にこう仰せでした」
貴公に私の命をくれてやってもいい。
そう思える程度には好意を持っているよ——と。
「あの夜、あなたの命は私が貰い受けました。だから……、デュノワにあげることは絶対に許しませんから……!」
臣下から主君へ、脅迫じみた言葉なのに、なぜか涙がこぼれそうになった。
「私はどんな手段を使っても陛下の命を守ります。ですが、陛下自身がそばに仕えるデュノワに命を差し出したら、遠くから見守ることしかできない私にはなす術がありません。だから、今夜中にどうしても伝えておきたかった」
ベッドを取り巻くカーテンのすぐそばにあった気配がすっと遠ざかり、私は衝動的に起き上がった。
「ま、待て!!」
カーテンのひだを退けて、裸足で一歩踏み出した。
視線の先では、燃えさしが少しくすぶっている暖炉に松明が置かれていて、暗色のマントをまとったリッシュモンが手を伸ばそうとしていた。ほぼ真っ暗な寝室で、顔の半分——向こう側だけが照らされている。
リッシュモンは一瞬だけ動きを止めたが、言うべき言葉が見つからなくてまごまごしていると、こちらを振り返ることなく少しかがんで松明の柄をつかんだ。そのまま出入り口に向かって歩き始める。
ふいに、シャルル・ダンジューに言われたことを思い出して焦った。
次はいつ会えるかもわからないのに、このまま黙っていたら行ってしまう。また闇の中に消えてしまう。
「あの、少し待ってくれ。貴公に聞きたいことがある」
背を向けたままだが歩みが止まった。何か言わなければ。
「シャルロットに……、あ、知らないか。メーヌ伯だよ。義弟のシャルル・ダンジュー。最近、宮廷入りして私のそばで仕えるようになったんだ。その義弟に言われたんだ。私は人の気持ちに鈍感すぎて、たくさんの人を傷つけている。リッシュモンもその一人だって」
思いつくままに、整理されてない不器用な物言いだが、ひといきに話した。
「貴公を傷つけるつもりはないんだ。それなのに、さっきも八つ当たりで暴言を言ってしまった」
私の身を案じて忠告をしに来てくれたのに、感情的になって「大っ嫌いだ」と苛立ちをぶつけた。私はひどい恩知らずだ。
二度と会えないまま、本心もわからないままに死んでしまったジャンヌのことを思い出した。先延ばしにしないで言わなければいけない。
「その、ごめん……。王らしい言葉でも振る舞いでもないけど、今は貴公以外に誰もいないし、多少のことは大目に見てくれ。それに、貴公といると私はなぜか調子が狂ってしまうんだ。はは……、なんでだろうな」
笑ってごまかそうとしたら、くしゃみが出た。
私はあいかわらず格好がつかない。
「私もです」
リッシュモンは、壁の空いた高みに松明を置くと引き返してきた。
「私も、あなたといるとおかしくなる」
暗色の分厚いマントに包まれたリッシュモンと、薄い亜麻布の夜着1枚をひっかけているだけの私が、暗がりの中で漫然と対峙していた。





