キャラメル鳥
波打ち際で砂に木の棒で食べ物の絵を描く。ステーキ、カレー、ラーメン。だが、そんなことをしても腹は埋まらず、かえって欲は増進された。この島に漂流してもう数ヶ月。船はとっくに藻屑になっているだろうし、持ってきた荷物も大半は同じだ。もはや森で落ちていたヤシの葉を結んだ下着を着るのにも抵抗感は無い。
男は今日も、当てつけのように美しい空色の海をじっと見ていた。どこまでも続く広大さが地球の神秘を思わせるのと同時に、助けが容易に来ないという絶望も沸々と実感させてくる。ふと、空の果てから何かがこちらに飛んでくるのが見えた。鳥だ。また来た。あの、キャラメル鳥が。
飛んでくる鳥の全身は、赤みを帯びた暗い黄色を纏っていた。彼はその鳥を見る度に故郷で食べていたキャラメルの濃厚な甘みを思い出してしまう。その追想により、飢えを凌いだ日もあったが今回は違かった。欲が限界に達していたのだ。男は自作の弓と矢を持ち、立ち上がる。慣例通りに男の上空を旋回し始めた鳥に狙いを定め、弓を引く。よく狙って放つとそれは急所に命中し、鳥は砂浜へと音を立てて落ちた。
その日の夜、火を起こしてキャラメル鳥を焼き、一口かぶりついた。だが、その味はキャラメルのような濃厚な甘みとは程遠い淡白な味で、なんなら火の通りが甘かったからか血の味がした。男は気持ち悪くなって、せっかく手に入れたはずの食料を吐いてしまった。
しばらくして。匂いに釣られてだろうか、森の奥から自分の背丈の二倍はある熊が出てきた。怯えて体が動かない。だが、熊は食べかけの鳥に目をくれることなく男に近づき、彼の頬をそっと舐めた。そして首を傾げると、森の奥へ再び消えていった。
海を見ながら、思う。男は恐らくあの熊にとってのハチミツ男だったのだろう。生き残った自分に安堵する。揺れる波。また陽が昇ることを予感させる月明かりの希薄。見ていると、心の隅で一つの考えが萌芽するのが分かった。それは、ハチミツ男になれなかったことの後悔だった。




