拒絶の理由
噂は先回りした。
キアンたちが次の街に辿り着いたとき、「嘘を暴く目の男」の評判はすでに城門の内側に根を下ろしていた。あの騒動の夜から三日。人の口は風よりも速い。ヴァラの混乱を目撃した旅商人たちが、自分の恐怖を撒き散らすように噂を運んだのだろう。恐怖とは、そういうものだ。知らぬ者にまで伝染し、見たこともない相手を敵に変える。
城門の前で、衛兵に止められた。
「おまえは入れない。街の秩序が乱れる」
門前払いだった。衛兵は短槍を横に構え、道を塞いでいた。その目はキアンを見ていなかった。正確に言えば、キアンの目を避けていた。琥珀色の虹彩の縁に浮かぶ金色の輪──真実視の痕跡が、力を使っていない今もうっすらと発光している。代償が外見にまで刻まれ始めていた。人々はその光を恐れている。目を合わせれば、自分の嘘を暴かれる。そう信じている。
実際には、目を合わせるだけで嘘が暴かれるわけではない。代償(c)は近くにいるだけで発動するが、それは目線とは関係がない。だが噂は正確さを求めない。噂は恐怖を求める。「目を見たら嘘を暴かれる」という簡潔な恐怖が、人々の間に共有されていた。
「……わかった」
キアンは嗄れた声でそう言い、踵を返した。衛兵の内面の色が視えていた。赤い恐怖と、灰色の罪悪感。門前払いにすることへの後ろめたさはある。だが恐怖が勝っている。キアンを入れれば、街が壊れる。あのヴァラのように。衛兵は街を守っている。正しい判断だ。キアンの存在が人を壊すのだから、排斥されるのは当然だ。
四人は城壁の外に立った。乾いた風が砂塵を巻き上げ、城壁の石肌を撫でていく。壁の向こうからは市場の喧噪が微かに聞こえる。人の声、荷車の軋み、家畜の鳴き声。生活の音だ。キアンには許されない場所の音だ。
街道をさらに進んだ。次の集落でも同じことが起きた。門番が首を横に振り、住民が戸口を閉めた。「嘘つきの目の男」の噂が、キアンより速く伝わっていく。人の口が運ぶ恐怖の速度に、四人の足が追いつくことはなかった。
三つ目の集落で門前払いを受けたとき、スラオシャが小さく首を傾げた。
「不思議です。あなたが何かしたわけではないのに」
「したんだよ」
キアンが嗄れた声で返した。喉は灼けなかった。事実だからだ。あのヴァラで、キアンの存在が住民たちの嘘を壊した。商人が偽りを叫び、兵士が恐怖を吐露し、夫婦が秘密を暴き合った。キアンは何もしていない。ただそこにいただけだ。だが「そこにいる」ことが、破壊だった。
「なぜ真実が拒絶される?」
嗄れた声が自問した。街道の土を踏みながら、キアンは自分に問いかけていた。真実は正しいはずだ。善悪二元論の世界で、真実は善の側にある。嘘はドゥルジ──虚偽そのもの──の領域だ。真実を視る力は善であるはずだ。善であるものが、なぜ排斥される。
アタルが歩きながら答えた。老人の足取りは変わらず穏やかだったが、声には普段の飄々とした軽さがなかった。
「人は真実を恐れるからではない。真実が──自分の嘘を壊すからじゃ」
キアンは黙って聞いた。
「人は嘘で自分を守っている。夫は『妻を愛している』と信じ、商人は『正当な商売をしている』と信じ、兵士は『勇敢だ』と信じておる。それが嘘かどうかは問題ではない。その嘘が、自分を保っておるのじゃ」
老人の赤茶の目が、遠い地平線を見つめていた。陽炎がわずかにその輪郭を揺らしている。
「その守りを壊されることを──誰も望まない」
拒絶の理由が明確になった。人々がキアンを拒むのは、キアンが悪いからではない。キアンの存在が、人々の自己防衛を根こそぎ剥がすからだ。嘘という名の鎧を、着ている者の意志に関わらず溶かしてしまう。鎧を失った人間は、裸のまま自分の醜さと向き合わされる。それは暴力だ。善意の有無に関わらず。
スラオシャが静かにキアンの横に並んだ。肩の鈴がかすかに鳴った。
「あなたが拒絶されるのは、あなたが悪いからではありません」
穏やかな声だった。非難でも同情でもない。ただ聴き取ったものを返しているだけの、透明な声。
「あなたが──怖いからです」
キアンは反論しようとした。怖い? 俺が? 俺は何もしていない。ただ視えるだけだ。ただそこにいるだけだ。
「人は自分自身の真実が一番怖い」
スラオシャの灰緑の目が、キアンを静かに見つめていた。その目には裁きがなかった。責めもなかった。ただ、聴こえたものをそのまま言葉にしている──それだけの、澄んだ眼差しだった。
キアンは反論をやめた。スラオシャの言葉が正しいことを、真実視で「視て」しまったからだ。白い光。嘘のない言葉。そしてキアン自身が、誰よりもそれを知っていた。自分の真実が一番怖いということを。十六年間嘘で塗り固めてきた内面の奥に何があるのか──それを視ることが、キアンにとっても最も恐ろしいことだった。
三つ目の集落の城壁を見上げた。日干し煉瓦の壁が西日を受けて赤く染まっている。壁の上に衛兵の影が見える。キアンたちを監視しているのだろう。出て行くまで。
「……ここにも、居場所はない」
嗄れた声が漏れた。喉は灼けなかった。真実だからだ。
記憶が重なった。孤児院の廊下。追い出された夜。年長の子供たちが「こいつは嘘つきだから」と言い、神官が「出ていきなさい」と言った。あの夜も城壁の外だった。あの夜も、行く場所がなかった。嘘をつきすぎた少年は、嘘つきだという理由で追い出された。今は真実を視すぎる男が、真実を恐れる人々から追い出されている。嘘でも真実でも、過剰な者は排斥される。人の世に、居場所はない。
アナヒドが何か言おうとして、口を閉じた。キアンの内面の色が視えていなくても、その横顔が何を語っているかは──共感力がなくとも、わかったのだろう。
四人は城壁の影を離れ、街道へ戻った。西日が四つの影を長く引き、乾いた大地に伸ばしていた。




