第七話: 売るトラが牛ナウ
もしかするとこの物語は、15歳未満の読者にはあまり適していないかもしれません。
無規制の暴言や過激な描写、いわゆる大人向けの内容が含まれているわけではありませんが、テーマが少し……なんと言えばいいでしょうか……重たい、というか、含みのあるものかもしれません。
まあ、とにかく、15歳未満の方はおそらく楽しめないと思います。
(とはいえ、15歳以上であれば必ず楽しめる、という保証もありませんが。
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私の名前は大和撫子、30歳。本物の小説○……になる予定です。
現在は田舎生活リアリティショーの影の参加者でございます。あるいは、黒子のような存在でもあります。黒装束を着ているわけではありませんけれど。
そして、本日、私は足利製薬グループのパンプル・プラチナA所属の『花ミズちゃん』なるキャラクターのオープンフェイス衣装を身に纏い、コマーシャルガールとして活動している次第でございます。
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この番組は、宮崎の和牛牧場を舞台としております。参加者たちは牧場の従業員として働かねばなりません。牛への餌やり、洗浄、汚れの除去など……。加えて、限られた小区画で自分たちの食料の一部を栽培する必要もございます。さもなければ、プロデューサーから供給されるのは、米、納豆、油、そして「サシスセソ」の調味料──砂糖、塩、酢、醤油、味噌──のみ。さらに、週に一度、参加者10名で分け合うための高級神戸牛300グラム分が支給されるだけです。
当初の構想では、参加者から食料を一切与えず、各種の試練を突破することで勝ち取らせる予定だったそうです。しかし、法務部のどなたかがそれに待ったをかけました。プロデューサー陣は大いにご不満のご様子でしたが、最終的には従うほかなかったようでございます。
今回の参加者は非常に多彩な顔ぶれです。卒業間近のアイドル、オーストラリア出身のYouTube界の有名人──ちなみに私、この方のことはその時まで存じ上げませんでした──、地元の小学校教諭──牧場を離れて学校で勤務することを唯一許された参加者で、プログラムの係員による厳重な監督のもと働いております──、更生した前科者──参加者やスタッフの間では、過去に殺人の罪を犯したのではないかとの噂もありました──、かつての子役で芸能界復帰を目指す者、その他諸々です。
私に関しては、公式の参加者ではありません──賞金を得る権利は全くございません。賞金は無視できない額、七百万円で、この仕事でいただく額をはるかに上回るのですが──それでもスポンサーの要請により、すべての活動に参加することになっております。
プログラム開始前には、別のスポンサーである全国倫理畜産協会から、動物性たんぱく質の生産についての講義を受けました。
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本装置は、ウシを収容するために設計された大型密閉式金属チャンバーであり、医療用検査機器と産業機械の特性を併せ持つ。動物を内部へ誘導し扉を閉鎖した後、半円形開口を有する拘束板が下降して頸部を固定する。続いて空気圧作動式キャプティブボルト装置が前頭骨部に位置合わせされ、作動時には圧縮空気によりボルトが高速で射出されて前頭骨を破砕し、脳内へ貫入する。これにより脳震盪および神経組織損傷が生じ、即時の意識消失と痛覚の著しい低減が誘発される。 当該意識消失は、次段階の放血処置において心機能を維持したまま迅速な失血を促進するために不可欠である。頸静脈溝に切開を施し、重力および心拍動により排血を行う。
後続工程には、剝皮、乳房除去、直腸閉塞、断頭および内臓摘出が含まれ、枝肉を懸垂した状態で実施される。
上記の情報は、同協会殿より賜りました、倫理的畜産の詳細が記されたパンフレットから得たものでございます。
このプロセスは「人道的屠殺」と呼ばれている。ある意味では、ウシがこの点において人間のように扱われているという配慮がある、ということが安心材料になるらしい。
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初日、参加者たちは畝を作り、○庭菜園に種をまきました。私にはかすかな稲作の記憶しかなく──園芸とはまったく異なる作業のため、かつて農○の少女だった経験はほとんど役に立ちませんでした。
唯一、何をすべきか見当がついていたのは、前科のある参加者だけでございました。
「リハビリのプログラムに参加してたんですか?」と、参加者の一人が尋ねました。
「ええ。でもそこで何かを学んだわけではない。もともと食べ物の育て方は知っていたんだ。昔は農○だったからね。簡単な仕事ではないし、安い輸入食料との競争もある。」
前農夫、ナスさんは、意外にも饒舌に語り始めました。
「それで、ある日、天候にまったく恵まれず、作物が三度連続で全滅してしまったとき、銀行への返済もままならず、破産してしまったんです。それで街に出て、建設業で働きました。しばらくは順調でしたが、このあたりでも次第に仕事を見つけるのが難しくなってきて……」
「なるほど、移民が増えてから大変になったんですね……」と、参加者の一人がコメントすると、オーストラリア人ユーチューバーがそれにうなずいた。
「いや、まったく彼らのせいではないんです……そのころのおいらはもう年を取っていました。まだ何年も前の話で、日本人だけでは賄えない労働力を補うために移民が入ってくる前のことでしたから。」
私が顔を上げると、ディレクターがカメラとマイクのオペレーターに合図を送りつつ、別のグループ――こちらも○庭菜園を営んでいる――に焦点を合わせるよう指示しているのが見えました。
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「あああ、ミルクくんかわいい……」
アイドルのミキちゃんが、子牛を金属製のブラシで丁寧にとかしながらそう言いました。
若い方々が、こんな朝早くからあれほどの活力を発揮しているのを見るのは、実に清々しいものです。私はといえば、ただ一服したい気分でいっぱいでしたが、牛舎は当然ながら禁煙。食後に食堂でのみ喫煙が許されているのでございます。
「私たちは、牛を○族の一員のように育てています」
番組の取材を受けながら、牧場の管理責任者はそう語りました。
本来であれば、レポーターは私が務めるはずでした。ところが最終的には、その役目は足利製薬グループの社長の一人の息子に割り当てられることになりました。すでにエグゼクティブ・プロデューサーが、私の勤める出版社と取材協力契約を結んでいたため、私のほうはというと――黒と黄色の巨大なポリピル210錠入りの箱の着ぐるみに押し込まれることとなったのです。
手足だけは外に出した状態で、黄色のスパンデックスに包まれ、顔は黒いメイクで塗り固められております。
牧場の管理責任者と番組スタッフが別の参加者グループのほうへ向かうと、ミキちゃんがこちらに歩み寄ってきて、ひと言。
「うわ、ほんとに臭い……」
「そうかしら?」
「ねえ〜、おばさん。私には演技しなくていいから、ね? あの夜、ロータスTVの祝賀パーティーで足利三男があなたに気があったの、ちゃんと見てたから」
「……あなたも、あのパーティーにいらしていたのね」
私はポーカーフェイスを保とうと努めながら、そう返しました。
「てっきり、あなたがあの人の顔にドリンクぶちまけたあとでクビになると思ってたのに……。でも、こうしているんだ。運がいいよね……」
「ええ、本当に……運がいいわ……」
「調子に乗らないでよ……」
青春はいいな……
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「おじやってこんなにおいしいものなんて!大和、本当に出し汁はいってないのですか?」
そう言って、教師は中身ごと器まで飲み込みかねない勢いで、椀を抱えておりました。
「まあ〜、大したことではありません……それに、功績の大半はナスさんにあるべきでしょう。彼が料理に添える野草をいくつか見つけてくださったのですから」
私はいかにもそれらしく、わざとらしい謙遜を装ってそう答えました。皆がおじやを夢中でかき込んでおります。とはいえ、あまり得意になるべきではありません……結局のところ、その大半は空腹の賜物でしょうから。
もっとも、向こうのテーブルのグループは、自分たちで調理した料理を、さほど楽しんでいるようには見えませんでしたが。
満足したかどうかはさておき、食事の後、参加者たちは屋外へと向かいました。宿舎は用意されているにもかかわらず、全員が外で寝袋にくるまって眠らなければならないのです。
そして案の定、蚊は至るところにおりました――もっとも、夕暮れ時ほどではありませんが。
「大和さん、あなたもあちらへ行ってください」
ディレクターがそう言いました。
「すぐ参ります。一本だけ、タバコを……」
「いえ、今すぐ行ってください!」
「ですが……」
「『 ですが』ではなく。ささっと、ささっと。」
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「いったい、こんな状況でどうやって眠れというのでしょう……」
蚊にも悩まされておりましたが、それ以上に落ち着かなかったのは、身体も洗わずに横になることでした。
立ち上がろうと試みましたが、身体はぴくりとも動きません。腕も、脚も、まるで私の指示を拒否しているかのように反応しなかったのです。
やがて、青い光が差しました。最初はかすかに――しかし瞬く間に、目を焼くほどの強烈な輝きへと変わっていきます。
隣で眠るミキちゃんに向かって叫んでみましたが、まるで届く気配はありません。スタッフの名も呼んでみたものの、返事は一切ありませんでした。
気がつけば、はるか上空に、巨大な発光する円盤が浮かんでおります。
そして突然、私の身体は次第に軽くなっていきました。やがて私自身も宙へと浮かび上がり、その明かりのほうへと引き寄せられていったのです。
ふと下を見下ろすと、そこには私のもう一人が、元の場所で眠っているのが見えました。
そして次の瞬間、光が私を完全に包み込んだのです。
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「ようこそ、大和撫子……」
「ふん〜、私の名前をご存じで……しかも日本語を話すとは……」
「ええ〜、いろいろで……」と、異星人たちは説明したのでございます。そしてこう続けた――
「ですが、私たちの存在に驚いた様子はないようですね……」
「ええ〜、いろいろで……」
そして「ピンポン」の音がした。
宇宙人たちは四足歩行で、各肢の先端には蹄のような突起がありました。細長い尾の先には房毛がついており、常に後ろをパタパタと打ち、ハエのような小さな生き物を追い払っています。腹部はやや樽型で、中には腹面に四本の指のような突起を持つ個体もおりました。頭部は先端が鈍い細長い吻を備え、幅広の口が二つの大きな鼻孔の下で絶えず何かを噛んでおり、ときどきゲップも漏らします。多くの個体は、短く尖った角を一対持っておりました。
「私たちがあなたをお招きした理由をご存じですか?」
――誘拐を「招待」と呼べるかどうかはさておき、そう尋ねられました。
ピンポン。
「正直なところ、まったく見当もつきません」
「気になるんだ……」
「え、何と?」
ピンポン。
「なぜですか?」
「……?」
「なぜ?」
「……?」
「なぜそんな着ぐるみを?」
「ああ、これは……ええ〜、いろいろで……」
ピンポン。
「えっと、出なくてもいいかな?なにかピンポンと鳴っていますけれど……」
「ふざけんな!答えよ」
彼らは声を荒げ、本当にそのことが気になっていた様子を示しました。
「すみません!」
私は、あまり詳しいことには触れずに説明いたしました。
「そうか、そうか。気の毒なことだ。番組には呼吸器疾患を抱えた視聴者が大勢いるから、薬を服用する時間を知らせる必要があるというわけか……」
――要するに、私は嘘をついたのです。
彼らは、私が自分たちの宿敵であるトラマンを象徴する存在なのではないかと恐れていたそうです。トラマンとは、銀河系最強の捕食者を自称し、他種族を狩る異星種族でございます。
どういうわけか、そのトラマンは、多面体状の装甲を身にまとっており、それが「花ミズちゃん」の衣装とさほど変わらぬ意匠なのだとか。
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彼らがここへ来たのは、言うまでもなく、私の着ぐるみについて尋ねるためだけではありません。主たる目的は、自分たちの親族がいかに過ごしているかを確認することでした。
彼らの一部は、トラマンから逃れるために地球へと追放されたのだそうです。
今朝、彼らは番組の放送電波を傍受し、伝説の王のひひひひひひひひひひひひひひ孫の、さらにそのまた幾代も先にあたる子孫――ミキちゃんがブラシをかけていたあの子牛――の姿を認識したのだそうです。
ピンポン。
「でえ、とっても可愛かったでしょう?」
「まあ、そうでしょう」
ピンポン。
「『まあ』?」
「いえ、めちゃくちゃ可愛い…… えっと、ミルクくんと会いに来られたのですか?」
ミルクくんの真にして王たる本名は、どうやら「プリンス・ボス・タウルス・ゼータ・ティエン・クワン・ビーツー・サード」――とか、そんな感じのものらしい。
もっとも、“ボス”が正式な名の一部なのか、それとも厳粛なる名乗りの最中にうっかり解き放たれた一発のげっぷ音だったのかは、いまだ判然としない。
幸いにも、我々のような庶民が彼をお呼びする際は、つつましく「坊っちゃん」で差し支えないとのことだ。
「えぇ、それとその坊っちゃんのお母様と。最近、連絡が取れないんでね」
「あぁ、そうなんですか」
ピンポン。
「その……坊っちゃんのお母上がどちらにいらっしゃるのか、何かご存じありませんの?」
「えっと……」
その瞬間、艦内のすべてが凄まじく震撼した。
やがてメインモニターが不穏に明滅し――そこに映し出されたのは、擬人化したトラの姿だった。
「ただちにドアに応対せよ。さもなくば、相応の結果を味わうことになるぞ!」
宣告が、艦橋に重く響く。
「トラマンめぇ……」
と、私の「ホスト」の一体が応じた。
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トラマンは艦体を破って主貨物ホールへ侵入、包囲されるや否や球状デバイスを投げた。
閃光。
白光が視界を焼き尽くし、やがて装置から立体映像が浮かび上がる。――不動産開発のプレゼンである。
「諸君の人生最大の好機だ! 比類なきタイムシェア型高級リゾートを毎年三週間の滞在費の一部で、保有クォータ分の利用権を購入できる!」
そう、彼は捕食性の営業マン。
売るのは建物でも賃貸でもなく「使用権」。ゆえに銀河不動産法の規制外だ。
構造欠陥の完全開示も、追加費用や税金の事前説明も――無縁である。
艦の乗員の多くには、あの罠に落ち、タイムシェアの維持管理費やその他の不可視コストで身ぐるみを剥がされた親族や友人が少なくとも一人はいる。
「帰れ」
艦長は低く告げた。
「貴様をこの船に歓迎する理由はない」
「おほぉ〜 本当に? リゾートのバーチャル・クロッキーをご覧になるお気持ちは、微塵もございませんか?」
鋭い爪をきらりと見せつけながら、トラマンが問う。
――だが、そのとき。
彼の視線が、こちらに止まった。
「がはっ……な、何だと? その首を刎ねられたトラマンは、一体――!?」
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「そ……そうだ……」艦長は呟いた。
「あなたが来る少し前、彼女がここに現れ、あのような物件を売りつけようとしてきたのだ。我々は丁重に興味がないと伝えたが、彼女は受け入れようとしなかった。そして、やむを得ず極端な手段に訴えたのだ……」
トラマンは冷や汗を浮かべ、身を震わせ始めた。
私の“ホスト”が一歩前に出ると、彼は後ずさる。
「草食獣のくせに……!」
――そう叫びながら、営業マンはスペースバイクにまたがり、逃げ去った。
艦長はほとんど気を失いそうになり、溜まりに溜まった緊張を一気に放出した。
他の乗員たちも、露骨に安堵の色を見せた。
「たすかった……」
と、二人の乗員が言いながら、祝意を示すかのように“抱きつき”してきた。頭を私に押しつけ、ぐりぐりと擦りつけながら。
その動きで、花ミズちゃんのコスチュームから、私が小部屋に差し込んでいた錠剤と全国倫理畜産協会のパンフレットが飛び出した。
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艦長の顔には恐怖が浮かび、パンフレットを読み進める目は震えていた。
「……我々の種族の者に、そんなことをするのか?」
否定できなかった。
「しかも、それを“人道的”な扱いだと呼ぶのか?」
否定できなかった。
「そちらの種族は、自分たちの仲間に対しても、そんなことをするのか?」
否定できなかった。
その緊張した瞳は、まるで今にも私を丸呑みしそうに見えた。
余談だが――そう、牛やその他の草食獣は、時折他の動物、例えば小鳥などを捕食することがある。カルシウムが必要な場合や、死骸の骨を食べることもある。生きた脊椎動物がメニューに含まれることさえある。少なくとも、有名な報道機関のニュースで読んだ限りでは。
「あああ、ミルクくん、かわいい……」
突然、どこからともなく声が聞こえた。午後の再放送番組だった。
艦長は映像に釘付けになっていた。何かがおかしい……。
「それは坊っちゃんじゃない!」と、思わず叫ぶ。
映っていたのは、雌の子牛だった。長く考える暇もなく、坊っちゃんの母親の行方不明は、彼らが地球を去ったためだと結論づけられた。そして、その怒りは一瞬にして消え失せ、代わりに坊っちゃんの新しい居場所を見つけることへの心配が立ち込めた。
「ほかの牛たちはどうするんだ?」
「それは我々の問題ではない。彼らは自分の意思でここに来た。単なる平民だ。」
「でも、あの屠殺場は……」
「まあ、彼らは順調に増えているようだ……気候に影響を及ぼすほどに……。全体としてはポジティブな結果のようだが、それは彼らの問題で、我々の問題ではない……」
そう言うと、艦長は合図を出した。
そして私は、船外――宇宙へと投げ出された。
ああ、なんと静謐で荘厳な光景でございましょうか。地球の湾曲の彼方より、悠然と昇り来る太陽――まずは太平洋を照らし、そして日本へとその光を注ぐのです。凍てつく宇宙の冷気を、いとも容易く退けながら。
……とはいえ、その慈悲深き光は、ほんの数秒のうちに我々を耐え難き灼熱へと叩き込むのですが。
それにしても――息ができませぬな。
そしてその時、私は何かに引きずり下ろされていくのを感じた。
私はそのまま地球へ――そして、自分の身体へと直接落ちて戻った。
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荒い息とともに目覚めると、太陽はすでに昇りかけていた。皆はまだ眠っているが、円谷先生だけは起きている。
「今日は月曜で、学校へ。午後には戻ります」
「行っていらっしゃいませ」と、横になりながら言った。
「あなたも彼女とご一緒に」と助監督が告げた。
シャワーだけは許されたが、水は実に冷たかった。
車の後部座席に腰を下ろした途端、足利製薬グループのご子息が、当然のように私の隣へ座ろうとした。
「この学校までの道、なかなか景色がいいらしいですよ……」
と話しかけてきたが、その言葉は円谷先生によってあっさりと遮られる。
「――ああ、すみません。助監督がお呼びのようですよ、足利さん」
そう言って彼をさりげなく車外へ促し、代わりに先生がその席へ腰を下ろす。そして、こちらへ意味ありげにウインクをひとつ。
「……正直に申し上げますと、その着ぐるみ姿のままでは、今日は授業にならないでしょうね。誰も」
その言葉の意味を、私は学校に到着してから思い知ることになる。
「トラマン……トラマンだ!」
「がお〜」
子どもたちは私を取り囲み、思い思いにお気に入りの特撮キャラクターのポーズを再現してはしゃいでいる――首が飛んでいるにもかかわらず。
「生徒たち悪役に夢中になるのは、よろしいのでしょうか?」
私は小声で円谷先生に囁いた。
「そうだな……」
先生は人差し指を口元に添え、少し考える素振りを見せる。
「だが、トラマンを純粋な悪役と捉える者は多くない。むしろアンチヒーローのような存在だろう。人間が生み出した公害から怪獣を創り出し、自然破壊への報いとしているのだからな……」
主人公をエコテロリストにしたため、スポンサーはこれを許さず、トラマンは悪役に格下げされ、番組も「スペースタイガー・トラマン」から「ウルトラ部隊Dレンジャー対悪質・トラマン」へと改題された。しかし、ご覧の通り、何の効果もなかった。
「子どもたちが『花ミズちゃん』を『トラマン』と呼んでいるのも、悪くはないのでは?」
私はアシスタント監督に囁くレポーターの口元を読み取った。
「心配無用ですよ。放送版ではちゃんと吹き替えを入れていますから」
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もと子役の内田くんは、脳卒中から回復したばかりにもかかわらず、ゲームではひときわ元気だった。
内容は、傾斜板から落ちるボールの落下スロットを予想し、落ちたボールをプール上の回転円筒を渡ってバッチへ運んで確保するというもの。
最も多くのボールを集めた者が300グラムの和牛を獲得するが、勝者はその一部を相手チームの無作為に選ばれた参加者に分け与えなければならず、受け入れられなければ誰も和牛を得られない。
内田くんは、予想どおり圧勝だった。
相手チームは危うく全員無得点というところだったが、五番目のメンバーがかろうじて一球を確保した。もし一球も取れていなければ、分け前の提案を受ける資格すらなかったのだ。
内田くんは五分五分の分配を提案し、それは受け入れられ、私たちの間で均等に分けられた。
夕食会場では、私は味噌入りのおにぎりを用意し、各自の卓上にはジンギスカン用のグリルが置かれ、それぞれが自分の焼肉――通常の半分ほどの一切れ――を焼く。
「筋張っていて、味気ない」
私はその一切れをしばらく見つめた末、さりげなく円谷先生へ差し出した。先生は微笑み、静かに「ありがとう」と口にされた。
「筋張っていて、味気ないか」
――と、私は内心で品評していた。
「いま、何か申しましたか?」
と、先生が静かに問いかける
「いえ、何も……」
夕食の後、私は足利製薬グループのご子息とミキちゃんが、人目につきにくい一角にいるのを目にした。
彼女は壁際へ追い詰められ、とても楽しんでいるようには見えない。
――私の問題ではない。
そう思いながら、ワイングラスを手に取った。
「お願い、離してください」
ミキちゃんの唇がそう動くのを、私は読み取る。
――私の問題ではない。
支給された、あの安っぽいワインを、わざわざ丁寧にグラスへ注いでやった。
「トークショーには出たい。でも、そんな代償は払えません」
――私の問題ではない。
そして私は、それを静かにひと口、味わった。
私の問題ではない、はずだった。
だが気づけば、私の腕は伸び、その手には空のグラスが握られている。そして足利○三男の顔と衣服の一部は、安物のワインで見事に濡れていた。
15. 終章
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三か月に及ぶプログラムも終盤になって、ようやく私たちが育てた作物の大半が収穫期を迎えた。それまでは、申し訳程度の葉物を摘むのが精一杯であった。ナスさんは実に手際がよく、対するもう一方のチームは生産量が振るわない。「元・元農○」を名乗っていた彼の提案――収穫物の一部を分け合おうという案――に、誰も異を唱えなかった。
「ねぇ、お姉ちゃん、サラダは私にまかせて」
ミキちゃんが私にそう言う。
驚くべきことに、彼女は野菜の扱いに妙に慣れていた。きゅうりを掴み、固定器に――いえ、まな板に置き、首を――いえ、端を落とし、血抜きを――いえ、苦味の水分を抜き、皮を剥ぎ――いえ、丁寧にピーラーを走らせ、内臓を――いえ、種を取り除く。
「お姉ちゃんはきゅうりサラダたべないの? なんで?」
「ええ〜、いろいろで……」
例のオージー系ユーチューバー殿は、最終話の通常放送が無事に終了した後、ご自身のチャンネルで生配信をなさる許可を得た。
私も一応、英語にはそれなりに通じているはずなのですが……あの電光石火の早口トークを前にしては、内容の実に半分ほどを華麗に聞き逃してしまった次第。
残念ながら、彼が私の「お茶」を褒めた意味は理解できませんでした。というのも、実際には私たちはお茶などいただいておらず、唯一試したのはミキちゃんが作った○庭菜園のハーブの浸出液で、とても不味かったのです。おまけに薬草はタバコの代わりには、どう取り繕ってもなりはしなかった。
そもそも私のタバコの在庫は最初の一ヶ月で綺麗さっぱり尽きていて、追加の調達も許されなかったのだから、どうしようもない。
しかし、彼が皆を「トカゲが水を飲むかの如く」と評したときには、完全に置き去りにされました。
「おい、みんな、こっちだ!」と内田くんと円谷先生が外から叫んだ。
夜空には、鮮やかな青い軌跡がひとすじ見えております。
「何ですか、あれ?」とナスさんが問うた。
「UFOだ!」とミキちゃんが叫びました。
「流れ星でございます」と先生が解説なさり、
その光はやがて跡形もなく消えてしまいました。夕食会場で生配信を続けていたユーチューバーは、もちろんその出来事には気づきませんでした。
足利○のご子息は、あの日の後ついに姿を見せなかった。代わりに、テレビ局の新しいレポーターが選ばれていた。
そして、理由は定かではないが――激しい抗議にもかかわらず――最優秀賞はなぜか相手チームの一員に贈られた。断言はできない。ただ、私の報酬明細に「タキシードのワイン染み抜き代」と記された控除項目があった事実が、いささか想像力を刺激するのである。




