第六話: ゼロ・ゼッド・ジパング!!
もしかするとこの物語は、15歳未満の読者にはあまり適していないかもしれません。
無規制の暴言や過激な描写、いわゆる大人向けの内容が含まれているわけではありませんが、テーマが少し……なんと言えばいいでしょうか……重たい、というか、含みのあるものかもしれません。
まあ、とにかく、15歳未満の方はおそらく楽しめないと思います。
(とはいえ、15歳以上であれば必ず楽しめる、という保証もありませんが。
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私の名前は大和撫子、30歳。成功した小説○……になる……いずれ。
ただ今は、居酒屋「あいているヤ」の看板娘……だったはずが……なぜか歴史戦士+レーザーサバ+ホラー+脱出ゲーの選手になっています。
どうやら可能な限り多くの交通規則を踏破することを崇高な目標に掲げているらしい乗用車に、現在わたしは同乗中。新橋から秋葉原まで、この時間で十分を切るとは、もはや新記録でしょう、きっと。
そして運転席には、我らが蜩川さん。
ハンドルを握る御姿は実に真剣そのもの、視線は前方へ鋭く注がれております。――ええ、あまりに集中なさるがゆえ、後部座席の阿鼻叫喚など露ほどもお気づきでないご様子で。
後部座席には、三柱の小さな聖人たち――『新時代ゴスペル』の聖人――がご鎮座あそばしております。
しかも驚くべきことに、皆蜩川さんのお子様でありながら、それぞれ別の姓を名乗っておられるという。
その三人は、
吉本佳春、長男、13歳、
小峠優広、次男、10歳、
富樫小芳、長女にして末っ子、6歳。
いや、世に知られるところでは――
ちえのわチク・くノ一、
連子門すみこ・女武者、
バン=キジン・女性力士。
ここでいう「世」とは、あのThERO「ザ・エレクトロニック・レクリエーション・オアシス」ゲーセン0の建物――かつて長きにわたりアーケードの聖なる神殿であった場所を指す。
この車内という小宇宙では、彼らは別の名で知られている。
さあ、互いの名を名乗り合え――
「かあちゃん、この『バカの兄鬼』がわたしのセーラーキュアの腕輪とった!」
「『アホちびすけ』、そっちがその腕輪でぶつけてきたんだろ!」
「この『クソガキ』、こっちゃんをいじめんな!」
「年上だからって偉そうにすんな、『でぶゴリラ』!」
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「じゃ、二時間ほどでまた迎えに来ます。大和さん、子供たちをお願いします。急に予定を変えてしまい、申し訳ありません」
ThERO内部で、機器や装置の放つ無数のビープ音や金属音に負けじと、蜩川さんは声を張り上げた。
「いえいえ……でも、居酒屋は大丈夫ですか?」
「本当は大和さんが居てくれたら助かるけど、その三人が向こうにいるのは困る。つまり、あちらの手伝いが二人増えることになる。もちろん、その場合は支払いも二倍です」
二倍は悪くないが――仮に私が助手二人分働くなら、報酬も三倍が妥当では?
――と、私は胸中でひっそり思う。もっとも、数学は得意ではない。
「え? 今なにか言った?」
「ううん、何でもない」
「撫子ねえ〜、撫子ねえ〜、遊ぼうよ」と子供たちが私の腕を引きずり始めた。
「コラ!『撫子ねえ〜』じゃないでしょ!『大和さん』か『大和お姉さん』でしょ」
「ああー、蜩川さん、それは構いません」
「いえ、きちんとしないといけません。子供たちも年上への敬意が必要です……では、改めてお願いします」
そう言い、彼女は私たちを残して去った。
かくして子どもたちは、私をずるずると三階分引きずり上げたのでございます。
――そして、たどり着いた先にあったのは……あれ……あれでございました。
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三階――パチンコ、UFOキャッチャー、ビデオゲーム各階を従えし最上層――そこに鎮座していたのが、例のレーザーサバイバル・コート一式でございます。
もっとも、ただ「レーザーサバ」と呼ぶのは些か無礼。あれは単なる遊戯にあらず。拡張現実を纏いし参加型ライブアクション複合体験――レクリエーショナル射撃に近接戦闘、さらに肉体派謎解きまで掛け合わせた総合娯楽戦域。その名も――「0Z/ジパング」。
数年前に鳴り物入りで開業以来、ThEROゲーセン0の旗艦アトラクションとして君臨してまいりました。
しかし――その日はまさしく最終日。
0Z/ジパングにとっても、ThEROゲーセン0にとっても、終幕の日でございました。
賃貸契約は満了。建物所有者たる某プライベート・エクイティ・ファンドは、この地を新たな企業向けオフィスタワーへ転生させるほうが魅力的と結論したのでございます。
秋葉原という街もまた、百余年にわたり常に変転を宿命としております。
今「アキバはおわコンだ!」「オタク楽園の終末」と嘆く人々が通い始めた当時の姿を目にしたなら、徳川○康公でさえ驚かれましょう。とはいえ、現代オタクの大半が江戸に放り込まれ「我が○だ」と寛げるかと問われれば、甚だ疑わしい。たとえ自他ともに認める「江戸時代バカ」である我々でも――だ。
私たちは受付へ赴き、次の九十分間の戦域予約を済ませた。
子どもたちは経験済みで、パーティ編成は即決。
一方私は、キャラ設定に着手し、クラスを選び、そして――名を与える重大任務に直面していた。
試みに「ピンク・グレートピース」と入力したところ、システムは無情にも即却下。どうやら国○特許庁登録済み商標は使用不可の仕様らしい。
「ねえ、なにそれ? ロザ・グローサー・フリーデン? 『バカ』な名前」
と、小芳ちゃんが容赦なく放ち。
「はぁ? 俺はなんつった、『アホちびすけ』が」
と、優広くんが即座に噛みつく。
「おい、『クソガキ』、こっちゃんをいじめんなって言っただろ?」
――と佳春くんが怒鳴り、ついでに弟の頭へ拳骨を一つお見舞いなさった。
「いてぇ。俺はなんもしてねえ、『でぶゴリラ』」
「お前ら、喧嘩はだめ。仲良くしないと、そのゲームはもう誰もやらないよ」
そう言った瞬間、私の声はまるで母そのものの響きだった。
背筋を走るぞくりとした震えを、必死で抑え込む。
戦闘用ベストを装着。光学センサー搭載の近未来的外套だ。被弾すれば即座にキャラへダメージ加算。体力ゲージが零になれば、はい退場――実に明快。
運営いわく、レーザーは網膜を損傷しない低出力光線。しかし「念には念を」の理念のもと、ゴーグル着用は義務。仮定の「万が一」への備えだという。もっとも確率はさておき、取り外しは断固不可。
転倒および物理衝撃が「保証済み」ゆえ、膝当て肘当ても必須。頭部にはヘルメット。防具にとどまらず通信機能付き、さらにバイザーにはARディスプレイという豪華仕様である。
加えて私はスマートフォンをトレイに置き、参加中の負傷・損害について企業を免責する不訴求特約付きインフォームド・コンセント契約書へ署名する羽目に。万全の自己責任体制、ここに極まれり。
しかもスタッフはなぜか私を子どもたちの母と断定し、保護者責任を負うことに。弁明は試みたが、手続きは流れるように進み、私の声は届かなかった。
なお抗議しようとした刹那――小芳ちゃんが私の腕にしがみつき、
「ママ、行こ! ママじゃないと門、開かないよ」と無邪気に宣言。
かくして私は弁明の機会を完全に奪われたまま、「私の子どもたち」に引きずられ、アリーナへ連行されることとなった。
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戦闘アリーナは可動式LEDパネルで構成された迷路。通路の配置は常に変化し、パネルにはシナリオだけでなく仮想オブジェクトやキャラクターも映る。初期設定は明治の東京、秋葉神社建設現場だった。
「小芳ちゃん、小芳ちゃん」
私はマイク越しに呼ぶ。
――返ってきたのは無情なノイズ……と言いたいところだが、彼女の規則正しい呼吸音だけはやけに鮮明に聞こえていた。
一度深く息を吸い、気を取り直して再挑戦する。
「バン=キジン……」
彼女は即座に応答した。
「了解。……感度良好。明瞭に受信。以上」――まるでアニメ『敏捷武者ジュウセキ:無数代替現実X』のセリフそのままのように。
「佳春くんと優広くんは見えるか?」
「いえ、こちらにはいません」
再び深く息を吸い込む。
「では、ちえのわチクと連子門すみこは?」
「了解。対象、私の位置から約10メートル、12時方向。座標ロック。以上」
「座標ロック?……まずい! 小芳ちゃん、そこから一人で動かないで!」
返ってきたのは雑音……そして、やけに重々しい息遣いだけ。
「バン=キジン……えっと、コピる?」
耳に飛び込んできたのは――
「ムハハハハ……お前の『アホちびすけ』、まんまと我らの罠にかかったな!ううっ…なんで叩くんだよ?」
「こっちゃんいじめちゃダメって言ったでしょ!」
「私はこっちゃんじゃない!無敵の『バン=キジン』、横綱級女性力士だ…!」
「ねえ、見て。すごいでしょ」
「えぇ……どうやってレーザー光をあんなに明るくしたの?」
「ネットでチュートリアル見てやり方わかったんだ。ほら、ゴーグルのレンズ使えばもっと光集められるんだよ…」
「みんな?やめて。姉さんはまっすぐそこまで行くから。レーザーいじらないで」
でも、私の声は届かない。
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私が小芳ちゃん――いや、バン=キジンのもとへ向かう途中のことである。
気がつけば町人どもにぐるりと囲まれ、さらに身分低そうな侍数名がこちらを値踏みするように立っていた。
(よりによって、今か……?)
私は心中で毒づいた。
「……今、何かおっしゃいましたか?」
不意に携帯端末から声が滑り込んできた。
「は? どちら様で?」
「ええと……大和さん?」
「大和撫子です」
「すみません。当ゲームの技術担当でございます。まことに、心苦しいのですが、ただいまソフトウェアに若干の不具合が発生していることを検知しました。些細な問題ですが、万全を期すため――至急、お子様方と合流のうえ、闘技場からご退出いただけますでしょうか。もちろん返金対応も――」
「合流はしている。しかし今ちょうどパネルの間に“閉じ込められて”いてな。そちらでロック解除できぬのか?」
「それが……誠に申し訳ございませんが、解除はいたしかねます。」
「ほう? なぜだ?」
「先ほど申し上げました、ソフトウェア上の問題が……」
「『些細な問題』ではなかったのか?」
「……面目次第もございません。」
「では、そちらスタッフを寄越して子供たちを回収し、そのついでに私も救出する選択肢は?」
「そ、それは……」
「せめて子供たちに連絡を入れてくれ。兄に、下の子を連れてエリアから退避するよう伝えてくれ」
「それが……現在、応答確認できておりません……」
「ゲーム内の名前で呼び出してみたのか?」
「……はい? と、申しますと……?」
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ゲームのヒント①:レーザーはNPCには一切効かない。
ゲームのヒント②:戦闘系ゲームで、子供にキャラ職業を「漁師(しかも女性)」に設定させるな。
ゲームのヒント③:強化アクリル製LEDパネルを拳で殴るなど思うな――痛い。とても、痛い。
「これもだめか?」
私は背を片側の壁に押し当て、両脚で反対側を突っ張る……
だが、表面が滑らかすぎる。摩擦という味方は、本日休暇中らしい。
「お嬢さんや、拙者と川釣りなど、ひとつ興じてはくださらぬか。御心配召されるな、舟は決して揺らし申さぬゆえ」
声をかけてきたキャラクターはにこやかだが――その目は釣り竿より他の獲物にしか興味がないと物語っていた。
すると、身分低き帝の公僕が、のっそり現れた。
「おやおや、何ごとかな?」眼鏡をきゅっと押し上げ言う。
「忘れてはならぬぞ、『文化の明かりが開きながら化わる』――」
声色を作り込み、まるで芝居のように告げる。
『文化の明かりが開きながら化わる』?
まさか、あまりにもあっけない。
「文明開化、でございますな。」
私は軽く返す。
すると、公僕はにやりと笑い、
「おやおや、諸君、若いお嬢さんのために通りを開けるのだ。」
群衆は後ずさり、パネルは私を解放した。
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ついに子どもたちのいるはずの場所に着いた。しかし見えたのは小芳ちゃん、つまりバン=キジンのヘルメットだけで、誰の姿もなかった。
どこからともなく煙の匂いが漂う。周囲を見回しても、特に異常はなし。頭を上げると、天井が燃え盛っている――スプリンクラーは作動していなかった。
私は子どもたちのコードネームを大声で呼んだ。
「バン! チク! すみこ! 聞こえる? 返事して!」
しかし返ってきたのは、ただの沈黙だった。
突然、煙の中に一本のレーザー光が浮かぶ。その光は天井の別箇所を指し、新しい炎の焦点を生み始めている――どうやら部屋の向こう側から放たれたらしい。
「子どもたち、すぐ着くから!」と私は叫んだ。
道すがら、ゲームスタッフに電話をかける。
「技術担当さん、聞こえますか?」
しかし、返事はまったくなし。
そして突然――
またしてもパネルにぐるりと囲まれた――しかも今回は、いかにも怪しげな浪人たちだ。
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「チクショウ!」と思った。
「おや、漁婦殿。そなた、こんなところで何をしておる?」
浪人の一人が唇を舐めながら言った。
「ここは危うき場所じゃ。しかし恐れることはなかろう。我らがそなたを守ろう……しかも、わずかなる代価でな」
軽量フォーム製の武器の小道具は、殴ってもまったく効果がなかった。
「申し訳ございませんが、浪士様。あいにく、一文の持ち合わせもございません」
「拙者は分別のある男よ。銭がなければそれも致し方あるまい。
されど――情けで払う手もあろう。
さあ、娘御。そなたの『恋』、拙者に差し出してはくれぬか」
「……は?」
「『恋』をちょうだい」
「そうか」
「で、娘御。さて、どう出る?」
「……渡せば見逃すと、確かにおっしゃいましたね?」
「うむ、まさしくその通り申した。娘御よ、拙者の言葉に偽りなし」
「この場合は、浪士様……」
私はそう言いつつ、漁具の小道具を手に取り、糸を垂れた。
浪人は、バーチャル鈎もおもりも軽々かわした。
「ふん、そち如き安物手練れで、拙者を討つつもりかのう?」
糸は浪人の後ろにあった魚屋の屋台の柱にかかり、私は引いた。
すると屋台は彼の上に倒れ――無数の「鯉」に埋もれた。
もう一方の浪人は居合のごとく刀を抜こうと構えたが、その刹那――どこからともなく笛の音が響いた。
悪党どもは警察を慌てて逃げ去り、パネルは開いて、私を解放してくれた。
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パネルがまた動き出すと、私は武器の小道具をその隙間に挟んだ。でも、スポンジ程度では止められなかった。もちろん、エレベーターの扉のように安全装置があるわけでもない。
つまり、またしても閉じ込められてしまった。
今度は忍者に取り囲まれた。
釣り竿を使う作戦はうまくいかなかった。忍者はクナイで糸を切ってしまった。
「ちっ」
忍者が「土遁!」と叫ぶと、姿を消した。何かが弾けるような音がして、私の体力バーが少し減った。
「ちょっと……ゼロになったらどうなるんだ? ずっと閉じ込められたままなのか? いや、そんなことを考えている暇はない」
すると、忍者たちが再び姿を現し、手裏剣を投げてきた。しかし、蓑と大漁着の組み合わせがうまく攻撃を防いでくれた。
すると、彼らは「火遁!」と叫び、私に向かって爆弾を放った。私は魚籠で爆弾を受け取り、投げ返した。しかし、忍者たちは巧みにそれを避けた。
「ちっ」
彼らはもう一度「土遁!」と叫んだ。今度は私は投網を取り出し、地面に向かって投げた。地中から現れた忍びたちは、そのまま網に絡め取られた。
再び笛の音が響き、警察が彼らを連行していった。
パネルが開き、道が通れるようになった。
最後の光線の発生源と思われる地点にたどり着いた。そこには彼らがいたが、三人とも地面に倒れていた。
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「おい、起きて」
私はそっと子どもたちの頬を叩きながら声をかけた。しかし、反応はなかった。
少なくとも、まだ体は温かく、呼吸はしていた。
出口の門まではそこから約20メートルだったが、まるで200メートルも離れているかのように感じられた。私は気を取り直し、深く覚悟を決めた。
小芳ちゃんのベストを自分のものに繋ぎ、抱っこ紐のようにして彼女を運び、少年たちの背中の襟元をつかんで引きずった。
一歩一歩がまるで沼地を抜け出そうとするかのように重く、息も上がりそうだった。
「もしこれを無事に抜けられたら、絶対タバコやめる…」
私は心の中で小さくつぶやいた。それは、気力を奮い立たせる祈りのようだった。
門に近づくにつれ、パネルが動き始めた。
「だめ、だめ、だめ。お願い、やめて…」
私はそう言うと、何も考えずに片方の脚を二枚の動くパネルの間に差し入れた。
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パネルに押しつぶされそうになった発泡の武器の小道具のことを思い出した。脚を引き戻す時間はなく、ただ目を閉じた……しかし、何も起こらなかった。
LEDモニターは止まっていた。やはり、センサーがあったのだ。単なる光電センサーではなく、赤外線式の検知器だった。
私は少年たちをその隙間から通し、さらに注意深く小芳ちゃんを抱えて通り抜けた。
難燃剤は効いていたが、火は消えていなかった。煙の匂いが強くなっていた。
ついに私たちは門にたどり着いた。錠は英数字のキーパッドに接続されていた。
「パスコードは何だ?」
右の方からガチャガチャという音がして、誰かが歩行者に道を譲るよう叫んでいた。
「おおい、どけろ!」
そこへ、もみあげのある禿の英国紳士が人力車に乗ってやってきた。紳士は降りると、顔に当てたハンカチも外さずに、私のところへ近づいてきた。
彼は、まるで日本語を話すイギリス人の真似をしている日本人のような声で自己紹介した。
「ハロー、ヤング・レディ。このあたりにはお詳しいかな? ここを見て回って、レイルロードを通すポテンシャルがあるかどうか、確かめたいのだがね」
「ごめん、時間がないから許して」
「おっと、気になさらず。われわれがどれほどの マネー を エクストラクト することに――いやいや、日本帝国にもたらす デベロップメント がいかほど壮麗なるものとなりますやら、まことに胸が躍りますな。幾千、幾万という人々、幾千、幾万トンというプロダクツが、トレインによって行き交う……想像できるかね?」
「ごめん、時間がないから許して」
「さて、レディ。ちょっとしたエニグマを差し上げよう。君はロコモーティヴのドライヴァーで、「横浜で四百三十二名の乗客を乗せて出発する。川崎で四十二名が下車し、六十二名が乗り込む……」
「やば、算数の問題……」
「……さらに新橋で五十二名が降り、六十二名が乗る。そして編成は秋葉原に到着する。さて、ドライヴァーの名は何というかね?」
「そんなの知るかよ。え? ちょっと待て、何て言った?」
「さて、レディ、お答えを伺ってもよろしいかな?」
「何その古臭い引っかけ問題。もちろん」と言いながら、私は『大和撫子』と入力した。
「違います」
「?……あ、そうだ。ロザ・グローサー・フリーデン」
「違います」
「え?ゲーム内の名前は絶対ロザ・グローサー・フリーデンに違いない……まさか……」
大きく息を吸って、頭をうつむけながら答えた。
『ママ』と打ち込んだ。
「正解です」
すると、英国紳士は人力車に戻り、そのまま去っていった。そして、続いて皇宮の護衛隊や高位・下位の廷臣たちの行列が現れ、やがて天皇自身も姿を現した……
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「まことにおみごとな業績である!」と天皇は口にした。
どうやら、天皇はずっと見ていただけで、手を貸してはくれなかったらしい……
背中で扉を押してみたが、効果はなかった。
「じゃあ、ここから出してくれ!」
「……されど、いかなる報酬も、知恵の一片に及ぶものはない」
「ごめん、時間がないから許して。火が広がっている……」
「……賢者曰く、人は同じ川で二度沐すること能わず、と。人も川も、常に変化しているからである」
「ごめん、火が……」
「……我らは変革の時代に生きている。しかし、この言葉は常に真実である」
「ごめん……まて、『 ママ』?こ、これは……どうも怪しい気配がするな」
「……この地を見よ。もとは旅人、商人、巡礼者が江戸への入城を許されるのを待つ区域であった」
「うん、間違いない……ここ、絶対おかしい」
「……幾度も火災に見舞われ、幾度も再建され、そのたびに変貌を遂げた。今や活気ある商業地として拡大を続けている。この地の未来は何を迎えるのか。電気街か、オタク天国か、観光名所か、ビジネスの中心地か。人は決して同じではない。ゆえに行け、我が民よ。常に己を変化させ、前進せよ」
ガチャッという音がして、鍵が開いた。
急いで私は子どもたちをアリーナから連れ出した。疲れ果て、私はその場に崩れ落ちた。
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少し体力を取り戻すと、私は立ち上がり、体の埃を払った。子どもたちはまだ動かない。
「さて、そろそろ、君たち……気絶ごっこはやめてくれないか?」
小芳ちゃんは目を開け、こちらを見やると、すぐに舌先を口の端からちょこんと出してウインクした。
優広くんは起き上がり、片方の頬を手でこすった。
「ねぇ、痛かったんだぞ。 ほら、起こそうとして顔をビシビシ叩くんだからな」
いわゆる技術担当が現れた。
「ねぇ、お兄ちゃん、ぼくたちのパフォーマンス、どうだった?」
「ふむ、じゃあ君は佳春くんのお兄さんか?」と、私は腕を組み、彼らをじっと見つめながら言った。
すると、四人は即座に土下座した。
「ちょっとした悪戯だっただけですから、どうか小さな子たちにあまり厳しくならないでください……」
「いや、認めざるを得ないな……面白かったよ。ただ、絶望感を除けばな。天井の偽の火は本当に見事だった。本物かと思ったぞ。煙まで作っていたとは……」
「偽の火だって?」と、佳春くんのお兄さんは驚いた表情で叫んだ。
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消防士たちは素早く火を消し、被害者は出なかった。しかし、ThEROビルは完全に避難させられ、立ち入り禁止となった。
火災の原因は「ショート」と伝えられた。全くの嘘ではない。優広くんがレーザー電源回路でショートを起こし、ビーム出力を増幅させた結果、天井材に引火してしまったのだ。
私たちは全員無事だったものの、念のため病院で検査を受けることになった。煙の吸引量はごくわずかだったため、すぐに退院できた。
いわゆる技術担当、吉本雅人は、廊下のベンチに座り、心配そうな顔をしていた。
私は手刀で、そっと彼の頭を打った。
「いてっ。おい、そんな力を込める必要はないだろ」
「あなたは大人なんだ、雅人くん。なぜそれに参加したのだ?」
「本当にすみません。ただのちょっとした悪戯のつもりで……まさか、皆を本当に危険な目に遭わせることになるとは思いませんでした……」
「私たちだ。君も他のゲームスタッフも、建物にいる人々も……」
「本当に、本当に申し訳ありません」
「で、それで? なぜ参加したのだ?」
「高尚な理由ではありません。ただ、佳春くんの責任を取りたかったんです。そして、彼を自分のもとで暮らさせたくて……だから、もう一度彼と距離を縮めたかったんです」
「責任を取る、か……」
彼はただ頭を下げた。
「で、なぜ火事に気づかなかった?」
「天井を映すカメラがなかったのです……」
「では、なぜスプリンクラーや警報は作動しなかったのだ?」
「わかりません……ThEROの閉鎖準備で多くの回路を停止していたのですが、関係があるかどうかは……」
そして、蜩川さんが息を切らして、慌てながら現れた。雅人くんは謝罪し、何が起きたのかを説明した。まあ、だいたいのところを説明したという感じで――いたずらのことや、優広 くんによるレーザーのハックのことは省略されたのだ。
子どもたちは、最後のチェックを受けていた診察室を飛び出し、蜩川さんに駆け寄って抱きついた。
「母ちゃん!」
15. 終章
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「まさか、車の中でタバコ吸うつもりじゃないですよね?」
「い、いえ、そんなことは……」
そう言いながら、私は手にしていたタバコの箱を、いかにも名残惜しそうにポケットへ押し戻した。
「本当に助かりました、大和さん。居酒屋――あの会社の巨大契約成立を祝う専用予約で貸し切しておりましたゆえ……子どもたちが同席していたのでは、とてもサービスに集中など不可能でございました。」
後部座席では、三柱の小さな聖人たち――『新時代ゴスペル』のアニメの聖人ですが――深く眠りこけておりました。
「君も子どもが欲しくならないのか? その天使のような顔を見ていると……」
「えっと……」
「君はまだ若いんだし」
「そうかしら……」
子供たちは眠りながら、ぼそぼそと呟いておりました。
「アホちびすけ」、「クソガキ」…
すると、小芳ちゃんが、ぽつりと「目標捕捉、ママ」と囁いたのでございます。
私は彼女を見つめながら、しばらく黙って考え込んだ。
「よし、きめた」
「大和さん? 誰かに電話するの?」
「ええ、ちょっと」
プルルル…プルルル…プルルル…プルルル…プルルル…プルルル…
「もしもし、姉さん?」
「ああ、男児くん?私に甥や姪をちょうだいってのはどうだ?」
「は?何を言っているのこんな時間に?また酔っ払いなのか?」
そう言い残すと、彼は通話を切った。
笑いながら、蜩川さんが尋ねた。
「それで、来週のご予定はいかがかな? またこの子たちのベビーシッターをお願いできないだろうか?」
「……いいですよ」
「本当に?」
「ええ。ただし、報酬は三倍で」
「いいだろう」
「やっぱり四倍で」
「……いいだろう」
「じゃあ、来週はいつもの八倍でね」
「おい、四倍で合意したはずだろ……」
「今日は二倍払うって言ったよね?二倍かける四倍は八倍でしょ?」
「その計算ずるくない? いつも自分は数学苦手って言ってるくせに。 十分できているじゃないか」




