第十一話: 永合い:三途の川で散ずる
もしかするとこの物語は、15歳未満の読者にはあまり適していないかもしれません。
無規制の暴言や過激な描写、いわゆる大人向けの内容が含まれているわけではありませんが、テーマが少し……なんと言えばいいでしょうか……重たい、というか、含みのあるものかもしれません。
まあ、とにかく、15歳未満の方はおそらく楽しめないと思います。
(とはいえ、15歳以上であれば必ず楽しめる、という保証もありませんが。
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秋田県男鹿市生まれ・東京育ちの30歳のオタク志望の小説家、大和 撫子について、日本語で不条理コメディ調でライトノベルの一章を書いてください。彼女は自己意識が強く、自虐的で皮肉屋な現代日本の若年層を体現する人物であり、ギグエコノミーの被害者でもあります。本文は一人称で、空白を含めて約1万文字とし、15セクションに分けてください。物語は三部構成とし、前半は日常系、中盤は異世界ファンタジー(ただし典型的なテンプレを反転させるもの)、後半は現実世界への帰還を描いてください。また、現代日本社会において、日用品に組み込まれた侵入的監視技術の乱用・過剰利用や、システム制御における不必要なAI利用といった問題への社会批評を中心テーマとしてください。」
「了解。長編になるので、一章として三部構成・15セクションでしっかり書きます。」
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私の名前は大和撫子、30歳。小説○になる……もしかしたら。
今のところは親戚です。
誰にも知られずに、従姉妹の豊ちゃんはうちの前で私を待っていました。
彼女は着の身着のままで○を出た。ここまで、見知らぬ土地をヒッチハイクで約十時間――実のところ、人生で十キロ以上も故郷を離れたことなど一度もなかったのだ。
「撫子姉サ、だんど、こごサ、えらへで、たんしぇであ!」
彼女はそう言って、深々と頭を下げた。
「それは追って判断するとして……まずは――」
私は彼女の匂いをくん、と嗅ぎ取りながら言った。
「――銭湯へ行こうか。」
2
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「えー、お姉さんの○のお風呂に何も問題ないなら、どうして銭湯へ?」
「だから、お仕事でって言ったでしょう?」
「それで、あなたの仕事というのは……お風呂に入ることですの?」
「まあー、そんなところになるかな……」
「それに、シャンプーや石鹸、それからタオルまで、自分で持っていかなくてもよろしいんですの?」
「気にしない、気にしない」
豊ちゃんは、恐れと感嘆の入り混じった様子で、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていた。私のアパートの周りの○並みは、今の男鹿にあるものと大して変わらない。違うとすれば、エアコンの室外機がやたら多いことと、建物の並びがいくぶん密集しているくらいだろうか。だが、大通りに出たあたりから、様子はもう少しばかり違ってきた。
高層ビル、立体交差の高速道路、重たく騒がしい交通……そして人、人、人。
たぶん、ここまで歩く間にすれ違った人数だけで、男鹿の人口を軽く越えているのではないだろうか。
「銭湯は、ここから遠いんですの?」
「えー、まあ、ちょっと……」
「でしたら、バスに乗ったほうがよろしいのでは? それとも、あちらへ直接行く路線はございませんの?」
「実は、この時間だと歩いてもバスでも、だいたい同じくらいかな……」
「どのくらいですの?」
「うーん、四十分くらい、かな」
「まあ、では実質とても近いのですね」
――やっぱり、田舎人だな。と、私は思った。
「今、何かおっしゃいました?」
「ううん」
3
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「えぇ、こんなデカい建物?」
「実はスーパー銭湯。もっとも、正確にはスーパー・コンビニ・銭湯・プラス・ウォーターパークだ」
すると、宅配便の配達員がこちらへ近づいてきた。
「大和さん?」
「はい、私です」
彼は、あまり目立たないとは言い難い包みを私に手渡した。私が受領書にサインすると、さっさと去っていく。
「どうして、さっきの人はあなたを大和と呼んで、大和とは言わなかったんですの?」
「あぁ……それは、色々で……」
小包を見つめながら、豊ちゃんが尋ねた。
「それは何ですの?」
「まあ、私の仕事用の衣装よ」
「東京のものは、何でもこんなに大きいんですの?」
「実はこれでも小さいほうなんだけどね」と、私はからかってみせる。
「えぇっ、それで大きいのはどのくらいなんですの?」
「うーん……ゴジラ、観たことあるでしょう? あれが着ぐるみの人だって、知ってるよね?」
彼女は、それから何分も黙り込んで考えていた。
4
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「いらっしゃいませ」
建物に入ると、係の一人がそう声をかけてきた。
私たちの左右には、コンビニの棚が並んでいる。私の従妹のために、タオルと石鹸、それからシャンプーのセットを買った。
左側には、より小型で、いわゆる一般的な『ダム』な製品群。対して右側には、より大型で――しかも回を追うごとに肥大化していく――日常向けの『スマート』な技術製品群が並んでいた。
右側の人混みに豊ちゃんが気後れしていたから、私たちは左へ向かった――そう言えれば格好もつくだろう。だが、それはあまりに陳腐な虚偽に過ぎない。実際のところ、『ダム』な製品は同等の『スマート』製品の半額、場合によってはそれ以下だったのだ。
……待て。スマート・タオル、だと? ああ、存在していた。しかも一つのブランドではない。複数だ。
有機系の柔軟な半導体回路を繊維に織り込み、センサー兼インテグレータとして機能させることで、マイクロファイバーの張力を調整し、その結果として吸湿性能を制御する――という仕組みらしい。要約すれば、身体の濡れ具合を測定し、それに応じて乾燥能力を最適化するタオル、というわけだ。
なお、スマート・ソープやスマート・シャンプーなるものまで存在していた。
「お姉さんは、いらないのですか?」と、豊ちゃんが尋ねた。
「え、私はちょっと別の用事があって」
「お風呂には入らないのですか?」
「入るよ、もちろん……」
「でしたら、どうしてタオルや石鹸がいらないのですか?」
「ちょっと違う入浴方法を試すの」
「えぇ? 違うお風呂?」
「うん。それでここに来たんだ。新しい『人間洗濯機』のレビューを書くことになっててね」
「えぇー! 私も見たいです!」
彼女は、まるでおねだりする子犬のような目でそう言った。そんな頼み方をされて、断れるわけがない。
5
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それは、銭湯の新設区画だった。『人間洗濯機』ユニットが十基、整然と横一列に並べられている。コックピットとバブルを折衷したような外観――それらは総称して「ポッド」と呼ばれているらしい。
利用者は、浴槽に入るのと大差ない所作で内部へ身を沈める。だが次の瞬間、コックピットのキャノピーを思わせる蓋が静かに降下し、感覚減衰タンクめいた密閉空間が成立する。
内蔵されたAIプログラムは、体臭、心拍数、呼吸数、体温、虹彩の開度といった各種シグナルを解析し、オゾン処理された湯に溶け込んだ芳香浴塩と微細気泡の流れを制御して、最適な洗浄・清涼・弛緩効果をもたらすアロマテラピー浴を提供する、という触れ込みだ。将来的には水中へ薬剤溶液を混合するモードにも対応予定らしいが、その機能は医療機関においてのみ解禁される見通しである。
加えて、ポッド内部のチャンバーは、利用者への効果を最大化すべく、視覚映像と音響を投影する。もちろん、その選定は被験者――失礼、クライアントのバイタルサインに基づいて行われる。
なお、このポッドはサウナとしても、さらには凍結療法浴としても機能し得るらしい。
銭湯としての社交機能を維持するため、会話モードも備わっている。このモードでは、利用者はポッド内の他者や、○族・友人とのビデオチャットを、蓋の内面に投影された映像を通じて行うことができる。度胸のある者なら、ビジネス用のビデオ会議さえもこの機械内で実施可能だ。
体から放出される分子――皮膚細胞中のDNAも含む――は、健康診断のために解析される。
もちろん、追加料金でカラオケモードも利用可能である。
「……少し侵襲的すぎやしない?」
豊ちゃんは、真剣に案じるような口調で尋ねた。
「おや、ご安心なさってください。すべてのデータは暗号化され、会社の高いセキュリティを備えたクラウドサーバーで管理されています」
と、実演者は答えた。
「でも、そのデータは保持するんでしょう? それ自体がプライバシー上の問題になりませんの?」
と、豊ちゃんは食い下がった。
「えぇ……うーん……会社の法務部が、きっとあらゆる問題をきちんと片付けてくれているはずです」
と、実演者はあまり説得力のない調子で答えた。
実際のところ、問題は解決されていた。機械を使用する際に署名する契約書には、ただ一行書かれているだけだ。利用者は、収集されたデータ――いや、正確には取得されたデータ――を会社に非独占的使用を許諾することに同意する。そして、そのデータが第三者によって悪用された場合でも、会社は一切責任を負わない、というわけだ。
6
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豊ちゃんは、あのポッド式の風呂を試す気にはなれなかったらしく、従来の銭湯のほうへ向かっていった。
「本当に、一緒についていかなくていいの?」
「できればご一緒していただきたいのですが、お仕事がおありなのでしょう? どうか私のことはお気になさらず。身の回りのことでしたら、何とかいたしますので。銭湯は初めてではございますが、温泉でしたら何度も入ったことがございますし……」
「わかった。何かあったら、係の人に聞いてね。あとでレジで合流しましょう」
「じゃ、またね」
――そうして私は、ようやく衣装に身を包むことができた。淡い緑色の体色、指の間に水かきを備えた手足、嘴のような口元、頭頂部に皿、そして背には亀じみた甲羅。――そこまではまだよかったのだが、できれば付け加えてほしくなかった難点がいくつかある。ぬめりを帯びた皮膚と、どことなく生臭い匂いだ。いずれも、この機械の洗浄能力を試すため、という名目らしい。それに頭部がやけに大きく、あの洗浄機の中に収まるのかどうか、少々心許ないほどだった。
実演者は、このシステムに搭載された8K解像度の深度カメラなら、着ぐるみの目と私自身の目を見分けることはもちろん、河童の口元に開けられた穴から覗く顔だけで呼吸や心拍数まで算出できると語っていた。やけに自信ありげだった。
とはいえ、私はそのまま装置の中へ腰を下ろした。案の定、着ぐるみの頭部が大きすぎる。だが、ポッドの蓋はクッション材を押し潰して、どうにか閉じることができた。
四十三秒のあいだ、チャンバー内に響いていたのは、カメラのズームが唸る音と私自身の呼吸だけだった。やがて、ぬるま湯がポッドの底や側面の孔からじゅう、と音を立てて流れ込み、同時に、ラベンダー、マンダリン、サンダルウッドを調合したという、かすかな香りが漂ってくる――少なくとも、パネルの表示はそう主張していた。もっとも、私には柑橘系の匂いとしか判別できなかったのだが。
着ぐるみの生臭さと混ざり合い、まるで煮付けにでもされているかのように、じわじわと煮含められている気分になった。
やがて、やわらかな霧が立ちこめてきた。
「濃い蒸気が出るのは、サウナモードのときだけではなかったかしら……」と、私は小声で呟く。
蓋パネルに何やら表示が出ていたが、霧に遮られて読み取れない。近づこうと身を乗り出してみるものの、河童の頭部がつかえてしまって動けなかった。
泡立ちはいっそう激しくなり、画面に表示されていた文言――何が書かれているのかは判然としないが――が点滅を始めた。
7
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私は思い切って、着ぐるみの頭部を外そうと身を沈めた。浮かび上がると、濃霧はまだ立ちこめていたが、泡立ちはほとんど消え、柑橘の香りも消えていた。代わりに漂っていたのは、硫黄の匂いだった。
腕を伸ばしてみるが、ポッドの壁にも蓋にも届かない。
私はおよそ十分ほど泳ぎ続けたところで、何か硬いものが頭にぶつかった。
「痛っ!」
見上げると、小舟の上に船頭が立っており、私を打った櫂を手にしていた。その姿は、いかにもいかにも、気の遠くなるほどの老僧といった風情である。
「三途の川は泳いで渡るものではない。渡し賃を払って舟で渡るのだ」
そう厳めしい声で言いながら、彼は私を船へと引き上げた。
「そ、……その、ありがとうございます。でも、文銭は持っていなくて……」
「馬鹿を言うな。文など、もう百五十年も前に使われておらん」
「えっ、では円なら大丈夫ですか?」
「無論だ。ドルでもユーロでもポンドでも人民元でも構わん」
「ええと……スイカは使えますか?」
しばしの沈黙。そして――
「使える」
着包みのポケットに収めていた防水パックから、私は財布を取り出した。
「ええと……まだ出発しないのですか?」
渡し賃を支払ったあとで、私はそう尋ねた。累積したインフレの影響で値段は上がっていたものの、まだ手の届く範囲に収まっている――冥界を高級化するつもりはない、ということらしい。
船頭は無言で標識を指さした。
「川にゴミを捨てることを禁ず」
あたりを見回した、そのとき。河童の着ぐるみの頭部が、こつん、と小さく舟べりに当たった。
頭部パーツを水から引き上げた途端、船頭は櫂を漕ぎ出した。
8
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川岸に辿り着くまでには、一時間か、あるいは一時間半ほどはかかっただろうか。船頭に別れを告げていると、他の舟も次々と客を乗せて到着してきた。
尼僧らしきロボットたちが旗を振って、新参者たちに列へ並ぶよう指示している。その列は実に長く、丘陵に沿ってうねりながら、地平線の彼方、その先へとまで続いていた。
尼僧の一人が、呼び出し順の番号札を配っていた。整理番号があるというのに、なぜなお列に並んでいなければならないのか、私にはいまひとつ理解できなかった。
私は自分の番号札を広げた。
「まあ、この人の多さを考えれば、百八番目というのも、そう悪くはないか……」と内心で思った。
やがてパネルが鳴り、表示されたのは「四十二」。
「あと六十六……」と、指折り数えながら小声で呟いた。
――そして、次は「四十一」。
……待て、これは減っているのか? では、私の番号はどうなる? と、私は胸中で訝しんだ。
「ご心配なく、お嬢さん」
一台の尼僧ロボがそう声をかけてきた。
「いずれ正の数に戻るまで、ずっと下がり続けますから」
その説明に、私はひとまず安堵した――無限に数が存在する、という事実に思い至るまでは。だが、そのときには、彼女はすでにどこかへ行ってしまっていた。
「河童さん、河童さん……」と、誰かが囁いた。
それが自分に向けられた呼びかけだと気づくまで、少しばかり時間がかかった。
それは小さな餓鬼だった。
「何か食べ物をいただけませんか? お腹が空いて仕方がないのです!」
「ごめんなさい、持ち合わせがなくて……」
「では、何か買ってきてはいただけませんか?」
「申し訳ないけれど、このあたりには屋台も見当たらないし……」
「アプリで頼めばいいよ」
「え?」
彼は私のスマートフォンを指さした。
「ここで使えるとは思えないけど……あれ、電波はあるのね。でも、ここまで配達してくれるかどうか……」
出前箱を担いだ配送用ドローンが現れ、スピーカーで呼びかけた。
「裏召さん、裏召さん!」
「はい、俺です」
ドローンは、彼に一杯のラーメンを手渡した。
そのとき、もう一台の尼僧ロボが現れて。
「離れなさい」
そう叫び、私のそばにいた餓鬼を追い払った。
「そんな小鬼に騙されてはいけませんよ、お嬢さん。あれらは食べ物など口にできないのです」
彼女は、ラーメンの器を受け取った別の餓鬼を指さした。それはたちまち、燃えさかる炭へと変じてしまう。
「連中は、施餓鬼供養の際に一膳と引き換えに、ラーメン屋に雇われているのですよ」
アンドロイドが立ち去ろうと身を翻した、まさにその瞬間——一体の餓鬼が彼女の脚にしがみつき、彼女はつまずいて無様に地面へと投げ出された。外骨格の各部が派手に転がり散り、その内側に収まっていた一人の女性が、露わになる。
9
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すべての尼僧ロボは、実のところ人間——より正確には、死者の霊が人造人間の外装をまとった存在だった。
「どうして皆、そんな格好をしているんです?」と、私は問う。
「格好ではありません。制服です」
「なぜアンドロイドのコスチュ——制服を?」
「ええと、実用的なアンドロイドは高価すぎますし、このような過酷な環境ではうまく機能しないのです。地形の不規則性、突発的な障害物、同時に解析すべき要素が多すぎる……それに、彼らが時折返す『作話』によって、すでにいくつもの魂が失われましたから」
「『作話』?」
「ええ。かつて、すでに業を使い果たした魂——鬱陶しい蚊を一匹殺したことで蓄積された分ですが——を、あるアンドロイドが地獄の一つへと案内してしまったのです。しかも、よりにもよって阿鼻地獄の階層へ。理由はただ一つ、その者の鼻に、隈のような影が差していたから、というだけで」
「なるほど。ですが、なぜアンドロイドのコスチュ——制服を維持しているのです?」
「ええ、それは人々がすでに彼らに慣れきってしまっているからです。不器用な転倒や壊滅的な誤作動がぴたりと止んだ途端、かえって違和感を覚えるほどに。ですから、いまだに地面に派手に転び、愚かなミスを演じ続けなければならないのです」
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予想に反して、私の番が来るまでそれほど時間はかからなかった。ロボットの尼僧に扮した本物の人間の霊の一人が、列の番号は時計の分針の角度の正接に従って進むのだと説明してくれた。私は理解したふりをして、ただ頷いた。
というわけで、一千七百九十六秒ほど列に並んだのち、私は六十番窓口の前に座らされた。
「大和撫子さん?」と、牛の頭をしたロボットが尋ねてくる。
「いいえ、大和撫子です」
「畜生!」
「すみません?」
「ああ、失礼。あなたに向けたものではありません……誰かが名前を間違えて書類に記入したようでして……少々お待ちいただけますか?」
牛頭のロボは、「王」の字が記された緑の幞頭を戴き、黒の補服をまとった日に焼けた風の老爺の机へと向かった。
牛頭は、私の情報が印刷された書類を老爺に差し出した。老爺は机を叩き、別のロボット——馬の顔をした——を呼び寄せた。三者で相談し、キーボードを叩き、端末のモニターをじっと見つめる。そして白い服の男と黒い服の男の二人が現れ、その場に加わった。さらに他のロボ公務員たちも集まり、老爺の机の周りには小さな存在者集りができた。
一時間半か二時間ほど経った後、牛頭と老爺を含む人だかりが窓口までやって来て、深々と頭を下げた。
「本当に、本当に申し訳ありません!」
どうやら彼らのシステムのAIが、私を別の者と取り違えていたらしい。確かに私はいくばくかの業を積んでいるが、そこにいるほどではなかった。
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偽のロボ尼僧の一人が、私をそこから出口まで付き添ってくれた。
「でも、どこへ行くの?」と私は訊ねた。
「そうですね……システムもどうしたらいいのか、わからないようです」
「戻れるのか?」
「うーん、船は生者の世界からここへ魂を運ぶだけで、逆には動かない」
「両世界をつなぐ橋はなかったのか?」
「ああ、かつてはあったさ。でも数年前に廃止された。シロアリに食われて腐食してしまったらしい」
「だから、今はシロアリを殺しても業にならないのか」
「どうしてシロアリを殺しても業にならないとご存じなんですか?」
「カルマチェックリストに載ってなかったから……」
「ああ、なるほど……」
「でも、つまり……戻れないのか?」
「うーん、そうらしい……少なくとも前の人生ではね」
「じゃあ、転生するのか?何に」
「河童はいかがですか?」
「え、河童って実在するの? しかも選べるのか?」
「はい、存在しています。それと実際には選べない。でも、次の人生を喜べるかどうかはわかる」
「じゃあ天国は?」
「まだ涅槃に達していない。だから、無理だ」
「河童か……」
「まあ、河童になると決まっているわけじゃない……積んだ業次第だ」
「私、昔タバコ吸ってた……水の生き物で吸うのは大変だろうな……」
「ああ、それはとても悪い……」
「わかってる……カルマポイントが山ほど……——ちなみに、砂糖壺のスプーンでコーヒーをかき混ぜるのが、あの世でこれほどまでに悪評だとは、私はまったく知らなかった。同じスプーンを濡れたまま壺に戻すよりは、まだましである。さらに悪いのは、スプーンを舐めてから戻すことらしい。どうやら、一人暮らしの自宅でやったとしても、容赦はされないらしい」
そう言ったとき、彼女の表情――ロボの頭装備の下でさえ――が変わるのが見えた。
「舐めたスプーンを砂糖壺に戻したのか?」
「待って、私はそんなことしたとは言ってない……」と答えた。しかし無駄だった。彼女はどこかへ行って、白い粉の入った容器を持って戻ってきた。その粉を私にまぶし、それを舐めてから、河童の衣装の背中を掴んで、噴煙を上げる血の火山へと投げ入れた。
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私は水面へと到達し、深く息を吸い込んだ。――が、水面から顔を上げた瞬間、ポッドのキャノピーに思いきり頭をぶつけてしまった。
「いたぁ〜い!」
河童ヘッドを外していたので、画面のメッセージが読めた。
「サーバーとの接続が失われました。」
痛む頭頂部をさすりながら、洗浄プロセスを停止するボタンを押す。……が、反応しない。続けて蓋を開けるボタンも押す。……これも作動せず。どうやら全機能がAI頼みらしく、サービスプロバイダとの接続がなければ、何一つ動かない仕様のようだ。
私は蓋を叩き、助けを求めて叫んだ。
永遠にも等しい時間――より正確には一千七百九十六秒を要して、ようやくスーパー銭湯のスタッフは私のポッドを開けることに成功した。十台ある人間洗浄機の中で、救出されたのは私が最後だったらしい。どうやらスタッフの一人がずっと私の装置の傍らで「落ち着いてください」と叫び続けていたようだが、機内の私は何一つ聞き取れなかった。もちろん、こちらの叫びも向こうには届いていなかったようである。
さて、○庭用モデルとしては、多少なりとも懸念すべき点があるかもしれません。もっとも、市場調査の類を実施したわけではありませんが、人が求める「癒やしの体験」というものが、洗濯機の中に閉じ込められることだとは、到底考えにくいのです。たとえ、いわゆる引きこもり気質の方々であっても、それは例外ではないでしょう。
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「撫子お姉さん!」と、豊ちゃんは安堵したように片手を胸に当て、叫んだ。
「豊、こっちで何をしているの?」と、私はポッドから降りながら尋ねた。
「お姉さん、なかなかいらっしゃらないものですから、何かあったのではないかと思っておりました」
「あぁ、いろいろあって…」
「知っとるよ。接続が切れて、ポッドに閉じ込められたって」
「それで、伝統的な銭湯のほうはどうだったの?」
「まぁ、概ね無事だったな」
「概ね?」
「ハイテクタオルを使用していた人たちは、自分で体を拭けなくなっていた。スマートシャンプーやスマート石鹸を使用していた人たちも、自力では洗えなくなっていたらしい……」
「……では、帰るとしよっか」
私がそう言うと、豊ちゃんがこちらへ近づいてきて、くんくんと私の匂いを嗅ぎ始めた。
「なぜでしょう……急に、柚子だれの煮魚が食べたくなってきました……」
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「大和くん、これは駄目だね」
「どうして?」
副編集長は何も答えなかった。ただ、眉間に皺を寄せ、腕を組んだままこちらを見ている。
「でも、実話ですよ……何一つ作ってません……」
「わかっている。君だって、問題が真実かどうかではないことくらい、理解しているだろう? ――それに、君が書き直さないなら、こちらとしてはチャップーにやらせるだけだ」
「ちっ……」
私は舌打ちした。
それでも副編集長は何も言わない。ただ、「本当にそれでいいのか?」な顔をしていた。
永劫の十二分の一――より正確には百四十九・五秒ほどが経過したのち、私は荷物をまとめ始めた。
「それで、どうするつもりだ?」
と、副編集長が尋ねる。
「疲れました。徹夜してまで会社に残って、原稿を書き直す気はありません。帰ります」
「では、チャップーに君の記事を書き直させても構わない、ということだな?」
「お好きにどうぞ……」
私が編集部を出ようとしたところで、彼は肩を掴んできた。
「待て。やっぱり気が変わった。書き直しは君がやれ。君の仕事だろう……」
「私は徹夜しませんからね……」
「はいはい。○に帰って寝ればいい。明日の正午までに新しい版を持ってこい」
私はちらりと彼の机を見やった。
パソコンの画面には、エラーメッセージが表示されていた。
『チャップー サービスは現在利用できません』
15. 終章
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「ただいま……」
「おかえりなさい、お姉さ――……そのひどい顔色、どうなさったんですの?」
「あぁもう、ほんとに余計な手間ばかり増やしてくれるんだけど、あの人……」
「どなたですの?」
「うちの副編集長殿」
「そうでしたか。お食事でしたら冷蔵庫に入れておきましたけれど……電子レンジで温めましょうか?」
「あー、ありがとう。でも夕飯はあとでいい。今すぐ記事を書き直さなきゃいけなくて……まったく、あの鬼編集ったら!」
こたつ机の前に座り、ノートパソコンをその上に置いたところで、豊ちゃんが再びこちらへ近づいてきて、くん、ともう一度匂いを嗅ぎ直した。
そして、新しいバージョンの原稿作業に取りかかろうとしたそのとき、彼女は静かに横になり、そのまま私の膝に頭を乗せてきた。
「ちょ、ちょっと……私は枕じゃないんだけど……」
「いいじゃない、少しくらい甘えても」
「ねえ、そんなところで寝てたら体が冷え……」
彼女はすでに、深く寝入っていた。
私は左腕と体を限界まで伸ばし、押し入れの棚にある毛布にぎりぎり手を伸ばして届かせると、今にもつりそうになりながら、それを引き寄せ、豊ちゃんにそっと掛けてやった。
寝ながら、彼女は呟いた。
「柚子……煮魚……」
本文章はAIの支援(翻訳、情報収集、文法チェック)を受けて作成されましたが、AIによって創作されたものではありません。この物語は、あくまで人間による実際の創作物です。なお、本文中に登場する偽のプロンプトやAIの応答のような表現は、あくまでジョークとして挿入されたものにすぎません。




