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「見つかりませんわね……」
私はエントランス付近の吹き抜けになっている空間で、柵に寄りかかりながら呟いた。
私が今いるのは二階で、柵越しに見下ろせば、一階のエントランスホールがよく見える。エントランスホールには、今日も巨大な天使のオブジェが鎮座していた。
中等部に通っている時は気にも留めていなかったけれど、あの天使はクレアル様と言って、王国の守護天使様なのだそうだ。この前ソヴェレーヌ王国の歴史のお勉強をしていたときに初めて知った。
アベル様は眉間に皺を寄せてうなずいた。
「本当に。どこに行ってるんだろうね」
「時間だけどんどん過ぎていってしまいますわ……。早く見つけて盗まれたものを取り返したいのに」
「一旦諦めてそろそろ教室に戻る? リリアーヌ、テスト前の見直ししたいよね」
「ええ……。仕方ありませんわね。今は諦めて、テスト後に探すことにします」
本当は早く本を取り返したいけれど、テストに遅れてしまっては元も子もない。仕方なく今は引き上げることにした。
しかし、手すりから体を離した際、ふと天使のオブジェの左手部分が目に留まった。
「……!? あれは私の本!」
「え?」
私の言葉に驚いた顔をしたアベル様が、視線を柵の向こうに向ける。
天使のオブジェの左手には、なぜか私がなくしたアベル様にもらった本が置いてあった。
私は思わず柵から身を乗り出す。
「なんであんな場所に……! 誰かが意図的に置かないとあそこにあるはずがありませんわ! やっぱり誰かが盗んだのですわね!」
「どうしてクレアル様のオブジェのところになんて……」
「アベル様! 私、ちょっと取ってきます!」
「あっ、待って、僕も行く!」
駆け出す私にアベル様がついてくる。
私たちは壁際の、オブジェがすぐ近くに見える位置までやってきた。
近くで見ると、改めて天使のオブジェは存在感がある。一階から二階まで届くほど大きなクレアル様の像。
二階のこの位置からだと、ちょうどクレアル様の左手が近くに見えた。おそらく犯人もここから本を置いたのだろう。
私は柵から身を乗り出して、クレアル様の左手に手を伸ばす。近いと言っても微妙に距離があり、なかなか本まで手が届かない。
「ぐ……っ、届きませんわ!」
「待ってリリィ! 僕が取るから!!」
アベル様は手すりから手を伸ばす私を慌てた様子で止めてくる。そして、私を後ろに下がらせると柵から手を伸ばした。
しかし、アベル様も本にはなかなか手が届かず、何とも危なっかしい様子だった。
「アベル様、大丈夫ですか? アベル様もそんなに背が高い方ではないのですから無理しない方が……」
「だ、大丈夫だって……! すぐに取るからリリィは待ってて!」
アベル様はなおも柵から身を乗り出す。
しかし、冗談ではなくこんな高い場所から手を伸ばすのは危険そうではらはらしてしまった。
これは一旦諦めて、何か道具を取って来た方がいいかもしれない。
私はアベル様の腕に手を伸ばす。
「アベル様、諦めましょう。一旦何か取るものを持ってきますわ」
「でも……、いや、そうだね。そうしよっか……」
アベル様は若干落ち込んだ様子でうなずいた。
私たちは道具を探すために、柵から離れることにする。
しかし、その時だった。
床が突然、がくんと抜け落ちて、浮遊感が襲ってきた。
「きゃあっ!!」
「リリアーヌ!!」
アベル様が焦ったようにこちらに手を伸ばす。
しかし、その手を掴めないまま、私たちは二人とも真っ逆さまに落ちていった。
「いたた……。一体なんなんですの……」
私は痛む腕を押さえながら呟く。
急に床が抜けた感覚があったけれど、なんだったのだろう。落ちたときに打ち付けられたようで、腕も足も痛い。
全く状況が理解できないまま、私は辺りを見回した。部屋の中は薄暗いけれど、一応明かりはついているようだ。
「え……、何この部屋……?」
そこは書庫のような部屋だった。
教室一つ分の広さもない小さな部屋の中、壁いっぱいに本棚が並んでいる。そのほかには何もなかった。
扉も階段もなく、天井を見上げても何もない。私たちは上から落ちてきたはずなのに、わけがわからなかった。
見回しているうちに、床にアベル様にもらった本が落ちているのに気づき、慌ててそれを拾い上げる。落下したときに一緒に落ちたのだろうか。
すると、床に倒れていたアベル様が頭を押さえながら体を起こした。
「いたた……、リリアーヌ大丈夫?」
「ええ、私は大丈夫です。アベル様こそお怪我はありませんか?」
「平気だよ。体中痛いけど怪我はしてない。それにしても、ここはどこだろうね」
アベル様は眉間に皺を寄せて、部屋の中を見渡す。




