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「おかしな空間ですわよね。学園にこんな部屋があったなんて知りませんでした」
「うん、なんなんだろう、この部屋……。本棚以外に扉も何もない部屋なんて不気味だ」
私たちはしばらく異様なその空間を眺めていたが、部屋は静まり返っているばかりで、何も起こらない。
状況はわからないままだったけれど、ひとまず私は立ち上がった。
早くどうにかしないと。このままここにいてはテストが始まってしまう。
「アベル様、とりあえず部屋の中を確認しましょう。外に出る方法が見つかるかもしれません」
「そうだね、探してみようか」
アベル様は私の言葉にうなずいた。
それから私たちは部屋の中を探り始めた。といっても、あるのは本棚だけなので、探れるものもそれしかない。
私は本棚の前で頭を悩ませる。
「この棚を動かしたら後ろに扉が隠れていたりしないかしら……? 扉のない部屋なんて明らかに変ですわよね」
「でもこの本棚、壁とがっちり固定されてるみたいだよ」
アベル様はそう言いながら、本棚の端を引っぱる。いくら引っぱっても、本棚は少しも動かなかった。動かして後ろを確認するのは無理そうだ。
「本当ですわ。ちっとも動きません……! もう、なんなんですの!」
「仕方ない。リリアーヌ、本棚の中に外に出るヒントが隠れていないか調べてみよう」
「そうですわね。それ以外に調べられるところはなさそうですしね……」
私は力なく言葉を返す。
しかし、本棚とその中の本をひとつひとつ確認してみても、一向にヒントになるようなものは見つからなかった。
途方に暮れて、私は部屋の真ん中にしゃがみ込む。
「もう、なんなんですの! こんな異様な部屋から外に出る方法なんてわかりませんわ!」
私が泣き言を言っていると、アベル様は口元に手を当てて言う。
「……ここ、もしかして隠し部屋なんじゃないかな。過去の戦争の名残の」
「隠し部屋? どういうことですか?」
私が尋ねると、アベル様は説明してくれた。
「この学園は数百年も前からあるだろ? 過去には戦争や内乱で国が荒れた時期もあった。この学園には昔から王族や貴族の子供たちが集まっていたから、狙われることも多かったらしいんだ。そういうときに逃げ込めるように、隠し部屋を用意してたって聞いたことがある」
「そんなものが……?」
私は改めて部屋を見回した。
扉も窓もない異様な空間。突然ここに落とされて、来た道すら見つからない。
しかし、王族や貴族の子供たちの身を守るための隠し部屋だと考えると、その異常性にも納得してしまう。
「私たちは隠し部屋に落とされたのでしょうか……」
「その可能性が高いと思う。ただ、隠し部屋は安全な今の時代には必要ないから、完全にロックされているって聞いたんだけど……」
「もしかして、誰かが仕組んだのでしょうか? 私の本をわざとオブジェの左手に置いて見えるようにしておいて、何らかの方法でロックを外した隠し部屋に落としたとか」
「そういうことも考えられるね」
私たちは顔を見合わせた。
なんだか想像以上に厄介な事態になってしまったのかもしれない。
私は改めて部屋をぐるりと見渡した。
隠し部屋というくらいなら、脱出用経路が用意されているのではないだろうか。当時の王族や貴族の子供たちだって、出口を必要としたはずだ。
部屋を眺めていると、ふと、部屋の床に絵があることに気づいた。
王冠に大きな翼を持つ凛々しい鷲の絵。
これはソヴェレーヌ王家の紋章だ。どうして床に紋章があるのだろう。それに……。
「なんでこの位置なんですの?」
私は首を傾げた。
紋章を床に刻むにしても、部屋の真ん中でもなく、右端当たりにぽつんと一つ紋章があるだけなのは違和感がある。
この場所に何か意味でもあるのだろうか。
「本当だ。変な場所にあるね」
「何か意味があるのでしょうか?」
しばらく首をひねって考え込んでいたけれど、答えは見つからなかった。
ひとまず紋章のことは置いておいて、本棚に意識を向ける。




