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「リリアーヌ、ごめん、お待たせ」
「アベル様」
「一人でいて危ない目に遭わなかった? リリアーヌはあり得ないくらい可愛いから、一人にしておいたら誘拐されかねないと急いで戻ってきたんだ」
「学園内でそんなことになるはずないじゃありませんか」
私は呆れて言う。しかし、誘拐されそうになることはもちろんなかったけれど、この短時間でちょっとした騒ぎは起こっていた。
私は先ほどの件を話すかどうか考えあぐねる。
別に報告するまでもないだろうか……。告げ口するみたいでちょっと嫌だし……。
「本当に何にもありませんからお気になさらず」
「そう? よかった。じゃあ、帰ろっか」
アベル様は笑顔で言った。
「ええ。そうですわね。ところでアベル様。アベル様のクラスにミルクティー色のふわふわの髪の女の子はいらっしゃいますか?」
「え、どうしたの急に? ミルクティー色のふわふわの髪? ……どうだっけ。いたようないなかったような……。リリアーヌ、その子と知り合いなの?」
「いいえ、特には。アベル様がご存知ないのならいいですわ」
私は若干あの少女に同情しながら言う。彼女はアベル様自身には認識すらされていなかったらしい。
私は少し複雑な思いになりながら、王宮の馬車に乗せてもらってシャリエ邸まで帰った。
***
それ以降は特に彼女達は姿を現すことがなかった。
なので私の頭の中からは彼女たちのことがすっかり抜け落ちて、ひたすらテスト勉強に励んでいた。
「今日は早起きしてしまいましたわ。朝のうちに問題集を終わらせてしまいましょう」
ある朝、私ははりきって教室へ向かっていた。
まだ時間が早いので、教室には誰もいない。集中して取り組めそうだ。
しかし席について、中にしまっておいたはずのペンを取り出そうとした時、それが見当たらないのに気づく。
「あら? 机にペンを入れておかなかったかしら?」
机の中に、すぐに取り出せるようにペンを置いておいたのだ。しかし、いくら探しても見つからなかった。
「家に持って帰ってしまったのかしら? ペンケースはあるからいいけれど……」
確かに昨日、教室の机の引き出しにしまっておいたと思ったのだけれど、記憶違いだっただろうか。
ちょっと腑に落ちない思いをしつつも、私は鞄の中のペンケースから別のペンを取り出して、テスト勉強に励んだ。
その時は気のせいかと思っていた。
しかし、その後も物がなくなることが頻繁に起こるようになった。
ペンを始めとして、ハンカチやリップ、果てはテスト範囲をまとめたノートまで色んなものがなくなる。
「なんなんですの! 絶対おかしいですわ!」
さすがにここまで来ると気のせいとは思えない。誰かが私の机や鞄からこっそり抜き出しているのだろうか。
私ははっとして、ちょうど斜め前あたりにいたステラを見る。
もしも盗まれたというのなら、一番怪しいのはあの女だ。
じっと見ていると、ステラと目が合ってしまった。
「なんですか、リリアーヌ様」
「いえ、ステラさん。私の持ち物を盗んだりしていません?」
「は?」
単刀直入に尋ねると、ステラは思いきり嫌そうな顔で私を見た。私は彼女に説明する。
「いえ、最近、私のペンやらハンカチやらがよくなくなるんですよね。誰かが盗んでいるんじゃないかと思いまして」
「それで私に聞いてきたんですか? してませんよ、失礼ですね」
「だって、ステラさんには私を監禁しようとした前科がありますし……」
「私、もうリリアーヌ様に関わるのはやめましたから。あなたに関わるとろくなことがないですもん」
ステラは吐き捨てるように言う。
ステラによって倉庫に閉じ込められかけたのはこちらの方なのに、ひどい言い草だ。
転校してきたばかりのころは可憐そのものだったステラは、あの日の倉庫閉じ込め未遂事件以来、私に対しては本性を隠さなくなったようだ。
いや、大分前から隠しきれていなかったけれど。
ステラはやさぐれた顔で、そっぽを向く。
すると、教室の前方にいたステラと仲のいい子爵令嬢と男爵令嬢が、彼女に向かって声をかける。
「ステラさん、ちょっと来て! 今日の王都新聞に、舞台俳優ののアレクサンドル様の記事が載ってるのよ! ステラさん好きでしょ?」
「えっ、本当ですか? ぜひ見せてください!」
ステラは先ほどまでのふてぶてしい表情から打って変わってにこやかな表情に代わり、彼女達の元に駆けていった。
私はそんなステラを、呆れ半分感心半分で眺めていた。




