12-3
「アベル様のクラスメイトなんですの。どうかなさいまして?」
「単刀直入に申し上げます。リリアーヌ様はアベル様とはどのような関係なのでしょうか」
彼女は意を決したように、こちらをキッと睨みつけながら言った。突然の質問に面食らう。
「どのようなとは?」
「リリアーヌ様はジェラール殿下の婚約者ですよね。それなのに、最近アベル様と放課後も休日もべったり一緒じゃないですか。そういうのっておかしいと思います」
真ん中の少女が言うと、横の二人もうんうん同意する。
私はそこで彼女たちの意図を理解した。
多分、この真ん中のふわふわ髪の子はアベル様が好きなのだろう。だから、しょっちゅう勉強につき合わせている私のことが気に入らないのだ。
それでわざわざ私が一人になった隙を狙って文句を言いにきたらしい。
まぁ確かに、ジェラール様と正式に婚約解消できていない段階でアベル様のそばにいては、眉を顰められるのもわかるけれど……。
ジェラール様がなぜかなかなか婚約解消に応じてくれないので私にはどうしようもないのだ。
私はソファから立ち上がり、ふわふわ髪の少女の前に立つ。
「それが言いたくてわざわざこんな時間まで待っていたんですの?」
首を傾げて尋ねると、ふわふわ髪は眉間に皺を寄せた。
「そうですよ。だっておかしいじゃないですか。婚約者がいる方がアベル様に近づかないでください!」
「それならアベル様のいる時にでも堂々と意見してくればいいじゃありませんか。アベル様がいなくなった時を狙うと言うことは、後ろめたいことを言っている自覚があるんですのね」
じっと見つめてそう言ったら、ふわふわ髪は後退った。
すると、横の二人が彼女を庇うように前に立つ。
「話を逸らさないでください! 私たちはアベル様に、リリアーヌ様のような方に惑わせされて欲しくないんです!」
「あなたみたいな方がアベル様のそばにいたらアベル様に悪影響ですわ!」
二人が口々に文句を言っている。
「あなたたちに何の関係がありますの? 王子殿下の交友関係に口を挟める立場にあるとお思いですか? アベル様はあなた方に心配してもらわなくてはならないほど、判断力のない方ではないと思いますけれど」
私がそう言うと、彼女たちの顔が引きつった。
私はさらに足を踏み出して、ふわふわ髪の子に近づく。
「ねぇ、あなた本当は、自分がアベル様に近づきたいだけなんじゃないですか? 婚約者がどうとかなんて言い訳で、ただアベル様のそばにほかの女がいるのが気に喰わないのでしょう?」
私がそう言うと、彼女は目を大きく見開く。それから、みるみるうちにその目に涙が滲みだした。
「ひどいです、リリアーヌ様……! 私はただアベル様のことを考えて意見しただけなのに!」
涙目になるふわふわ髪を見て、私は若干焦った。
しまった、必要以上に煽ってしまった。リリアーヌに転生してからはどうしてだか、無闇にトゲのある言葉を使ってしまう。
リリアーヌの意識がそうさせているのだろうか。
私が困惑していると、ふわふわ髪は意を決したようにこちらをきっと見上げて言う。
「リリアーヌ様、あなたにとってアベル様は一体何なんですか」
「え?」
彼女の言葉に、一瞬面食らってしまった。
私にとってのアベル様?
そんなこと深く考えたことがなかった。アベル様はジェラール様の弟で、私も幼い頃から知っていて。それで、どうしてか知らないけれど、いつも私の味方をしてくれる。
どう思っているのかなんて聞かれても、私にもわからない。
何と答えたものかと思っていると、後ろから足音が聞こえてきた。
ちらりと振り返ると、アベル様が廊下の向こうからこちらへ向かってくるのが見える。
「あ、アベル様」
「えっ」
女の子たちはアベル様の姿を見て騒ぎ出した。
「アベル様が来たわよ!」
「どうしよう、こんなに早く戻ってくるなんて」
「戻った方がいいんじゃないかしら……!?」
彼女たちは青い顔で話し合う。それから顔を見合わせると、私に視線も向けないまま、勢いよく逃げていった。
後には私だけが残される。
彼女たちの後ろ姿を呆気に取られて眺めていると、後ろからぽんと肩を叩かれた。




