アフターストーリー(3/4): 高校入学
キュッ、キュッ
階段を上がっていくと、懐かしさを感じる音が体育館から聞こえてくる。
佑季の後に続いて歩結もフロアに入っていく。
佑季とは三年間バスケ部で一緒にプレーしていた。歩結と同じクラスになったことはなく学校生活で接することはないのだが、プライベートではそこそこ連絡を取り合っている。
フロアの手前のコートで男女バスケ部、向こう側で男女バレー部が練習を行っている。端に一列に並べられたパイプ椅子に、佑季と二人、奥から詰めて座った。
今、バスケ部は男女一緒にフットワークをしているところだ。
「選手、オア、マネージャー!」
ハロウィンみたいなノリで聞いてきたのは、マネージャーの女の人だ。
「選手希望です、お願いします」
歩結が戸惑っている間に佑季が即答する。
「私も同じです」
歩結も返した。
「おお~」
マネージャーさんは手をパチパチ叩いた。
「もう、入部は決まってる感じ、それとも他と迷ってる?」
佑季と顔を見合わせる。佑季が答えた。
「ほぼ決定って感じです」
「おおお~」
マネージャーさんは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。これは佑季とテンションが合うな、と歩結は思った。
「今、他に二人決定してて、迷っている子が4・5人いるって感じ。今日は来てないけど。まあいつ帰ってもいいからゆっくり見ていってね」
そう言ってマネージャーさんは離れていった。
「なんか雰囲気よさそうだね」
佑季がこそっと歩結に言う。歩結はうなずいた。
練習を見ていると、すでに1年生男子が数人混ざっていることに気づいた。同じ中学の人がいる。
少しして、横からマネージャーさんの声が聞こえてきた。
「選手、オア、マネージャー!」
「……選手です」
聞き慣れた声に、歩結は思わずそちらを向いた。
「遥っ」
佑季が声をあげると、マネージャーさんが振り向いた。
「おっ、知り合い?」
「中学一緒です」
佑季が返す。
「そっか。で、君はどう? もう入る感じ?」
「いや……まだ分からないです」
「そっか。まあゆっくり見ていってね」
マネージャーさんが離れていくと、佑季がちょいちょいと手招きし、四席空けて座っている遥を招いた。遥が歩結の隣に移動してくると、佑季は満足げに笑った。遥は佑季から歩結に視線を移し、目で問いかけてくる。知っているのか、といった感じだ。歩結は小さくうなずいた。歩結はまだ、佑季にしか言っていない。佑季はこう見えて口が堅いからだ。
「うおー」
なぜかは分からないが、佑季が隣で唸っている。
それからしばらく練習を三人で見る。フットワークが終わると、男女ハーフコートで分かれてランニングシュートの練習が始まった。
それも終わり一旦水分補給に入ると、筋肉質の背の低い男子が一人、見学席のほうに近づいてきた。遥たちの代のキャプテンの子だ。
彼は持っていたボールをこちらに投げた。遥がすぐに反応してキャッチする。
「ナイスキャッチ。遥、練習入れよ」
「……バッシュ持ってきてない」
「もー誘っても来ないし、来たと思ったら練習入らないし」
強く鋭いまなざしを、柔らかな瞳が見つめ返している。
「ほら、練習始まるぞ」
「いいか、明日はちゃんと持って来い」
彼は後ろ髪を引かれるように練習に戻っていった。
どうやら遥は、バスケ部に入るか相当迷っているらしい。中学のとき遥が練習熱心だったことを知っているから、歩結は少し意外に感じた。
それからしばらくして、「先に帰るね」と佑季が言い出し、佑季は先輩に会釈して、にやにやしながら逃げるように帰っていった。
対人練習をもう少しだけ見て、歩結と遥も体育館を後にする。
2人で話すのは、高校の合格発表以来だった。そのときのように、2人並んで自転車を漕ぐ。
「歩結は……バスケ部に入るの?」
「うん、そのつもり」
「……どうしてバスケ部に入るのか、聞いてもいい?」
「運動部には入りたいから……消去法かな。もちろんバスケも好きだけど」
「……そっか……俺も消去法ならバスケなんだけどな……」
なるほど。歩結は、遥が何を迷っているのか分かった気がした。
「バスケ部に入るか、それとも部活に入らないか――って感じ?」
遥は少し目を見開いて、それから目を細めた。
「いやー本当にそうなんだよ。どうしよっかな」
遥の瞳が、いつも以上に儚く、優しく見える。
「歩結が入るなら、俺も入ろっかな」
どうして、そこまで遥が悩んでいるのかは歩結には分からない。でも……
「いいよ、それで」
遥の軸が定まらないのなら、別に自分が使われてもいい。
「ありがとう」
とても気持ちのこもったその言葉に、歩結はうなずいた。そして、互いに発した言葉以上に、心が通じ合っている感じがして、歩結は嬉しくなった。
その後、バスケ部に入った遥が、熱心に誘われていた彼にめちゃくちゃ喜ばれ、そこそこ楽しく部活をしているのは、また別の話。




