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D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第2章 カーテン・フォール編

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112[2-46].一つの真実を隠すには、沢山の嘘が必要《ライズ・アンド・トゥルース》②



 ディアの腕の中から、ヘディの身体が引き剥がされていく。


「やめて!! 兄さん!! 兄さんっ!!」


 ディアが泣き叫ぶ。

 けれど、その声を無視して、タイオーの天使達はヘディの身体を持ち上げた。


 銀髪の頭が、力なく揺れる。

 もう目は開かない。

 呼吸があるのかさえ、遠目にはわからない。


 ユーサ達は、何もできずにヘディが回収されていくのを見るしかなかった。


「兄さん……やっと……思い出したのに……やっと……会えたのに……」


 ディアの瞳から、涙がぼろぼろと零れ落ちる。

 その一粒一粒が、遅すぎた再会の痛みみたいに石畳へ落ちていった。


 ――君は 何のために 生まれ変わった!


 ユーサの脳裏に、自分の中にいる悪魔の言葉が蘇る。


 前世。

 妻と、妻の兄とのやり直し。

 うまくいかなかった関係。

 取り戻せなかった時間。


 けれど今、自分はユーサ・フォレストとして生きている。


 妻のために。

 家族のために。


「でも、どうすれば……、ん?」


 その時だった。


 ユーサの視線が、ヘディではなく、ヘディがいた地面へ向いた。


 悪魔が灰となって崩れ落ちた、その場所。

 そこへ、天使と研究員がしゃがみ込んでいた。


 まるで何でもない作業みたいに。

 当然のような顔で。

 天使の秘宝石を(かざ)し、悪魔の灰を吸い上げるように回収していた。


 こちらを見ることもなく、その場を立ち去ろうとする連中。


「……待て」


 低い声だった。


 その場の何人かが、ぴたりと止まる。

 ユーサが睨み上げる。


「なんで……悪魔の灰まで持っていくんだ? それは、“()が倒した”悪魔の灰だぞ?」


 一瞬。

 天使と研究員の顔が引き攣った。


「ペイペイ? あれは結局、トドメを刺したのは……ユーサさんじゃなくて、ディアさんの……」

「!? ペイシン。……静かに」


 エヂヒカが何かを察して、ペイシンへ視線を送る。


 二人の声が耳に入っていなかったのか、教会側の天使が、すぐに何事もなかったみたいにユーサへ言い返す。


「……証拠品としての回収だ。お前が教会へ運ぶ手間を省いてやったんだ。後ほど討伐報奨金も渡す」


 あまりにも自然な言い方だった。

 だが、その態度は、まるで最初から自分達の管理物として扱っていたみたいに自然だった。


 ユーサの目が細くなる。


「……だったら、なんで最初に言わなかったの?」


 静かな声だった。


「指摘されるまで黙ってた時点で、横領してるのと同じでしょう?」


 先頭の天使の顔が、ぴくりと引き攣った。

 研究員も黙るが、ユーサの圧にわずかに慌て始める。


「尋問と拷問だの、研究機関に運ぶだの、好き勝手言って。今度は悪魔の灰まで黙って回収するんだね。タイオーの教会人達は」

「き、貴様……! 何を言い出すかと思えば……! これは必要な業務だ! 何も知らない部外者が! 治療もできないクズどもの代わりに助けてやっているんだぞ!!」

「助けるんじゃなくて。ヘディさんを利用するつもりなんでしょ?」


 ユーサの声は静かだった。

 反対に、教会側は怒りに任せて、冷静な言葉が出てこなくなる。


「図星だから怒ってるようにしか見えないけど」

「貴様に説明する義務はない!」

「説明しなくていいよ」


 そこで、ユーサは懐へ手を伸ばした。


「今ので、アンタらが嘘をついてるってことは……もう、わかってるから」


 取り出したのは、掌に収まるほど小さな人形だった。


 人形ヒア・ユア・ボイス


 裸の赤子を模した、小さな秘術道具。


 タイオー側の視線が、一斉にそこへ集まる。


「……それは」

「悪魔になったザドキ・エル最天使長の本音を聞くために使ったことがある、ギアドの秘術道具だよ」


 ユーサが静かに言う。


「この前、店に寄った時に……試作型の改良版を受け取ってたんだ」

「……っ」

「ギアドが、教会の看破の奇跡道具を真似して作った秘術道具だよ」


 その一言で、数人の天使の顔色が変わる。


 ユーサは、まっすぐタイオーの天使達を睨んだ。


()()()()()()()()()のは変わらないから、無闇には使えなかったけど……」


 そして、吐き捨てるように言う。


「アンタらが、嘘をついてるっていうのは……お見通しなんだよ」


 その言葉が終わると同時に、


 ――パキッ。


 人形が、ユーサの手の中で砕けた。


「……っ!?」

「な……!?」


 タイオー側がざわめく。


 焦り。

 苛立ち。

 ほんの一瞬だけ浮かんだその表情を、ユーサだけではなく、エヂヒカも見逃さなかった。


「壊れた。……つまり、そういうことだよ」


 ユーサが低く言う。


「で? 本当のことを言ったらどうなの?」

「な、何を言っているんだ貴様は!? その道具こそ嘘に決まっている!!」


 タイオー側の声が、明らかに上ずる。


「……僕も、ギアドの新作は見ています」


 エヂヒカが補足するように、静かに口を開く。


「貴重な素材を使うので量産は難しい現状ですが、いずれ自警団やギルドでも活用する予定です」

「……っ」

「その秘術道具の効果は、教会の看破の奇跡道具に引けを取りませんよ」


「ふざけるな!! こんな出鱈目で我々を誤魔化そうなど!!」


 一人の天使が怒鳴るように声を荒げた。


「あのさ」


 ユーサが、一歩前に出る。


「叫んでないで、そろそろ本当の理由を教えてもらって良いかな? ヘディさんの命がかかってるんだから」


 その目が、据わる。


「もし、アンタらが教会に潜む悪魔のスパイなら……」


 ユーサの背中から、魔王みたいなオーラが浮かび上がった。


「安らかに……楽に……死ねると……思うなよ」


 空気が凍りつく。


 その圧力に圧倒され、ほとんどの天使と研究員は、観念するみたいに動けずにいた。


「黙れ!! ダ・エルの方が、悪魔側のスパイである可能性が高いだろう!!」


 先頭の天使が、今度は完全に冷たい目でユーサを睨み返す。


 研究員の一人が、ユーサを値踏みするような目で見た。


「むしろ興味が出たな。秘魔(アークま)という特異個体。感情変動に伴う秘力と魔力上昇、異常な神秘術出力……それに今の反応。……この者もタイオーへ連行するべきです。尋問と検査対象として十分価値がある」


 ディアが息を呑む。


「!? 兄さんだけじゃなくて、……どうして!?」

「うるさい!! 特別天使だろうが何だろうが知るか! タイオーの判断に楯突いた時点で、こいつも同罪だ!! ソイツも連れて行け!!」


 数人の天使が、ユーサを拘束しようとした。



 その瞬間だった。




 ――カラーン。




「 《 争いよ 止まれ 》 」




 ――カラーン。




 聞き覚えのある鐘の音が、路地裏に響いた。


 その場にいるほとんどの者が、ぴたりと動きを止める。

 まるで、時間そのものが足を止めたみたいに。


「聞き捨てならない言葉が聞こえたよ。確認した方が良さそうだね」


 静かな声だった。

 けれど、その一言だけで空気が変わる。


「ダ・エルは余の部下だよ。タイオーには、出向してもらっている程度なんだ」


 そこに立っていたのは、シ・エルだった。


 いつもの飄々とした空気のまま。

 なのに、誰一人として逆らえる気はしなかった。


「それに、ユーサも余直属の“特別天使”だよ? 余に一言あって良いよね?」


 シ・エルが、緩く笑う。


「あはは。余の部下を、余に無断で研究対象扱いとは。なかなか大胆だね」


 その目が、細まる。


「それに、君達が、ジルの葬儀でザドキ・エルの神の奇跡を()()()()()()()()ばかりで構成されているのも……バラキ・エルの指示かな?」

「シ……、シ・エル……、最天使長!?」


 先頭にいた天使だけが、かろうじて口を動かせていた。


「おや? 君は他の天使達と違って、まだ少し動けそうだね?」


 シ・エルは優しい口調のまま、笑顔を崩さない。


「聞いても良いかな? 誰の命令だい?」

「……答えられません」

「なるほど」


 シ・エルが、楽しそうに頷く。


「最天使長である余の質問に返答できないとなると、余と()()()()()の者か、それ以上の者の命名しかいないね。天使教皇様ではないだろうから……やはりバラキ・エルかな?」

「……っ!?」

「あはは。バラキ・エルとフォールス・エルにも連絡が取れないのも、これで合点がいったよ」


 先頭の天使が、思い当たる節でもあるのか、目に見えて怯え始める。


「ん? あぁ、気にしないで。別に余は怒ってないよ」


 そう言いながら、シ・エルは不気味なほど穏やかに笑った。


「むしろ嬉しいんだ。最天使長会議で、バラキ・エルにも言っておいたと思うんだ」


 シ・エルが土星型の鐘へ、そっと触れる。


「もし、余の部下になった特別天使のユーサに手を出したら――教会に潜む悪魔のスパイとして、正当防衛をさせてもらうよ」


 その場にいるタイオーの天使達の顔から、血の気が引いた。


「これは最天使長同士の契約には該当しないからね。思いっきり、やらせてもらう……って言ったはずだよ?」


 その言葉の意味を理解した瞬間、タイオーの天使達は、この世の終わりみたいな顔になった。


「楽しみだなぁ。余の予感では、バラキ・エルは最天使長の中でも一番か二番目に戦闘力があると思っているからね。

 余の鐘に七回耐えられるのは、バラキ・エルが最初になるかもと思うと……ワクワクしてきたよ」


 口調は優しい。

 なのに、まるで今から戦争が始まる前の狼煙を見ているみたいな空気に、天使達は失神しそうになる。


「だから、バラキ・エルに伝えておいてくれるかな?

 言い訳……じゃなくて、返答を楽しみにしているよ……ってね」


 シ・エルが、にこやかに手を振る。


「あぁ、君達は帰って良いよ。でも、ダ・エルは置いていってね」


 シ・エルが土星型の鐘に手を触れさせ、時間停止を解除する。


「ダ・エルの出血と命は、余が止めているから、あとはこちらで何とかするよ。じゃあね。あ、そうそう」


 最後に、ふっと微笑んだ。


「余は、一度会った人の顔を忘れたことがないから。必ず、言伝をお願いね」


 シ・エルはヘディをペイシンに預けて、タイオーの教会人がその場を去るまで手を振っていた。


 帰る足取りさえ震えていた天使と研究員達は、そのまま路地の向こうへ消えていった。


 タイオーの一団が去り、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ、その時だった。


「ところでさ、ユーサ」


 シ・エルが、いつもの調子で口を開く。


「あの秘術道具。壊れたんじゃなくて、()()()()()()んだろ?」


 ユーサの眉間に皺が寄る。


「余もびっくりしたよ。なかなかの役者じゃないか」


 シ・エルは、今度はエヂヒカの方を見て、楽しそうに目を細めた。


「あと、“アキ・エル”も、それを見抜いて即興であそこまで言えるんだから凄いね。俳優になれるんじゃないか?」

「ご無沙汰しております、シ・エル最天使長。お褒めに預かり光栄です。ただ……俳優はちょっと。今はウェイターをしております」


 エヂヒカが、英国紳士のように胸に手を当てたまま、綺麗にお辞儀をする。


「あ。エヂ様の“()使()()”か。そういや、その名前で呼ばれるの久しぶりで忘れてた」


 ペイシンが、ヘディを背中に担ぎ直しながら思い出したように言う。


「あはは。悪いね。教会の命令で特例天使をして潜伏しているところ。きっとお店でも評判が良くて繁盛してるでしょう? 今度、手が空いたら、お店に――」


「おい。シ・エル」


 シ・エルが嬉しそうに世間話をしていることに、ユーサの額に青筋が浮いた。


「見てたなら……もっと早く助けろよ」


 低く、苛立ちを押し殺した声だった。


「ディアは泣いて、ヘディさんは死にかけて、タイオーの連中は好き勝手するし。……全部、見てたんだろ? なんで早く助けなかった?」


 シ・エルは、その怒りを受けて、むしろ少し嬉しそうに笑った。


「うん。実に()()()()だ。タイミングを見計らっていたんだ。余は、空気を読むのが上手いと言われるからね。あはは」


 その一言で、ユーサは半眼になった。

 またしても、自分の感情がこの男の琴線に触れたのだと悟る。


「余はね。そういう“誰かのために怒れる君”が見たかったんだよ」


 ユーサが、じとっとした目で睨む。


「……だから、早く助けなかったのか」


 シ・エルは一瞬だけ嬉しそうに目を細めた。

 だが次の瞬間には、すっと真顔に戻り、ディアへ視線を向ける。


「それじゃあ、ディアさん。ナザ病院まで先導してもらえるかな?」

「……え」

「余の力では、ダ・エルの傷を治せない。今はク・エルもいないからね」

「あ……、はい。わかりました」


 ディアは急に呼ばれたことに驚きながらも、涙を拭って走り出した。


「では、急いで病院に向かおう。余の力も長くは持たないからね。優秀な部下を失いたくないし」


 そこで、シ・エルはユーサ達を見た。


「君達も、ダ・エルに聞きたいことがあるでしょう?」


 その言葉に、ユーサは黙る。

 何か言いたいものを、今は飲み込むように。


 ラムタに肩を借りながら、ディアの後を追った。



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