110[2-44].消えない過去を撃ち抜くように《シュート・ミー》
分割した前回の続き。
「 《 この熱量には敵わない。冷めた引き金ひとつで、さよならだ 》 」
悪魔の指先が引き金を引くように曲がった瞬間。
擬似太陽――【全てを焼き尽くすイカれた太陽】が、空へ解き放たれる。
誰の目にもわかった。
あれは、嘘じゃない。
あの熱は、本物。
――次の瞬間、自分達は消し炭になる。
その直感すら、焼き尽くしそうな“終わり”が、夜空に浮かんでいた。
ユーサは即座に、悪魔ではなく空へ指先を向けた。
優先すべきは一つ。
あれを消すこと。
「 《 ー 僕を生かせるのも 殺せるのも 自分次第 ー 》 」
左手に、神秘の結晶が集まる。
【神秘術:人間の現界を超える領域】
「 《 ー 弱い自分を 撃ち抜くように ー 》 」
神秘術で魔力を秘力で補いながら、ユーサは【魔法:昇天という魔弾丸】を空へ放った。
時空が歪むような、異次元の発砲音。
空に浮かぶ擬似太陽へ向けて、魔弾が一直線に走る。
――だが、その魔弾は途中からわずかに勢いを失い始めていた。
「なっ!?」
届きそうで、届かない。
その場にいる全員が、その絶望を理解してしまう。
「AHAッ!! 自分の術も把握していないとはな!」
悪魔が腹を抱えるように笑った。
「強力な術ほど何かしらデメリットがあるっていうのを知らないのか? 貴様の術は、強力だが弾丸としての飛距離はそんなにないそうだな!!」
「……っ」
その言葉に、ユーサの脳裏へ、昨夜のシ・エルの声が蘇る。
ー 「だからユーサ。君が強力だと思う余の術や力にも、弱点がある」 ー
ー 「今後、強すぎる術を使う者ほど、制約や条件があると思ったほうが良い」 ー
ー 「余なりの罪滅ぼしとしての助言だよ」 ー
まさか、自分の術まで。
その助言が返ってくるとは思っていなかった。
届かない。
このままでは、届かない。
「っ!?」
諦めかけた、その時だった。
右腕から、脳内へと魔力が共鳴し始める。
ユーサの目の前に、文字が見えた。
ー ユーサ 君はこの異世界で やり直しをしたかったんだろう? ー
「……!」
エデンから復活する時。
ジャンヌに言われた、自分の中にいる悪魔との対話。
それが、この絶望的な瞬間に花開いた。
ー ヘディは義兄じゃなかった でも 君は前世での義兄との関係をヘディに重ねた ー
ー やり直したかった気持ちまで、“嘘”だったのかい? ー
まるで、ユーサを励ますように文字が語りかける。
ー ユーサ 弱い自分を撃ち抜くだけじゃダメなんだ ー
ー 消えない過去を撃ち抜くぐらい 君の灼熱の想いを詰め込め! ー
「でも……、どうやって……」
ー 君は 何のために 生まれ変わった! ー
ユーサは、ディアとヘディを見た。
それから、自分の指先を見る。
ー 明日のことなど考えるな! 今この瞬間だけを考えろ! ー
魂を込める勢いで、指先に力を込めた。
ー ひび割れた記憶の痛みを ー
ー 消えない過去を撃ち抜くように ー
ー 力を目覚めさせろ!! ー
言葉に呼応するように、【ラーマの指輪】が共鳴する。
秘力と魔力が、さらに上昇していく。
赤の秘力と黒の魔力が、指先でさらに深く混ざり始めた。
「消えない過去を……撃ち抜くように!! 届け!!!」
ユーサの叫びと共に、撃ち出された細いブラック・ピストルの魔弾と軌跡が太くなる。
そして、【全てを焼き尽くすイカれた太陽】に引っ張られるように、天へ伸びた。
「な、、何ー!! 伸びた!!?」
魔弾が届く。
そして。
夜空の【全てを焼き尽くすイカれた太陽】へ、【昇天という魔弾丸】が突き刺さった。
音のない消滅。
空に浮かんだ太陽が、最初から存在しなかったみたいに、消える。
「な……っ!? 術を……消した、だと……!?」
悪魔の笑みが、初めて完全に凍った。
「た、助かった……ありがとう」
ー 別にいいよ その代わり ー
その言葉に反応するように、文字が浮かぶ。
ー 順番がきたら 変わってね ー
「え? それって、どういう……」
その直後、ユーサの身体から力が抜ける。
「……ぐっ」
膝から崩れ落ち、地面に顔をつけた。
指先から感覚が消えていく。
ブラック・ピストルを撃ち切り、さらに指輪の共鳴まで引き出した反動。
精魂尽き果てたように、ユーサは完全に倒れた。
悪魔が嗤う。
「GUッ……ハァ、ハァ……術は消されても……お前は倒れた」
悪魔は足元の氷を、ヘディ経由の太陽の力で溶かしていく。
さらに、ヘディに傷つけられた足も黒い魔力が再生させていく。
「なら……勝機はまだある!!」
そして、倒れたユーサへ踏みつけるように襲いかかった。
「死ねえ!! ユーサ・フォレスト!!!」
「あなた!? 危ない!!!」
「ディア!?」
ディアがユーサを守るように盾になった。
誰もが、最悪の瞬間が訪れたと思った。
――だが。
悪魔の足が踏み抜いたのは、何もない地面だった。
「な、、なんだこれは!?」
地面へ叩きつけられた音と共に、悪魔の驚く声が反響する。
「ははは。自分の術も把握していないとはな! 強力な術ほど何かしらデメリットがあるっていうのを知らないのか?」
先ほど悪魔がユーサへ浴びせた言葉が、今度はヘディの口から返ってくる。
「理解できずに奪ったことが、仇になったな」
悪魔の身体の半身が、軋みながら橙へ戻る。
「【全てを焼き尽くすイカれた太陽】は、威力を上げるほど、視力を奪うんだ。ザキヤミの街を滅ぼそうとした分、貴様の視力は奪われたんだよ」
ヘディが血を吐きながら嗤う。
「オレは光を操れるから視力操作でなんとか見えているが、魔力で信仰力を補って発動させたのが仇になったな。オレがこうやって話せているのも、お前の魔力が尽きかけている証拠だ」
「ヘディ!? 貴様……!!」
弱った悪魔から、ヘディが体を奪い返そうとする。
黒と橙が、同じ肉体の中で軋み合う。
「【全てを焼き尽くすイカれた太陽】の代償も知らずに奪った時点で……お前の負けだったんだよ」
「ふ……ふざけるな!! 我様は……まだ……まだ……!!!」
悪魔は咄嗟に、第三、第四の手を生やしてヘディを殴りつけた。
だがヘディは笑ったままだった。
蝙蝠の紋章が刻まれたペンが、再び橙色の輝きを放ちながら、槍のような長さへ変わる。
「NAっ!? 馬鹿な真似はやめろ!! お前も死ぬんだぞ!?」
「何言ってんだ、この悪魔は。悪魔に支配された時点で、死んだも同然なんだよ」
ヘディは、勝ち誇ったように返した。
「これに懲りたら……天使を支配しようなんて、傲慢な考えはやめるんだな」
そのまま。
ヘディは、自分の胸を貫いた。
槍が、自分ごと悪魔の核を貫通する。
「AAAAAAAAAAAッーーーーーーー!!!!!!」
「破壊……、完了……」
悪魔の断末魔。
ヘディの嗤い。
橙と黒の魔力が、灰になりながら崩れていく。
倒れる間際。
ヘディは一度だけ、ユーサとディアを見て、笑った。
そして。
ヘディと悪魔は、血と灰の中へ倒れ込んだ。




