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第76話 「あなたはお飾りじゃないってことが証明されているわ」

Side.復興大臣時代

「――それでは、魔族の市場(いちば)の限定開催については先ほどのものとする。以上、解散」


 進行役の大臣の号令に合わせて、大臣たちは足早に部屋を去っていく。末席(まっせき)に座っていたレックスも、大きく伸びをする。


「レックス殿、このあとのご予定は? 空いていれば今日の会議について議論しませんか?」


 立ち上がろうとしたところで一人の大臣に声をかけられる。声をかけたのは、実務を任されている復興大臣。

 レックスは象徴的な復興大臣のため、政治面に大きく関わることはない。そのため、大臣が会議や会合では出席することがほとんどである。


「すみません、今日はマリカたちと会う予定があるんです。明日お願いできますか?」

「もちろんです。では、明日話をしましょう」


 お疲れ様でした、と大臣は部屋を出ていく。

 レックスは再び椅子に腰掛けてぼんやりと()の光を浴びていると、扉を叩く音がした。


「レックス」


 扉が開いて顔を覗かせたのはマリカだった。


「会議、お疲れ様」

「あぁ、ありがとう」


 マリカはそのまま部屋に入り、先ほどまで大臣が座っていたレックスの向かい側に座る。


「魔族が市場を開くんですってね」

「早いな。もう話がいってるのか」

「提案したのが私とヒスイさんだからよ。無事に決まって良かったわ」

「なるほど、そういうことか」


 マリカとヒスイが共同で提案したのなら、立案がやけにしっかりしていたのも頷ける。マリカの案なら会議をせずとも通りそうだが、そこはヒスイの立場も考えて提案したのだろう。


「これでジャスパーさんたちも喜ぶわね」

「そうだな。ルチルのみんなのためになるといいな」


 マリカは机に手を置きながら微笑(ほほえ)む。


「レックスも会議に参加するようになって、すっかり復興大臣ね」

「俺はなにもしてないよ。俺はたまに意見を求められるだけだし」

「それだけでも十分よ。あなたはお飾りじゃないってことが証明されているわ」


 称賛(しょうさん)してくれるとは思わず、レックスは少し照れくさくなる。自分なりに精一杯やっているつもりだから、そう言ってもらえることがなによりも有り難かった。


「そろそろヒスイさんのところに行く時間だな」

「私もついていくわ。ヒスイさんに案が通った話もしなくちゃ」


 レックスとマリカは部屋を出て、王宮の中庭へと向かう。そこにはヒスイがいて、レックスたちの姿を確認すると小さく手を振った。


「今日はマリカさんも一緒なんだね」

「私は報告に来ただけよ。先日の提案が無事に通ったわ」

「そうでしたか。それは喜ばしいことだね」


 ヒスイはにこやかな笑顔でマリカの話を聞く。表情には出ていないが、声はいつもより(はず)んでいる気がした。


「さて、今日も魔法の訓練をしようか」

「私は仕事があるからこれで失礼するわ。レックス、また夜にね」


 そう言って、マリカは中庭から立ち去る。マリカを見送り、レックスとヒスイは自然と向き合う体勢になる。


「そうか。今日はあの日だったね」

「はい。だからいい報告ができるといいなと思ってます」

「じゃあ、僕も頑張らなければいけないね」


 レックスは手を胸の前に差し出して目を閉じる。大きく息を吐き、強く念じる。

 しかしなにも起こらず、優しいそよ風がレックスのヒスイの(ほお)()でるだけだった。


「今日も駄目(だめ)かもしれないね」

「……そうみたいですね」


 レックスはがっくりと肩を落とす。


「一年経っても魔力が戻らないなんて、古代兵器との戦いは相当なものだったんだね」


 ヒスイは(まゆ)を下げて(つぶや)く。

 レックスの脳内には古代兵器との最後の戦いが浮かぶ。古代兵器の残骸(ざんがい)を破壊し、最後に心臓を破壊した。一度目とは違う、父から受け継いだ封印魔法を使って。

 そのときにレックスは全ての魔力を失ってしまった。古代兵器を倒した代償か、それとも別の理由があるのか、レックスたちは《いま》未だに分からなかった。


「きっと封印魔法を使ったときに魔力も一緒に封印しちゃったんでしょうね。魔力がない魔族っていうのも珍しくていいと思います」

「冗談にしては笑えないよ」


 ヒスイにちくりと言われ、レックスは「すみません」と苦笑する。

 冗談にしなければやっていられないと、レックスは心のどこかで思っていた。魔族の生きる力である魔法が使えないなんて、恥晒しと言われても仕方ない。

 幸運にも、そう言ったことを言う(やから)はレックスの周りにはいなかったため、レックスは多少心が穏やかでいられた。

 それでも、魔法が使えないことの衝撃と悲しみは簡単には()えなかった。


「魔力はゆっくりと時間をかけて回復すると信じているよ。一生かかる可能性もあるが、それも受け入れる必要はあるかもしれないね」

「そうですね。この調子だと一生かかる気がします」

「焦っても仕方ない。僕はいつ使えるようになってもいいように支えていくよ。今は王宮専属の魔法使いだから、いつでも頼ってね」

「ありがとうございます」


 その後はヒスイの魔法を模倣(もほう)し――使うことはできなかったが――魔法の訓練は終了した。

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